サウンドオンリー
神崎玲央
サウンドオンリー
「配信にはまってる~?」
そんな声が響いたのはとあるカフェの一席。
「うん、そうなの」
向かい合う少年にこくり、少女はそう同意の言葉を返すとこれなんだけどねと口にして鞄から携帯電話を取り出した。向けられたその画面上には《携帯1つですぐできる!》なんて言葉と共に広告でよく見かける配信アプリが。
「実は最近夜寝る前に、このアプリで配信してて…」
そう言って少女は少し恥ずかしそうにえへへと微笑む。その言葉に表情に
「…ふーん」
と少年は目を細めてミルクティーへと手を伸ばした。からんと氷を鳴らしながら
「それで近頃、中々連絡が返ってこなかったのか」
「配信中はSNSの通知切ってるから…」
ごめんねと小さく眉を下げる少女に少年は別に、なんて返しながらもその顔には不満の色が浮かんでいる。なぁ、と少年はストローを噛みながらその目を向かい合う少女へと向けて
「配信って、何やってんの?」
もしかして顔出しとかしてんの?と続いたそんな言葉に
「…へへっ」
「なんだよ」
ううん、なんでもないと少女は微笑んでカモミールティーを口へと含んだ。そして、こくん。その喉を一度鳴らして
「これ」
そう言って再び向けられた画面には
「…ゲーム?」
「そう、ゲーム」
シューティングゲームだよ、と少女は続ける。
「配信を通してこのゲームで一緒に遊んだり、ソロプレイをしてアドバイスを貰ったりしてるの」
だから基本配信中はゲーム画面が流れているし、そうじゃない時はアバターが映る仕様になってるの。そう言うと少女はほら、これと画面を指さす。そこに映し出されているのは女の子のアバターと《LIVE》の文字、そしてその横を流れていくコメントの数々。
初めて目にするその光景にへぇ…と少年の口から小さく零れた。そんな少年ににこり、少女は口角を上げると
「だから、身バレとかそう言う心配はないよ、大丈夫」
大丈夫だからね、と繰り返す少女にそうかよと少年がそう返したその瞬間。
「えっ!?」
と大きく少女の声が響いた。
「どうかしたのか?」
「こ、これっ…!」
そう言って向けられた画面には
「《君が世界一のプリンセスとコラボ決定!》??」
「そう!君セかとのコラボだって!」
えぇ~!どうしよう!そう言って少女はその口元に手を当てた。どうやらアプリ内で少女の好きなアニメとのコラボ衣装が出るようだ。
「わ、しかも!見て和樹くん!今日の18時からコラボスタートだって!」
楽しみ~!ときらきら少女はその目を輝かせたかと思うと
「あ…!」
と小さく呟いて見る見る内にその輝きを鈍らせていった。今度はどうしたんだと尋ねた和樹に少女はしょんぼり、分かりやすくその落胆を示しながら
「コインが、足りない」
「コイン?」
「そう、コイン」
このアプリでは基本、アバターの衣装はコインで購入するらしい。課金という形でコインを購入する他に、配信を通してリスナーにコインを投げて貰うことでコインを貯めることが出来るのだと少女はそう説明をする。
「コラボの髪に目にドレス、靴に鞄に背景…うっ」
そう小さく呻き声を上げた少女に和樹は首を傾げながら
「…それで?」
どんだけ足りないんだよ、と投げかけたその言葉に
「課金すると、したら」
「したら?」
少女はゆっくりと俯きつつ無言でその指をすっと立てた。和樹に向けられているのは人差し指と中指の、2本。
「2千円?」
「2万円」
「まっ…!?」
そんなに、と出しかけた言葉に被せるよう少女は紡ぐ。
「あれば、足りるくらい」
ぎりぎりと、小さく少女は呟く。
2万円。アプリ内の服に2万円。
「分かんねぇ…」
そう零す和樹の前には真剣な顔で腕を組む少女の姿が。うーんうーんと少女はゆっくりその身体を揺らすと
「来、月」
とぽつり、小さく口にする。そして
「来月、1日1食。もやしだけ食べればいける…か、な」
「いやそれはいけるって言わねぇだろ」
でもぉ、と少女がそう漏らした直後。
「わっ」
ぶーぶーと少女の手の中の携帯電話が鳴った。
「ごめん、もうバイト行かなきゃ」
そう言って少女はカモミールティーを飲み干すとがたりと立ちあがり
「それじゃあ和樹くん、またね」
「おー、じゃあな梓」
2人はそう交わし合いその場はお開きとなった。
あの様子だと無茶な課金をしかねないと心配になり、結局どうするんだと問いかけた和樹に梓から返ってきたのは大丈夫の言葉だった。とりあえずすぐには課金をせず、コラボの最終日ギリギリまで地道に配信をしてコインを貯めてみるそうだ。
地道に、とのことだが1回の配信で一体どれくらいのコインが貯まるものなのか。そんな素朴な疑問に梓は苦笑いを浮かべるだけ。どうやら所謂その投げ銭で、貯めることが出来るコインはとても微々たるものらしい。
あれからどれくらいのコインを貯めることが出来たのか、尋ねようとしてみても
「…出ねぇ」
今日も和樹の携帯からは聞き慣れたコール音が響くのみ。2時間前に送ったメッセージの横に既読の文字は付いていない。きっと梓は今も配信に勤しんでいるのだろう。
誰もいない静かな部屋でなんだよ、とそう口に出しベッドへと横になる。
「こっちは、心配してやってんのに…」
そんな和樹のことなどお構いなしでゲームに没頭し、どこの誰とも分からないやつらにちやほやされているだろう梓のことを考えて思わず、舌打ちをした。
コラボが始まって2週間、梓が配信を始めて約1カ月。その間和樹はこうやって杜撰とも言える対応を梓に取られ続けている。
彼女が元々ゲームやアニメを好きなこと、多趣味で色んなことにハマりやすいことは勿論知っているが、それはそれとしてずっとほったらかしにされているのは純粋に
「…面白くねぇ」
未だに付かない既読の文字に配信、配信ねぇと口にしながら検索をかけた。梓が配信を行っているアプリのことや本当に危険性がないのかについて。そして出てきた、歴代の人気配信まとめの記事に
「…お?」
和樹はぴたりと指を止め
「へぇ」
良いじゃん、これ。と小さくその口角を上げた。
「こんばんわー、それじゃあ今日もやっていくよー!」
梓のそんな言葉に合わせ《ばんわー》《待ってた》なんてコメントがちらほらと画面の端を流れていく。
バンバン、ダダダ、パーン。そんな銃声の音と共に
「あっ!?」
画面上に赤い染みが広がっていった。
「いたぁい!?え、どこから!?」
《後ろ後ろ!》《隠れて回復しなきゃ》そんなコメントを横目に
「あ、う…あー!」
盤面を変えることが出来ず梓はそのままバタリと倒れ込む。
「負けちゃったぁ…」
うぅ、と小さく零した梓に《どんまい》《惜しかった》《次の試合行こう》と優しい言葉が投げかけられる。そして
「あ…」
ちゃりんなんて音と共にリスナーから投げられたコインが画面に表示された。その画面に梓はえへへと小さく笑みを浮かべ、嬉しそうにその足を左右へ揺らした。コラボ終了まであと10日。まだまだ必要数には程遠いが少しずつとは言え確実に、保持コイン数は増えてきている。
「…よーし、次こそは勝つぞー!」
応援よろしくお願いします、そう宣言をしぐっと拳に力を込めた梓の耳に突如
「…ぅえ?」
ぴーんぽーん、とそうチャイムの音が届いた。
誰だろうと、と思わず零した言葉に画面にも《今インターフォン鳴った?》《来客?ウーバー?》なんて文字が並ぶ。もう少しで日付が変わる時刻。こんな時間に何か飲食を頼むことは勿論、宅配便が届くこともない。
えっとと困惑をしながら、部屋間違えているのかなとそんな可能性を頭に浮かべた梓の耳に、もう一度ぴーんぽーんとその音が響きそして、ガチャリ。
「えっ」
確かにすぐ近くで、ドアノブの回る音がした。
えぇ…と驚きながらベッドへと横たわしている身体を起こし、携帯を両手でギュッと握りしめながら、その顔を玄関へと覗かせた梓の目に飛び込んできたのは
「よう」
「和樹、くん…」
お邪魔しまーす、なんて言葉と共にひらりと小さくその手を振ってみせる和樹だった。
「びっくりしたぁ…」
どうしたの、急に。梓のそんな言葉に和樹は
「お前、前から言ってるだろ。危ないからちゃんと鍵はしろって」
そう言って静かに玄関の扉へ鍵をかけた。そんな和樹に梓は
「あ、うん…」
ごめん、とそう小さく謝罪の言葉を述べる。
「それで、えっと…」
どうして急に、こんな時間に。再びそう疑問を紡いだ梓に、和樹はその指を梓へと向けると
「良いのか?それ」
「えっ?」
「配信中じゃないのか?」
「あっ」
和樹の言葉に慌てて覗いた画面には《大丈夫?》《どうしたの?》と梓を心配する声がずらりと並んでいた。もう一度あっ、と呟いてその視線を向けた梓に
「俺のことは気にせずに配信、続けろよ」
コイン貯めないといけないんだろう?そう口にして和樹は優しく微笑む。気にしなくて良いから、その言葉に梓は
「…う、うん」
和樹くんがそう言うなら、と腑に落ちないままこくり小さく頷いた。
「ごめんね、お持たせ!気を取り直して次の試合に行きましょう!」
梓のその言葉に《大丈夫なの?》《無事?》なんてコメントが打ち込まれる。その文字に梓はあー…と小さく頬を掻いて
「実は今、知り合いが来ていて」
ちらり、その目をベッドの端へと腰かけている和樹の方へと向けた。にっと口角を上げる和樹に梓もつられたように小さく笑う。
「とりあえず、危険なこととかは何もなかったので!気にしないで!」
ご心配おかけしましたとそう口にして、梓はゲームのスタートボタンへと指を伸ばした。
「それじゃあ次こそ!勝つぞー!」
おー!という掛け声と共にコメント欄も《おー》《いけー!》なんて士気の高まりを見せていく。
パンパン、ドーン、カチッカチ。
「あ、わ、わっ!」
《ビルの上に人影見えたよ》《そこの角に救急箱落ちてるはず》《リロード!リロード!!》
「はいっ!わ、っと…痛い!」
《まだいける》《生きてる限りは掠り傷!》《がんばえー》
「がんば、る…!」
次こそは勝てる気がすると白熱した試合を見せているその最中。あと少し!とリスナーの応援は最高潮になり、思わず梓もごくりと喉を鳴らした次の瞬間
「…ひ、っぁ!?」
とその場には似つかわしくないどこか艶めかしい声が、響いた。
《あ》《あっ》とコメント欄に短い音が並ぶ。画面には赤い飛沫と共に倒された梓の姿が。
《今の避けれたよね?》《主??》なんて流れていくコメントに梓は
「ご、ごめん!」
と声を上げた。
「勝てるかも、って思ったら緊張して手元が…」
本当にごめん、と続ける梓に《どんまい》《しゃーなし》《ggでした》そんな優しい言葉が流れていく。そのコメントにもう一度
「ごめんね…」
と口にして梓はその目を画面から和樹へと向けた。そんな梓に和樹はただ小さく笑う。
手元が狂ったなんて、嘘だ。本当は、ベッドへと横たわっているその無防備な梓の背中に和樹が指を這わせたのである。
私が背中弱いの知ってるくせに急に、何。そんな気持ちで和樹を見つめている梓に《主ー》とコメント欄で梓を呼ぶ声がした。
「あ、はい!」
と再び向けた視線の先には《再戦しないの?》《全裸待機中》と次の試合を楽しみにしているコメントの数々。その言葉たちに梓は一度大きく深呼吸をして
「…それじゃあ、次こそ!勝ちましょう!」
再びゲームのスタートボタンを押した。
《そこ罠あるよ》《弾補充した方が良くない?》
「は、い…!」
《前!車来てる!》《回避回避!》
「…っん」
《時間ないぞ、走れー》
「ふ、…うっ」
コメントでの援助もあって何とかまだ死なずにいるがなんだか少し、梓の動きがおかしい。
《主、マップ逆じゃない?》
「えっ、うそ…っあ」
今までにしなかったミスをしたり、突然画面上で動きを止めたり
「あ、やっ…んぅ」
なんてどこか熱を含んだ声を洩らしたりもする。まあそれもそのはず、ゲームをしている梓に対して和樹がちょっかいをしかけているのだから。
梓の身体の線に沿ってその手を動かしてみたり、服を捲りその柔肌に舌を這わせてみたり。部屋着の上から下着のラインを指でなぞってみたり。少しずつ広がっていく快感に梓の唇から声が漏れると一時的に動きを止め、油断したその瞬間強く唇を吸いつけてみたり、と抵抗のできない梓に和樹はやりたい放題だ。
「…あっ」
《あ》《あー》といくつかの声が重なりあ、またやられたんだなと和樹は察する。そんな和樹に梓はそっとゲームの画面を閉じると
「エイムが狂うから、やめてくれないかな!?」
「エイムって?」
「照準のことだよ!」
勢いよく身体を起こしそう口にして和樹へと向かい合った。そんな梓に和樹は
「あ」
梓の手の中の携帯電話を奪い取りその画面に目を向ける。映っているのは女の子のアバターだ。
「これ、まだ配信してんの?」
「そ、そうだけど」
何?と返して!と不思議そうな梓に和樹は
「それは好都合だ」
とそう口にして、梓の唇を塞いだ。そのまま押し倒すように2人してベッドに横たわる。え、と驚いたようにそう漏らした梓に和樹は言う。
「協力してやろうと思って」
「きょ、協力?」
繰り返されたその言葉に、そう協力と和樹は返しながら梓の携帯電話を彼女の手には届かない机の上へと置いた。そして、問いかける。
「この配信アプリの視聴率が高い人気コンテンツって知ってるか?」
投げられたコイン数が多いコンテンツでもある、そう続けた和樹に梓は不思議そうな顔をした後にあ、と小さく口にして一瞬その顔に不安そうな色を浮かべた。
「もしかして」
「そう、そのもしかしてだよ」
和樹はそう言ってにっこり笑う。その微笑みに
「…冗談だよね?」
そう零した梓を待っていたのは先ほどよりも深い口づけだった。
小さな身体に覆い被さりその口内へと半ば捻じ込む形で舌を入れた。ん、んぅと零れ出た声に目を細めながら、梓のその両の手を頭の上へと持ってきて重ね、その上から押さえこむ。空いている手で彼女の胸元を弄ってやると小さくその腰が跳ねた。
膨らみに触れながら口内を犯す。歯列に沿って舌を動かし、その口へと唾液を送り込む。絡ませた舌に吸い付いたり、一度唇を離しすぐさまもう一度塞ぐことで呼吸のリズムを乱していく。確かに硬くなった膨らみの先をきゅっと軽く指先で摘まむと一瞬、押さえつけているその細い両腕に力が込められた。
蒸気した頬に手を当てて少し角度を変えてやるとごくり、とそう音を立てながら溜まった唾液を梓は呑み込む。唇を解放しその端から垂れた液体を舐めとると
「っん」
と小さく声が漏れた。
白い首筋に沿って舌を下降させていく。衣服を捲り上げ肩から鎖骨、鎖骨から脇へと舐っていくとほんのり汗の味がした。突起した2つの蕾に優しく、撫でるように指先で触れると梓はびくりと身体を震わせる。
「ふ、ぁ」
そんな声が零れた直後、和樹はその蕾を口へと含んだ。少し強く吸い付いてみたり、舌全体で包み込むように舐ってみたり。舌先で弾いて、弄んでいく。
「んん、っ…」
シーツの擦れる音がした。伸ばした手の先にはじんわりと汗を滲ませた彼女の太もも。服の上からその下腹部をなぞると分かりやすくびくびくとその腰が反応を示す。
「脱がすぞ」
とそう口にした和樹に返ってくる声はなかった。
「…おい?」
聞いてるかと向けた視線の先には
「…何してんの?」
捲られたシャツを口に含んだ梓の姿。梓はじんわりとその瞳に涙を浮かべながら、頭を左右に振っている。
そんな梓にもう一度何してんのと呟いて和樹は彼女の口からシャツを放した。淡い黄色のそのシャツは唾液を含みすっかりと色を変えている。不思議そうな表情の和樹に梓は小さく声を紡ぐ。
「…だって」
「だって?」
声聞かれるの、恥ずかしい。続いたそんな言葉に和樹はぱちくり、一瞬その目を瞬せると
「こんなに濡らしてるのに何言ってんの?」
そう口にして彼女の秘部へと触れた。
にゅるりと滑りけのある液が和樹の指を包む。くちゅくちゅと音を響かせながらかき混ぜるように指を動かすと
「んんっ、やぁ…!ぁ、あぁっ」
そんな甘い声と共に梓の身体が大きく跳ねた。ふ、っぁと浅い呼吸が漏れる。下着と一緒にパンツを脱がし、先ほどよりも大きく指先を動かして彼女の肉芽を刺激すると
「や、だ…やぁだ!そこ、だ、め…んっ、うぅ」
艶めかしい水音と共に一度大きくあっ…!と声が響いて梓の身体から力が抜けた。小刻みに震えている太ももを撫でてやると、その動きに合わせて小さく腰が揺れる。
配信してるのに、皆に聞かれてるのにイちゃった。ふぅふぅと呼吸を整えながらその事実に視界が淡くなる。
「酷いよぉ」
と思わず零した梓の耳に届いたのはかちゃかちゃという金属音。え、とその音にまさか、と頭を上げようとしたその瞬間
「あっ!?、え、ぁ、え?」
梓の身体を襲ったのは一瞬頭が、真っ白になるかのような快感だった。
徐々に高まっていく前兆もなく、挿入と共にイかされた。深い息を吸うことが出来ずあ、ぁと言葉にならない声が漏れる。
「あ、ん!ふぁ、う、あっ、んん、はっ、あぁ」
頭が、ちかちかする。ぐちゅぐちゅと粘液の混ざり合う音に紛れてきっつ、と苦しそうな和樹の声が聞こえた気がした。
ぎしぎしと軋むベッドの上で嬌声を上げる度もうむり、と確かにそう思っているのに。和樹が腰を振るう度ナカを締め付けてしまう、一度引き抜かれたらその直後、咥えたくて仕方がないというように身体が、疼く。こんなのおかしいと思いながらも与えられる快楽を、拒めない。
「主のこんな声初めて聞いた、良いぞもっとやれ」
突如和樹の口から紡がれたそんな言葉に梓は眉を下げた。
「なに、それ?」
「なにってコメントだよ」
配信画面に今流れてる。続いた和樹のその言葉に梓は言う。
「うそ」
「本当」
和樹はそう言うとその目を携帯電話の置かれた机の上へと向けながら
「興奮してきた、まじで助かる、可愛い、もっと喘いで」
読み上げられたその言葉に
「…今、ナカ締まったな」
そう言ってにっと和樹は口角を上げた。梓は目を逸らしながらその事実を否定しようとするが…んっ!と少し腰を動かされただけで簡単にそう甘い声を洩らしてしまい、ただ一言
「…意地悪」
とそう口にして小さくその目を尖らせた。
「嫌なら抵抗すれば良いのに」
梓のナカにしっかりと己の肉棒を含ませたまま、暴れてみろよと和樹は笑ってそう言葉にする。そんな和樹に和樹の視線に、梓は
「むりだよ」
ときっぱり、そう告げた。どうしてと投げかけた和樹に梓は答える。
「だって私今、身体に力を込めたらそれだけで」
またイっちゃうもん。少し恥ずかしそうにそう言葉を紡いだ直後、梓の口から
「…ぁ、え」
と驚きの声が零れ出た。じっとその目を和樹に向けて梓は言う。
「…ナカで今、大きくなった気がするんだけど?」
その言葉に今度は和樹が目を逸らす番だ。フー、フーと吹けもしない口笛を鳴らす和樹に
「えっち」
と梓がそう口にする。響いたその言葉に和樹は、ははっとそう笑みを零して
「それはお互い様だろ」
梓の唇を優しく塞いだ。
はぁ、はぁと2人でベッドに横になり乱れた呼吸を整える。あ、と先に気が付いたのは和樹の方だった。身体を起こし
「これ」
と手に取ったのは机の上の携帯電話。あ!と慌ててその手の中から携帯電話を奪い取り映し出した画面には
「…うそ、凄い」
見たことがないほどの沢山のコインとコメントが。
《とても良かった》《フォロー失礼します》《お疲れ様でした(笑)》流れていくそんなコメントたちに
「あ、いやえっと、こちらこそ!?」
思わず梓はそう返し、そうしてもう一度すごいとそう小さく零す。
《2回戦まだ?》《ちょっとベッド煩かったからこれで良いのに買い替えて》そう言って投げられるコインに梓はわぁ…!と声を上げた。表示されているコインの累計数にこれなら課金しなくても足りる!と心を躍らせたその瞬間
《次はRECでお願いします》
なんて、打ち込まれたそんなコメントに
「それはねぇよ」
口を開いたのは、和樹だった。
「な」
「あ?」
「ないんだ…?」
と少し、驚いたようにそう言葉にした梓に対してもう一度和樹は言う。
「ねぇよ」
そうしてはぁ、と深い溜息をついた。
「最初に言ったろ、これは協力だって」
あくまでも、梓がコインを貯められるように。無理な課金をしないで済むように。そのための、協力。
「声だけならまだしも、好きな女の身体や感じてる時の表情を他のやつらに見せたいわけねぇだろ」
少なくとも俺にそんな趣味はねぇ、和樹のその言葉に
「…なんだよ」
「え、へへ」
と梓はふにゃり、笑みを浮かべた。
「突然のことだったから困っちゃったし、勿論驚きもしたんだけど」
いやー、なんかと梓は頬を染めながら言う。
「私、愛されてるんだなぁと思って」
「そうだよ」
梓のその言葉に間髪入れずに返して和樹は言う。
「そうだよ」
だから、もっと俺のことも構え。ぽつりと小さく紡がれた和樹のそんな言葉に
「うん、ごめんね」
ありがとうと梓がそう言って微笑む。そんな2人の間に《末永くお幸せに》《リア充乙》とメッセージが流れていった。
その4か月後。映し出された画面には《君が世界一のプリンセスとのコラボ、第2弾!》の広告。
LIVEの文字と共に動き出した配信画面には《新ステいこう》《新しい銃試した?》なんてコメントが打ち込まれるが、表示されている画面がいつもとは違うことに気が付いたのか《あれ?》《主?》といくつかの困惑が生まれていく。
画面には上から下まで、コラボのアイテムで彩られた女の子のアバターが。
「えっとみんなー、こんばんは」
響くその声に《こんばんは》《今日はゲームしないの?》とそんなコメントが流れる。その言葉に、コホン。画面の向こうの配信主はそうひとつきして
「君セカとのコラボ、第2弾が決定しました!」
と声を上げた。その発言にコメント欄では《まさか》《ktkr》《ずっと待ってた》なんて言葉がちらほらと流れていく。勿論事態を理解していないリスナーもおり《何が始まるんだ…》《??》《ごくり》と疑問の声も多い。
それらのコメントを目に主はあーえっと、なので…とそう呟いて、しゅるり。布と布の擦れる音を響かせた。そして、言う。
「今日の配信は、サウンドオンリーです」
サウンドオンリー 神崎玲央 @reo_kannzaki
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