無能と呼ばれた僕の楽しい組織再建~横暴な先輩冒険者達が出て行ったので、僕は幼馴染達と最強の組織を作り直します。戻りたい?今更あなた達の席はありませんよ?~

結石

再建1.あなたの席はもうありません

「なんで……なんで俺が……なんでこの俺が!! 無能のお前なんかに……!! ロニィィィィ!!」


 僕を無能と呼び、下っ端と呼び、散々バカにしてギルドから出て行った元先輩が地面に倒れている。


 倒れたまま、怨みの籠った視線で僕を睨みつけてきた。


 自然と僕は先輩を見おろす形になり、その姿勢がますます癇に障ったのか彼の表情は一層険しくなっていく。


 視線で射殺せそうな雰囲気だ。


 僕等の周囲には、僕と戦った人達……全員が倒れている。


 彼等はのように全員で僕と戦って……そして負けた。


 あの日と逆なのは、倒れているのが彼等だという事だろう。


 先輩は苛立たし気に立ち上がる。この人達を倒せば……すべて終わりだ。


 彼等と僕等の因縁にも、それでようやく決着が着く。


「先輩、今までありがとうございました。僕は先輩達のおかげて……ここまで強くなれたんです」


 その言葉は、僕の嘘偽りない本心だ。


 先輩が出て行った時に僕は、内心で彼等を見返してやると決意した。


 悔しい気持ち、悲しい気持ち、それでも前を向いて歩こうという気持ち、それらすべてをバネにして進んできた。


 だから僕がここまで強くなれたのは、彼等のおかげなのは間違いない。


「調子になるなよこの無能……!! はお前に勝てさえすればいいんだ!! どんな手を……どんな手を使ってもな!!」


 先輩が叫びながら剣を振りかぶった瞬間を見計らい、僕の背後で倒れていたはずの女性の手から大きな炎の魔法が放たれる。


 作戦としては一人が気絶したフリをして、背後から僕を魔法で攻撃して……魔法が当たった隙に先輩が剣を振り下ろし僕を斬り伏せる。


 きっとそんな作戦だ。


 でもそれは、僕が気付いていないという条件付きで有効な手段だ。


 僕には


 その魔法に気づかないふりをして、無言で背後から迫りくる火球をギリギリで身体を捻ることで避け、先輩のみへと炎が当たる様に誘導する。


 僕の回避行動に先輩は驚いたようだけど、だけど彼もさすがと言うべきか……褒めたくはないけどギリギリでその火球を剣で斬り裂いた。


 僕は気絶したフリをしていた女性の元へと素早く移動すると、その首元へと剣の柄を当てて、今度こそ本当に気絶させた。


 くぐもった悲鳴が聞こえた後に、彼女は沈黙した。これでもう、変な罠は無いだろう。


「……チッ……バレてたのか。役立たずめ」


 分かってわけでは無い、全部見えていたってだけだ。


「先輩、随分と姑息な手を使うようになりましたね。いや、元からでしたか……?」


「うるせぇよ、調子乗んな無能が。今のどうやって避けたんだよ? インチキでもしたのか? それともただのマグレか?」


「戦いの最中に手の内を晒すわけないでしょ」


「そりゃ違いねぇ。でも随分調子こいてんな? お前みたいなやつが達人気取りか? 俺に勝てるつもりでいるのか!!」


 昔は怒鳴り声に身がすくんでなにもできなかった。


 今なんてあの頃と違い怒鳴り声だけじゃなく、ありったけの殺意を込めて僕は睨みつけられている。


 きっと、本当に僕を殺す気なんだろう。


 客観的に見てあの頃よりも恐怖感は段違いに上なのに、不思議なことに今の僕は彼のことがまったく怖くなくなっている。


 僕はその視線を真っ直ぐに受け止めて、静かに言葉を返す。


「どちらにせよ、これで決着です……。先輩、もう一度、改めて言わせていただきますね」


 全力での殺意、憎しみ、憤怒……ありとあらゆる負の感情を込めた先輩の突進を見据えながら、僕も木剣を構える。


「今更戻ってきても、このギルドに貴方たちの席はもうありません」

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