BELIEVE~刹那の剣光~
いっき
第一部 BELIEVE~刹那の剣光~
~プロローグ~
一年前、秋の大会……。成光中学の山口 稔(みのる)は、試合会場のホワイトボードで対戦相手を確認していた。
対戦中学は立明中学……自分の幼馴染、春山 桜(さくら)のいる学校だ。桜は地区の中学では最強の少女剣士。しかし、立明中学の男子部には、圧倒的な強さを感じる剣士がいるという記憶はなかった。
「狭川か……」
自分の対戦相手を確認した稔は、溜息を吐いた。
狭川……立明中学のキャプテンで、基本に忠実な、そつのない剣道をする。決して弱くはない。寧ろ、トーナメントでの相手や戦い方によっては入賞する可能性もある剣士だ。
だが……
「『ゾクッ』とはしないんだよなぁ……」
稔の脳内には、いつもかつての最強の少女剣士……杏(あんず)の『豪剣』があった。
今でも稔の脳内で、はっきりと明確に再生できる。凄まじい加速度とともにめり込む『面』。
儚く、美しく、それゆえ強い……。
脳内でそれが再生される度に、稔は『ゾクッ』と鳥肌が立つのだった。
かつて自分が最も愛していた杏にも、そしてそれほどの『剣』にも、今の試合場では……いや、どこへ行っても、もう二度と出会うことができない。稔はそのことに、言い様のない寂しさを感じていたのだ。
(今日もきっと……『ゾクッ』とする『剣』には出会えないまま、試合は幕を閉じるんだろうな)
稔はそう思っていた。
先鋒戦が始まった。立明中学の相手の名前は『秋野』。
(新入部員?)
稔は初めて見る剣士だった。
構えを見て分かる。重心の置き方がぎこちない。初心者だ。
しかし、何故だろう?
何処か、他の剣士とは違う空気を感じる。それに、立明中学の部員達の彼を見る眼差し……それは、期待と希望に満ち溢れていたのだ。
その刹那!
「メェェーン!」
秋野というその剣士が『面』を打った瞬間、稔は目を見張った。
『ダァァーン!』
同時に響く凄まじい踏み込み音。
(ゾクッ……)
全身に鳥肌が立った。
(これだ!)
稔は思った。
それは、荒削りな『剣』だった。しかし、打った瞬間……確かに『剣光』が煌めいた。
それは、かつての最強の少女剣士……杏の放つ『豪剣』とも異なるものだった。『飛び込み』と『打突』を繋ぐ『瞬間』が消失し、『刹那の剣光』として煌めき剣士に降り注ぐ剣……。
稔は久しぶりに……杏の『豪剣』を目の当たりにして以来の強烈な武者震いをした。
「こいつは……」
稔は常に携えている一つの金メダルをグッと握った。
(この先……『最強』になる俺の前に、必ず立ちはだかる)
稔の胸から熱いもの……杏と対戦した時に似た、言い様のない高揚感が溢れ出した。
(こいつと、『真剣勝負』がしたい。早く、早く……!)
稔の見た『刹那の剣光』。それは、稔の内に潜む『鬼』を抑えきれぬほどに熱く高揚させたのだった。
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