遠距離恋愛をしていた彼女が黒ギャルになって帰ってきた件~僕の彼女寝取られてないですよね?!~

結石

変化1.彼女の旅立ち

「じゃあ……もう行くね?」


 目尻にうっすらと涙を浮かべた彼女が、僕に別れを告げる。


 僕はその涙をなんて美しいのだろうかと思うと同時に、彼女が離れてしまう寂しさを感じていた。


 彼女は涙を浮かべているだけで泣いていないのに、僕は泣いてしまっている。その差が情けなくて、我ながら女々しいが……正直に言うと寂しいのだ。


 そう、大切なことだから二回言うけど僕は寂しいのだ。


 ずっといたはずの彼女の居ない生活に、これからの僕は耐えられるだろうか?


「佐久間さん……行っちゃうんだね」


「もう渋木君ったら、私より泣いてどうするのよ。相変わらず泣き虫だなぁ君は。仕方ないじゃない、大学が別れちゃったんだからさ」


 まるで子供をあやすように、ため息をつきながら僕の彼女……佐久間さくま霧華きりかさんが僕の頬をそっと撫でる。


 泣いている僕……渋木しぶき剛司たけしは彼女の手の温もりを確かめるように、彼女の手に自分の手を重ねた。


 情けなくも彼女から指摘される通りだ。僕は彼女よりも泣いてしまっている。


「そうだけど……そうだけどさぁ……。ずっと一緒だったから、寂しいんだよ」


「渋木君は本当に強そうな名前に反して繊細だよねぇ。私が居なくても、君にはアニメの嫁がいっぱいいるじゃない?」


「いや、アニメの話をここでされるとは思わなかったんだけど……。感動的な場面だよここ? それにアニメの嫁はファン的な意味で、好きなのは佐久間さんだけなんだよ?」


 僕の言葉に佐久間さんは頬を少しだけ染めて、はにかむように笑顔を浮かべた。


 彼女の腰まで伸びた長い黒髪をいじりながら、少し茶色がかった大きな瞳で僕を見つめ返してくれる。この優しい笑顔が僕は大好きだった。


 静かで、清楚で、優しくて、ちょっとお茶目で……学校での人気者の、僕にはもったいない彼女だ。


 対して僕はアニメや漫画やゲームが好きな一オタクで……よくもまぁ、彼女は僕の告白をOKしてくれたものだと、今更ながら思う。


 僕も告白できたなホント。勇気を出してよかった。友達連中からは抜け駆けしやがってと詰め寄られたけど。


 彼女と僕は時には喧嘩することもあったけど、三年間の間に大きな波乱も別れる話が出ることもなく、ずっとお付き合いを続けてきた。


 ……結局僕がヘタレなせいで、ずっと苗字呼びのままだったのは心残りではあるが。


「別れるわけじゃないし……。今は連絡手段だっていっぱいあるんだよ。それとも、私との遠距離恋愛は嫌かな?」


 その聞き方はずるい。


 僕は彼女が好きなのだ、遠距離恋愛だって彼女と繋がれているのならそれでいいんだ。理屈ではそう分かっている。


 それでも、涙は出てきてしまう。


「私だって寂しいんだよ? 夏休みには絶対に帰ってくるから。その時にはいっぱいデートして、ずっと一緒にいようね?」


 微笑んだ彼女のその言葉に、寂しいのは僕だけじゃないと今更ながら気付かされる。そうだ、佐久間さんだって寂しいんだ。


 と言うか、寂しいと思ってくれてるんだ。少し子ども扱いされるようなときもあったから、その事実が何よりも嬉しい。


 優しい言葉をかけてくれる彼女に、僕は強がるように無理矢理に笑顔を浮かべた。


 涙は止まらないけど、それでも彼女を心配させないように、僕は笑った。


「うん……僕も大学から一人暮らしを始めるからさ。佐久間さんを泊める事だってできるよ!」


「渋木君の一人暮らしって、なんか心配だなぁ?」


「いや、僕だって一人暮らしくらいできるよ……そこまで子供じゃないさ」


「そういう意味じゃないんだけど……まぁいいか。じゃあ、楽しみにしてるよ」


 最後に彼女は僕を優しく抱きしめる。身長は僕の方が少し高いから、彼女の甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐった。


 最後だしと堪能するように彼女の匂いを胸いっぱいに吸い込み、忘れないように僕も彼女を抱きしめ返して彼女の温もりも確かめる。


 ……ちょっと気持ち悪がられないかが心配だけど、仕方ないよね。


 こうやってるとやっぱり離れたくないなぁ……。でも我慢だ。辛いのは彼女も一緒なんだから。


「じゃあ行くね? 浮気しちゃダメだからね?」


「するわけないでしょ……行ってらっしゃい。佐久間さん」


「うん、行ってきます!!」


 抱擁を終え、最後に軽くキスをして、爽やかな笑顔を残した彼女はそう言って旅立っていったのだった。

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