サリアは震えながら言い聞かせる。「幽霊なんていないさ」

 山道は続いている。木々が高く伸び、空はほとんど見えない。地面は柔らかく、ときおり小石や木の根っ子に滑りそうになりながら、一歩一歩進んでいく。聞こえる音は自分たちの足音と苦しい呼吸と、どこかでさえずる鳥の声だけ。人ともほとんどすれ違わないから、本当にこの道で合っているのか、地図を見ていてもいつも不安がつきまとう。

 そのうえ起伏の激しい道、もともと体力の無い王子には心身ともに相当負担になっているようで、明白に疲労困憊ぶりが見て取れる。なにより足元が危なっかしい。それは王子ほどでないにしても、後ろを歩く3人も同様。いつもぺちゃくちゃうるさい3人も、今は他人と話している余裕もなく、黙々と足を運んでいる。

 特に遅れがちなのは、やっぱりハインツ。大汗かいて、ふうふう言いながら登っている。その背中をミリアーネとサリアが押すようにして歩く。


「あーあ、団長は明らかに人選ミスだよ。途中に山道があるのを分かっていながら、こんな巨体を選んじゃうんだからさ。私のようなか弱い女にこんな巨体の世話は無理だ」


 サリアがぶーぶー言っている。ハインツは汗をダラダラ流しながら、


「ちょっと横に広いかもしれないけど、標準体型の範疇だと思うぜ?」


「キミんちの鏡は歪んでるんじゃないか。一度チェックするのをお勧めします」

「標準体型だったら私たちが押す必要ないよね?」


 すかさず女性2人からの反撃が飛んできて、後ろから押す手が放されてしまった。そして2人は先に行ってしまおうとする。


「あ、標準ってのは言い過ぎました。だから見捨てないで、女王さま!」


「その呼び方はやめなさい」

「前にもこんな会話したような……」





 日は既に西に傾いているから、午後1時頃だろう。山道が急に開けて、王子は小さな町に着いた。そして旅人向けの小さな茶店で小休止した後、また歩き出す。隠れて見ていた3人も歩き出したが、サリアだけは不安顔。


「次の町までどれくらいある?」


 聞かれたハインツが地図を見てみる。次の町までは峠を1つ越す必要があって、その道の縮尺は描いてあるけど長さを測るものが無い。2人に尋ねてみても、やっぱり持っていなかった。

 3人で困った顔をしていると、ミリアーネがポンと手を打って、


「いいこと考えたよ。地図を地面に広げて、現在地の町のところにサリアがお尻を乗せるの。で、そのままお尻を転がしたらサリアのヒップサイズが92㎝だから、1回転したところが――――」


「バカ野郎!」


 全部聞かないうちからサリアが烈火のごとく怒りだした。


「バカ!アホ!たわけ!足のサイズとかでいいだろ!なんでわざわざヒトが気にしてる部位で――というか、なんで知ってる!」


 ハインツが納得したように、


「なるほど、その手があったか。てかサリア、やっぱりケツでかいんだな」


 サリアの怒りに更なる油が注がれてしまった。怒声と悪罵を聞き流しながらミリアーネが自分の指の長さで測ってみると、だいたい2時間と出た。


「2時間だって。ちょっと長いけど、夕方には着くね。次の町は山菜がいっぱい採れるので有名らしいよ。昨日すれ違った人たちがそんな話してた」

「山の中だから、イノシシやシカの肉なんかも食えるかもしれない。夕食が楽しみだ」


 物見遊山気分の2人をまだ怒っているサリアが遮って、


「その前に思い出してほしいんだけど、今まで地図通りに着いたことあった?」


 そこでミリアーネとハインツはようやく事態に気づいた。旅立ちの際に渡された地図がポンコツなのか王子の体力が無さすぎるのか、おそらく両方の理由で、地図に記載の時間通りに着いたことは1回たりともなかった。それでも今まではなんとかなっていた。町と町の間は短かったし、なにより平地だったから日が沈んでもちょっと頑張って歩けば次の町に着いたのだ。

 しかしここは山道。日没後の行動は不可能だ。そして今までの経験上、2時間では次の町にたどり着かない。それが意味するところは……


「野営かぁ……」


 ミリアーネが悄気た顔で呟く。彼女は入団1年目のことを思い出していた。訓練の一環で、夜間にフル装備でへろへろになりながら登山したことを。そして遠足気分だったからまともな装備も準備しておらず、クッキーで飢えをしのぎ、寒さに震えながら岩陰で寝たことを。一言で言うと地獄だった。あの日以来、ミリアーネとサリアにとって野営はトラウマだった。


「陰から守るルールだけどさ、さすがに今回は王子止めない?」


 ミリアーネの提案に対してハインツは、


「いや、王子だってきっと今までのペースじゃ地図の通りいかないのはわかってるさ。これから急ぎ足で歩くつもりなんだろう」


「そうかなあ、私はそう思わない。きっと何も考えてないよ。ルール上はハインツが正しいから従うけど、絶対確実100%野営することになるよ」


 そう言っていそいそと通り沿いの食品店に入っていくミリアーネに、ハインツが悲しい顔をして、


「もうちょっと将来の主君を信用してあげようぜ」





 ミリアーネの方が正しかった。なんとか途中の峠には着いたものの、そこで日没を迎えてしまったカール王子。後は下り道だから体力的には余裕があっても、日が無ければ行動不能だ。彼と少し離れて、ミリアーネたちも僅かに残る夕方の残光の中、しぶしぶ野営の準備をしていた。

 ほら言ったじゃん、だから言ったじゃん、とブツクサ文句を言うミリアーネをよそに、サリアとハインツは口に出さないまでも同じことを考えていた。この人が将来即位して、公国は大丈夫なんだろうか……。

 とりあえず寝る場所と火をたく場所を確保できると、ミリアーネが鼻高々と言った。


「私のおかげで、山中で絶食っていう最悪の事態は免れることができたんだから!私に感謝しながら食べるがいいよ」

「へえへえ、ありがたくいただきます」


 背嚢に入る範囲でしか携行できなかったから、パンや干しキノコのような簡易な食事だったけど、何もないより断然マシ。小さな火を焚いて干しキノコをあぶって、塩少々を振りかけて食べると、素朴な味わいでなかなかおいしい。


「この旅でミリアーネが役に立ったのこれが始めてじゃないか?」


 あぶったキノコをかじりながらハインツが言うのにミリアーネは口をとがらせて、


「そういうこと言うならもう食べないでいいよ」

「嘘です、女王様!」

「お前は何人の女王様に仕えてるんだよ」


 初代女王がパンを頬張りながら言った。




 空腹が解消されてはじめて、自分たちの置かれた状況を見つめる余裕がでてきた。冷静になって周囲を見回すと、たき火の残り火以外は漆黒の闇。薪の爆ぜる音と虫の鳴く音が時折耳に入ってくる以外は静寂に包まれている。3人いっしょにいてすら心細い。

 3人とも寂寥の感に打たれてしばらく無言だったが、サリアが強いて元気な声を出して言った。


「こういうときは楽しい話をして気を紛らせよう。モブナイト先生、何かお願い」

「またぁ?」


 しかしここでミリアーネの知恵が悪い方に働いてしまった。

 彼女は知っている。サリアは一見クールに思えるが、内心は乙女そのもの。かわいいものが大好きだし、怖いものが大嫌い。こういう雰囲気だって大の苦手なのだ。

 そしてミリアーネはサリアをからかうのが大好きだった。楽しいことを列挙せよと言われたら5番目か6番目くらいにくる自信がある。それほどサリアはミリアーネの望む反応をしてくれるのだ。

 だから、彼女はもう内心ウキウキしながらすぐさま口から出任せで語り始めた。


「これは私の祖母が知人から聞いたらしいんだけどね、いつもキノコ狩りに行く山の中に、それまで見たことない、人一人通れるくらいの穴が空いていて、その中から獣の呻き声のようなものが」


「あ、先生ちょっと待って。やめよう?今そういう話するのやめよう?」


 ほら来た!予想通りだ。見るがいい、いつもは強面のサリアの顔が、今はまるで主人に怒られた犬のように情けなく歪んでいるではないか。ミリアーネは内心笑いが止まらない。彼女の話には微塵も興味を示さず、干しキノコの残骸をしゃぶっているハインツはこの際どうでもいい。

 しかし彼女はまた引き際もちゃんと心得ていた。これ以上やるとサリアが本当に泣き出すか発狂するかしかねないので、話題を変えることにした。

 

「ごめん、こういう夜に怖い話は選択ミスだね。じゃあこんなのはどう?」


 と話し始める。


"ある日の深夜。サリアは横になって眠っている。部屋に忍び込んだハインツは――――"


 ギロ!という擬音が聞こえてきそうな目つきでサリアが睨んできた。ミリアーネは慌てて咳払い、


「ゴホン、言い間違えました」

「何をどう言い間違えたんだよ」

「よし、じゃあこれは子供向け」


 引き際を心得るサリアいじりのプロは、彼女の追及を華麗に聞き流して再び話し始める。


"あるひのしんやのことです。サリアちゃんはぐっすりねむっていました。そのへやにしのびこんできたひとかげ。ハインツくんです。ハインツくんはサリアちゃんがねいきをたてているのをかくにんし、かるくせなかをおしました。うつぶせになったサリアちゃんのおしりは”


「同じだろうが!!」


 サリアの拳固が飛んできた。どうやら引き際を誤ったらしい。





 カール王子は悲嘆に暮れていた。都を出てから早幾月、毎日が心細いことこの上ない。行けども行けども果ての無い道、いつになったら王都に着くことが出来るのかもわからない。そして旅を続けるうちに、だんだん自信も無くなってきた。すぐに疲れてしまうし、詐欺師に騙されて剣を奪われかけるし、川に落ちて風邪をひく。それがすべて自分の体力や経験不足からもたらされたものかと思うと、自分が嫌になってくるのだった。

 そして今、自分は山中で野宿する羽目になっている。またも自分のミスだ。地図に2時間と書いてあるから、自分の足でも3時間くらいで行けるだろう、という判断が甘かった。自分を信用しすぎた。山の日の入りは早いし、平地と違って日の入り後は行動できない、という基本的な事実さえ知らなかった。山の夜は何が起こるかわからない。山賊、熊、ヘビ、毒虫……危険なモノがいっぱいだ。しかも自分は食料や灯りになるものも持っていないのだ。完全なる闇。


(僕は、為政者には向いてないのかな……)


 王子が後悔と不安と恐怖と自分への失望で泣かんばかりで、もう半分パニック状態になっているそのとき、闇夜に叫ぶ女の声が聞こえた。


『同じだろうが!!』


 心臓が飛び出るほどびっくりして、声のした方を振り返る。まさか、盗賊!?しかし逃げようにも真っ暗闇の山道、走ることなんてできない。どうにも進退窮まって、木の影から恐る恐る盗賊の様子を窺ってみる。小さな焚き火に照らされた賊の姿は3つ。女2男1の一団で、ひとりの女がもうひとりの女に向かって何事か怒鳴っている。怒鳴っている女の顔の険しさからして、彼女が首領に違いない。しかし他の2人の顔つきや身なりは、盗賊のそれとは思えない平凡なものだ。特に太った男の体型が、先日花街で自分を助けてくれた紳士によく似ていた。


(そうだ、きっと彼らは盗賊のような悪い人たちじゃないんだ。それだったら焚き火に当たらせてもらって、食料を少し分けてもらおう)


 人がパニックに陥った際に囚われがちな根拠のない楽観視と決めつけによって、王子はそう判断した。そして彼らの方に近付いていった。

途中で石か何かにつまづいて転んだが、そんなのは気にもならない。そのくらいパニックだったし、人に会いたかったのだ。





 サリアの怒鳴り声がようやく止んで、息切れしながら言っている。


「まったく、いつもいつも!」

「ごめんね」

「特に今日はひどい。もう今日はミリアーネ喋るの禁止!」

「はい」


 サリアをここまで怒らせた後だと、さすがのミリアーネも素直に従うしかない。彼女が黙ったので、辺りはまた静かになった。聞こえるのはやっぱり薪の爆ぜる音と、ハインツが指に残ったキノコの味を最後まで舐め取ろうとする意地汚い音だけ。サリアはまた心細くなった。が、自分からミリアーネにああ言ってしまった以上、彼女に話題を振ることも出来かねた。


(こんな場所で幽霊が出たらどうするんだろう)


 消えつつある火を見つめながら、そんな益体もないことばかりが心に浮かぶ。彼女は幽霊が大嫌いだ。人間や野獣が相手なら、どんな強敵とも(勝てる勝てないは別として)、少なくとも憶さず戦う自信はある。


(だが、幽霊は別だ!)


 本物の幽霊は見たことないけれど、本や人の話を聞く限りこちらからの攻撃は効かず、相手からは呪いだの人格乗っ取りだの、目に見えない攻撃をされるらしい。なんだそれは。卑怯にも程がある。ミリアーネが読んでるような本に出てくるチート能力ってやつなのか、これが。


 サリアの恐怖が恐怖の妄想を生み、さらに恐怖が増幅される無限ループに入った。気を紛らせるため、ハインツに話を振る。


「どうでもいい話なんだけど、ハインツって幽霊とか呪いとか信じる?ま、私は全然信じてないけどね」


 喋るのを禁止されたミリアーネが、口を開けなければ喋ったことにならないという頓知坊主のような屁理屈を考え付いて、口を閉じたままムームーモガモガ声を出そうとしているが、サリアには何が何やらさっぱりわからないので放っておいた。

 肝心のハインツは指をねぶるのを止めず、興味も無さそうに、


「呪いがあったとして、俺の脂肪は貫通できないだろ」


 サリアはため息をついて、それ以上話を広げなかった。再び静寂が訪れた。




 静寂に包まれてサリアがうとうとしてきたとき、不意に後ろで足音がした。

 目玉が飛び出るほどびっくりして、まさか、幽霊!?とは思ったものの、そこは腐っても騎士、かろうじて理性が勝った。


(いや、幽霊なんぞいるわけない!)


 強いて自分に言い聞かせて振り返ると――――

 果たしてそれは幽霊だった。顔がおどろに乱れた髪に覆われ、その隙間から片眼だけが覗いて爛々と光っている。体の芯がグラグラふらつき、人間の歩き方とは到底思えない。


「で、出たああぁぁぁ!」


 普段の彼女からは想像もできない、辺り一面に轟く泣き声を上げて、サリアは一目散に逃げていく。

 びっくりした2人が振り返ると、そこにいるのはやっぱり髪を振り乱した幽霊。


「で、出たああぁぁぁ!!」


 山全体に轟き渡る叫び声を上げて、2人も逃げ出した。ハインツは驚くほどの身軽さで、ミリアーネよりも速く走っている。いつものミリアーネとサリアだったらお前どこにそんな体力あったんだ、こんなに身軽に走れるなら最初からそうしろよ、と言われるのは疑いないけど、その2人も自分が助かることしか考えていないからハインツなんか気に止めてない。

 だから一番後ろを走っていたミリアーネが木の根につまづいてコケても、誰も止まらなかった。


「うわああぁぁぁん!待ってえぇぇ!」


 背後から聞こえる彼女の泣き声にも振り返らず、サリアが叫ぶ。


「私は呪いとか無理なんだ!菩提は弔うぞ、ミリアーネ!」


 まったく慰めになっていない慰めを残して、転がるように走る、というか転がり落ちていくハインツともども、下りの道を駆け降りていった。


 仲間2人の薄情さに唖然としているミリアーネのすぐ後ろに足音がした。彼女はもう半狂乱、転んだそのままの態勢で泣きわめく。


「わああぁ、許してぇぇ!もう口から出任せの怪談とか作りませんから!訓練もちゃんとやります!だから体乗っ取るとかはやめてぇ!」


 幽霊もどうせ乗っ取るならもっとまともな頭脳と精神の持ち主を乗っ取りたいだろうが、必死の彼女にそこまで考える余裕はまったくない。


「そうだ、こんなのはどう!?私は物語を考えるのが得意だから、ゴーストライターになって幽霊さんの物語を書いてあげる!ゴーストのゴーストライターってね!面白いでしょ!?こんな知性とユーモアの持ち主に呪いとかかけるのやめましょう?ね、ね!?」


 なおも騎士道物語の蔵書を譲ってあげてもいいなどと幽霊としてもお断りしたいであろう提案を散々喚いた挙げ句、ふと我に帰って気が付いた。


(あれ、体乗っ取られてないな……?)


 恐々後ろを振り返ると、カール王子が泣きながら立っていた。





「本当に助かりました。僕はとある用事で王都に行くんですけど、山の中で日が暮れちゃって……。お姉さんに食料と寝具を分けてもらっていなかったら、どうなっていたことか……」


 次の日の早朝、ミリアーネはサリアとハインツが遺棄していった荷物も背負ってふうふう言いながら、王子と一緒に昨夜2人が転がり落ちていった道を歩いていた。幽霊の正体見たり王子かな、この旅行中に伸びた髪が、王子が3人に近づこうとして転んだ時に顔にかかり、それが怪談なんかしていた3人に幽霊に見えてしまっただけなのだ。だからそもそも怪談なんかを始めたミリアーネの自業自得で、王子に対して限りない申し訳なさを感じざるを得ない。

 彼は自分を救ってくれた女性がそんなマヌケな騎士とは知らないから、目を輝かせて礼を述べ続ける。


「僕、実は公国の王j……じゃなくて、ちょっとコネクションがあるから、あなたのような強くて優しい人を公国騎士団に推薦したいんだけど、どうでしょう」


 いつもの彼女なら鼻高々になるセリフも、今回ばかりは嬉しくない。そもそも自分が蒔いた種なのだから。


「ハハ……いや、私は既に騎s……旅芸人で、各地をフラフラしてるのが性に合ってるんです……あ、そこ頭上注意ですよ!」


 足元にばかり気を取られている王子に、ミリアーネがすかさず大声で注意する。


「本当だ、鋭い枝が飛び出てる。気付かせてもらってありがとうございます。あなたには常に周りが見えているんですね。そういえば僕が近付いていったときも何か叫んでましたけど、あれは?」


「いや、あなたが幽r……枯木が幽霊に見えて、ちょっとびっくりしちゃいました。お恥ずかしい」


 王子は朗らかにわらって、


「あなたみたいな強い人でも、怖いものはあるんですねえ」


「ふへへ……」


 ミリアーネからはひきつった笑いしか出て来ない。




 ようやく次の町に着いて、そこで解散になった。別れ際に王子がミリアーネの手をとって、


「本当に、あなたには感謝してもしきれません。一緒にいらしたお二人にもよろしくお伝えください」


「あ、そういえば!」


 しばらく忘れていた3人分の荷物の重みが、急にずっしりと感じられた。





 町の簡易食堂で、サリアとハインツがまだ真っ青な顔をして、ミリアーネをどうするかの議論中。


「ハインツ、やっぱり昨夜の地点まで戻らない?何があったにせよ、騎士団本部には報告する必要があるし……」


「いや、もしミリアーネが幽霊のせいで怪死してたりしたら……」


「だらしない!それでも公国騎士か」


「真っ先に逃げたのサリアだろ」


 こんな感じの小田原評定を延々続けているところへその本人がズカズカ店に乗り込んで来たので、2人とも口から内臓が飛び出るほどびっくりして、


「で、出たああぁぁぁ!!」


「何が『出た』だよ!生きてるよ!」





「いつも公国騎士がどうとか言ってるけどさあ、仲間置き去りにして逃げるのが公国騎士のすることかね」


「スミマセン……」


「俺の脂肪の前に呪いは無力、なんて自慢してる誰かさんもスタコラ逃げちゃうしさ!」


「反省シテマス……」


 ミリアーネはやっぱり怒っていたけれど、そもそも怪談を始めてサリアを怯えさせたという負い目があるのでこう言った。


「今回は許す。けど次は殴る」

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