レターフレンズ

Mina0108

第1話

 パサ


 その音とともに、僕の机に小さめの封筒が無造作に置かれる。


「うん」


 それに対し僕は短い言葉で返す。そして置かれた封筒を手に取り、そのまま自分の机の横にあるカバンの中にしまう。


 そのまま特に会話があるわけではなく、僕たちはお互いに前を向き、授業が始まるのを待った。


              ・


 なぜ僕たちがこんな事をし始めたのは、つい最近のことだ。

 彼女は去年の夏頃にうちの学校に転校してきた。

 彼女は容姿端麗であり、髪の毛は黒で肩より下まであり、まるで清らかな川のように流れているその髪は、当たり前のように男子だけでなく女子までも魅了した。

 そのため初めの頃は彼女と仲良くなろうと、大勢のクラスメイトが彼女の机の周りに集まっていたが、今ではその影すら見ることはない。


 それはなぜか。


 彼女は耳がほとんど聞こえないからだ。


 別に差別的な意味ではない。

 彼女は喋ることもあまりできない。一応少しなら話すことがでいるみたいだが、やはり音が聞こえないというのは喋る能力にも影響を与えるようだ。

 そして、そんな彼女は人と話す時、手話か筆談を使う。手話を使うことができるクラスメイトはいないため、大勢に話しかけられた時、彼女は筆談をしようとした。


 だが、どうしても筆談というのは時間がかかるものだ。彼女にとってはそれが当たり前の時間なのだろうが、クラスメイトにとっては違う。

 話しかけたらすぐに返事がくる。そんなことは彼女にはありえない。


 その結果、いつの間にやら彼女の周りに人はいなくなってしまった。それこそ、去年までは数人、優しい女子などが近くにいたが学年が上がると同時にいなくなっていた。理由は知らないが、大方彼女と話す時間を他のことに使いたくなったのだろう。

 彼女と話すには時間がかかりすぎる。


 ちなみに僕は去年も今年も彼女と同じクラスだ。まぁ、ほぼ空気だから彼女は気づいていないだろうが。

 そしてたまたま今年隣の席になった。


 ここからどのようにして手紙を交換するまでになったのか。

 それは隣の席になって数日経った後のことだった。


 いつものように授業が終わり、次の授業までの休み時間、することもないので本を読んでいると不意に彼女がこっちを見ていることに気がついた。

 少し驚いたが、普通に僕の方ではなく、こっち側を見ているだけの可能性もあるので、しばらくは無視をしていた。

 結局彼女は授業が始まるまでこちらをじっと見ていた。

 正直気味が悪いと思ってしまったが、これで自分の気のせいだったりしたら彼女に悪いので、そんなことは考えないようにした。


 だが、その授業も終わり、本を読み始めると彼女はまたこちらを見てきた。直接聞こうかとも思ったが、そんな勇気は元々ないのでやめたおいた。

 そして次の授業が始まり、彼女はまた前を向く。


 その次も、また、その次も、

 彼女は休み時間になると僕の方をじっと見るようだ。


 結局彼女のことを気にしていたら、帰りのSHRが終わっていた。


 まぁいい。どうせ明日になったらやめるだろう。


 そんなことを思い、いつものように荷物をまとめ、自分の机から離れ、教室の扉を目指す。

 去り際に彼女がまた僕の方を見ていたことには気がついていないふりをしといた。




「最悪だ…」

 家に帰り自分の部屋に到着し、保学校で読んでいた本の続きを読もうとしたところ、本を学校に忘れたことに気がつき、思わず声に出してしまっていた。

 忘れたものはしょうがないが、正直結構ショックだった。

 良いところだったのに。

 その日はいつもよりも無口なのを親に心配されてしまった。


 次の日。

 僕はいつもよりも早く起きた。本のためだ。結局昨日はうまく寝れなかったため寝不足だ。

 いつおより早いのを親に驚かれたりもした。

 っすがに眠いので学校に行く足取りは、のそのそと重めだ。

 重い体を動かしなんとか学校に着いた。結構早めに着いてしまったが一応校門は開いている。

 こんな時間に初めてきたが、流石に人はほとんどいなかった。少なくとも自分のクラスの靴箱には僕以外にもう一人の靴があるだけだった。


 階段を登り3階にある自分の教室の前まで来る。

 靴があったし誰かいるのかと思い、中を覗くと、いた。

 彼女だ。

 耳の聞こえない彼女は彼女の席で何やら本を読んでいるようだった。


 本読んでるの味めて見たかも。


 別に驚きはしないが意外だった。いつも何もしていないイメージしかなかったから。

 まぁそれはいい。

 僕は教室の後ろの扉をあけた。


 ガラガラガラ


 耳の聞こえない彼女は僕が教室に入ったことに気がついていないみたいだ。

 いつも通り、一番後ろの窓側の席までいき、座る。

 彼女はまだ気がついていない。


 そんなに面白いのか。


 どんな本を読んでいるのか少し気になったが、わざわざ声をかけることはできないので、しない。


 さて、昨日の続きでも読むか。


 僕らしくもないが、ワクワクしている。

 机の中から昨日忘れた本を取り出し、手に取ると、違和感があった。


 しおり?


 僕は自分の本にしおりは挟まない。特別な理由があるわけではないが、前どこまで読んだかを探すのが楽しいからだ。

 だがこの本には栞が挟んである。


 なんでだ?


 そう思い本を開いてみると、それがしおりではなく、手紙だと気がついた。


『あなたはどんな本が好きですか?』


 そう書いてあった。

 不意に隣を見てみると、彼女が頬を少し赤らめてこちらを見ていた。



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