俺の主が結婚するそうです

伊佐波瑞希

第1話 プロローグ

豪華な調度品や家具の置かれた部屋に二つの人影

一つはソファーに座り優雅な所作で紅茶の入ったカップに口つける少女

美しく輝く銀髪に空のような澄んだ瞳を持ち、きらびやかな薄い水色のドレスを着たこの少女はこの部屋の主にしてこの国、ガルア帝国第3皇女ソフィア・フォン・ガルア


そんな彼女の前で騎士の礼をとるのは

近衛騎士団第3皇女付き騎士、カイ

平民、それも孤児出身の為ただのカイだ


ソフィアはカップから口を離すとカイへとチラッと視線を向け


「カイ、私の婚姻が決まりました。」

「それは、おめでとうございます、姫様!!」


カイは笑顔でソフィアに祝福の言葉を送った。それはもうとびきりの笑顔で

なぜカイがこれ程まで喜んでいるのか、


自分が仕えている主(姫)の婚姻を喜ばない騎士がいるわけがない


と皆さんお考えですよね?


だが、今カイが考えていることは‥‥


〝よく、嫁の貰い手があったもんだ‥‥

こんなじゃじゃ馬姫さん誰が嫁にするんだ?

まぁ、誰であろうと

旦那さん御愁傷さまです〟


と大変失礼な事を考えていた‥‥

なぜこんな事を考えているか?

それは


〝ここ数年はほんと大変だったからな‥‥

いや、騎士として仕える主の婚姻はもちろんうれしいよ?うん!!〟


と正当な理由を考えるがそれも


〝‥‥2割ぐらい ‥‥やっぱり1割かな‥‥?〟


ぐらいでの割合で残りは


〝なんにせよ!!これでよーーやくっ、この暴姫様から解放されるっ!!長かった!!思えば10歳の時あの場所にいなければ俺はもっと自由だったに違いない!!、あれから俺の人生は変わったんだ‥‥〟


まぁ、長い話になるので省略しますと


ソフィア誘拐される→カイ偶然遭遇ソフィア救出→ソフィアに気に入られ王宮にドナドナ→気づいたら騎士にされ厳しい訓練に身を投じる→2年後地獄の訓練が終わるとソフィア付き近衛騎士団に配属→ソフィアの我が儘に振り回される(5年)


とまぁこんな感じでカイは苦労したのだ。


〝ほんと辛かった‥‥

師匠は鬼だし、まわりの連中からは平民でしかも孤児だからとバカにされるし、さらに姫さんに振り回されるのを勘違いしたバカには因縁つけられるし、せっかく仲良くなった女の子は翌日には何故か避けられて今まで彼女もできたことないしでもう散々だったからな‥‥でもこれで‥〟


ソフィアが婚姻を結ぶということは臣下降下か他国へ嫁ぐということだ、ならば近衛騎士団に所属する自分はソフィアとはここでおさらばだ、次の配属先が気になるがこれでようやくソフィアの我が儘に振り回される事はなくなるとカイは内心ほっとしていた。


そんなカイの僅かな機敏を見てとったソフィアはカイにバレないようにやりと広角を上げ


「なのでこれから私の婚姻式までいろいろと手伝って貰うわ」

「はい?」

「まずはそうね‥‥うん、私の婚約者に送るプレゼントを選びたいから城下へ行くわよ、お忍びで」

「は?」

「あ、もちろん皇帝のお父様や貴方の上司でもある近衛騎士団長からの許可も降りているから、はいこれ、辞令書」


そう言うやソフィアは二枚の紙をカイの前に出した。カイはそれらをただ呆然と受けとり確認すると目を見開き硬直した。


どちらの紙にも文章こそ違うが大本の内容は一緒だった。


「近衛騎士団第3皇女付き騎士カイ

本日をから第3皇女ソフィア・フォン・ガルアの婚姻式までソフィア皇女の専属騎士として身の回り世話命ずる。ソフィア皇女の命令には絶対服従し、婚姻式を無事に成功させること。違反した場合死罪とする。」


きらびやかな部屋にカイの悲鳴とソフィアの笑い声が木霊した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る