第27話 大漁だ
とりあえず……せっかくつかまってくれてるんだし、一旦引き上げるか。
俺は「飛行」で高度を上げ、イカを海から引きずり出した。
引きずり出した後も、イカは執拗に俺に猛攻を加えてくる。
それを適当にいなしつつ……俺は、かつてSNSでバズっていたとある動画を思い出していた。
確かイカって、頭の付け根あたりをチョップすることで神経締めできてたよな。
色が透明だか白だかに変わるのが、神経締めが上手くいってるサインだったはずだ。
それやったら、クラーケンもおとなしくなるんだろうか?
ものは試しでやってみよう。
俺はイカを空中高く放り上げると……その首元へと一直線に飛んでいった。
そしてそこに、空手チョップをお見舞いする。
すると……さっきまでの暴れようが嘘みたいに、イカはぐったりと動かなくなった。
更にその直後、イカの全身が真っ白に染まった。
上手く締めることができたみたいだな。
ひとまずはこの状態で収納して、どう捌くかとかは後で考えるとしよう。
「収納」
そう唱えて俺は、イカをアイテムボックスに収納した。
さあ、今度こそ素潜りを始めるか。
「ちょ……な、なんでそのイカ今の状態で収納できるんですか!」
と思ったのだが……いざ海に飛び込もうとした瞬間。
俺がイカを収納したことに対し、ヒマリがそんなツッコミを入れた。
「なんでって……なんか不思議な点でもあったか?」
「ありましたよ! 今の締め方だと、イカは仮死状態にしかなりません。……収納には生きてるものは入らないはずなのに、なんで今ので入れれちゃうんですか!」
聞いてみると、ヒマリは不可解な点を詳しく聞き直してきた。
それを聞いて、俺は少し考え込む。
その末に出したのは、こんな結論だった。
「俺の収納にとっては、死んでる扱いなんじゃないか?」
だいたい、死の定義なんてのは曖昧なものなのだ。
仮に死を「通常の生命の活動状態に戻れない状態になること」と定義するならば、時代によって何を死とするかなんて簡単に変わってしまう。
AEDの無い縄文時代なら初期の心停止だって「死」に該当するだろうし、遠い将来脳細胞一個から人体を完全復元できるようになれば、今「死」とされている状態の大半は「死」とは呼べなくなるだろう。
それくらい、死とはフレキシブルな概念なのだ。
だから俺の収納が今のイカを「死」んでいると判断したとしても、おかしくはないというわけだ。
おおかた、INTによってどう「死」を定義するかが変わったりするのだろう。
「INTが高いほど、低い文明レベルにおける『死』の定義が採用され、収納できるものの条件が緩くなる」とかなら、仮死状態のイカを入れられたのも説明がつく。
「マサトさんの前では、収納魔法の条件すら変わってしまうんですね……。もうマサトさんの凄さで驚くことはないと思ってましたけど……ワタシの負けのようです」
「何と戦ってるんだよ」と喉元まで出かかったが、俺はその言葉を飲み込んだ。
ヒマリも(おそらく)納得したんだし、そんなことより今は次の獲物探しだ。
海面に目をやると……そこにはすでに、薄い氷が張られようとしていた。
構わず俺は「飛行」で氷の膜をぶち破り、海の中へと突入する。
思った通り、海水の冷たさは、特に耐えられないと感じることものではなかった。
六月の雨の日のプール程度には冷たいので長居はしたくないが、落ち着いて魚を探す程度なら十分可能だ。
「あっ、あれは……」
しばらく海の中を
鑑定によると、片方はワカサギ、もう片方はアジのようだ。
参戦して、何匹かとっ捕まえるか。
そう思っているうちに、更に状況は一変する。
なんと今度は、漁夫の利を狙ってそこにマグロが乱入したのだ。
マグロの乱入により、アジとワカサギの魚群は、散り散りに逃げようとし始めた。
「……今だ!」
一気に魚群に迫ると、俺はマグロを筆頭に何匹かの魚を、ヒレから剣を刺して活け締めにした。
どうせアイテムボックスの中は時間が停止してるんだし、血抜きは街に帰ってから専門の業者にやってもらおう。
などと思いつつ、俺は活け締めにした魚全てをアイテムボックスに収納した。
……あとは、えび天も食いたいな。
最後に俺は、海底を一通り探索してえびを何匹か捕まえ、海上に戻ることにした。
海上に戻ると真っ先に浄化魔法を使い、体と服の水分・塩分を飛ばす。
「ヒマリ、帰ろうか」
「収穫はばっちりなんですね! 分かりました!」
そして俺はヒマリに乗ると、帰路についた。
……黒豆と小麦があれば醤油も作れそうだし、マグロなんかは刺身にしてもいいかもな。
食べ物のレパートリーが広がりそうで楽しみだ。
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