世界でもっとも低予算な最初期のデスゲーム
ちびまるフォイ
誰でもルールがわかるシンプルで低予算なデスゲーム
「えーー、デスゲーム株式会社のみなさん。
これから仕事初めかとは思いますが本日集まってもらったのは大事な連絡があるからです」
デスゲーム社員たちは社長の思わせぶりな言い方にざわついた。
「今年のデスゲームは低予算でやっていきます!!」
社長の発表に社員たちは猛反発した。
「社長! 低予算ってどういうことですか!?」
「昨年もデスゲームしまくってたじゃないですか!」
「俺たちのなにが悪かったんですか! 教えて下さい!」
「いや、君たちはなにも悪くない。
昨年は外出自粛でデスゲーム用に人を拉致ることもできず
非常に厳しいデスゲーム運営を強いられたのは記憶に新しい」
「たしかに……」
例年であれば長期休暇に浮かれて飛び出す若人を連れて、
理不尽なデスゲームに参加させては断末魔をお茶の間に届けていた。
人が集まらなすぎるので生存賞金額を釣り上げてデスゲームを開催したが、
デスゲームの会場設営中に市の意向で中止になったりと散々だった。
「大掛かりな殺人マシーンや、凝った密室を作るのではなく
低予算で人を殺していけるコスパのいいデスゲームをしていこうじゃないか!!」
社長による急ハンドルの会社方針の転換だったが、
なんとなく昨年からそんな気配を感じていた社員たちは従ってくれた。
数日後、低予算デスゲームの第一弾(試作)のお披露目会がおこなれた。
「社長、こちらです」
「予算表を見せてくれ。うむ、この額なら問題ない。
それで、次のデスゲームプロトタイプができたんだって?」
「はい、こちらです」
「こ、これは……!」
社長が目にしたデスゲームの試作キットはなんとも手作り感のあふれるものだった。
ホームセンターで買ってきたであろう様々な刃物がデスゲーム参加者を死に至らしめる作りなのがよくわかる。
「いかがですか社長。費用を抑えつつもデスゲームを完成させました!!」
「まぁ……そうだけどね……」
「なにか?」
「なんだろう……恐怖が、ないよね……」
「恐怖? ああ、もちろん本番ではもっとこうおどろおどろしい感じにして、
壁とかにはこうビャッって血しぶきもかけておきますよ!!」
「そうじゃない……そうじゃないんだよ。
このデスゲーム装置を見て"怖い!"ってよりも、"よく頑張って作ったなぁ"って思っちゃうんだよね」
「えっと……? よくできた自由研究を見る、みたいな?」
「なんか、作り手が垣間見えるから……もうちょっと冷酷な感じ出したいなぁ」
「はぁ……」
社長のコメントを受けてデスゲーム大道具係は頭を抱えてしまった。
そこで今度はデスゲームIT部門の人たちが協力し、一つのデスゲームを完成させた。
数日後、コンペに呼び出された社長はウキウキだった。
「それで、新しいデスゲームができたんだって?」
「はい。先日は作り手が見えるということだったので。
こちらが新しいデスゲームです!!」
社長の前には1人用ソファと、前にテレビが置いてある。
「……これ、デスゲームかい?」
「はい、デスゲームのデスゲームです。テレビを付けてみてください」
テレビの電源を入れると画面には『DETH GAME』の文字。
よく見るとテレビ台の下にコントローラーが置かれている。
「社長、いかがですか。最近ではゲームを作るゲームなんてものがありましてね。
"デスゲームツクール"ご存知ですか?」
「いや知らないけど……その前にスペルーー」
「あ、スタートボタン押してください」
社長がゲームを始まると、画面に自分を模したキャラが現れた。
障害物をかわしながらゴールへと進んでいくアクションゲーム仕立てになっている。
「いかがですか社長! お金もかかっていないし、作り手の影を感じさせないつくりですよ!」
「これ、どうなったら死ぬの?」
「ゲームのキャラが死んだら、見張り役の社員が頭を撃ち抜きます」
「アナログか!!」
ゲームに自分の命がリンクしているとか、ミスをするたびに痛みを伴うとかではなかった。
常に後頭部に銃口突きつけられているという点で恐怖はあるが……。
「いかがですか社長! これを今度のデスゲームに!!」
「う、う~~ん……そうだなぁ」
「なにか不都合でも?」
「いやこのゲーム、プレイヤーの腕前でかなり左右されない?」
「そうですか?」
「ガチガチのプロゲーマーだと即クリアできちゃうでしょ。
逆にゲームなんかやったことのない人だと操作方法覚えることすらやっとじゃん」
「まあ……そうですね」
「やっぱりデスゲームって誰にでもすぐにわかるルールで、
なおかつ誰に対しても公平でなくちゃならないと思うんだよ。
シンプルだからこそ、人の本性をあぶりだせるものだ」
「シンプルでわかりやすいデスゲーム……」
デスゲーム開発の社員たちは必死に会議をしては次なるデスゲームを考え続けた。
誰にでもすぐにルールの理解ができて、低予算なデスゲーム。
その理想に近づくためみんな必死に考え抜いた。
ついにデスゲームの開催日がやってきた。
「こ、ここは……?」
デスゲームに連れてこられた老若男女さまざまな参加者たちが目を覚まし始めた。
彼らに取り付けられているイヤホンからメッセージが再生される。
『君たちはデスゲーム参加者となった。目の前にあるデスゲームを突破すれば生きて帰れるが、失敗すれば死ぬ』
「なんだって!?」
「そんな! 私まだ死にたくない!」
参加者の叫びも虚しく、自動音声は一方的に恐るべきゲームの説明を事務的にはじめた。
もっとも低予算で誰にでもわかりやすいシンプルなデスゲームが開始された。
『横断歩道の白いところを踏み外したらそいつは死ぬ!』
世界でもっとも低予算な最初期のデスゲーム ちびまるフォイ @firestorage
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