第79話 クレバー藍野
朝のホームルームが始まる前に、俺はヒナノと草刈……そして委員長を廊下に連れ出した。
もちろん理由は話をするためなのだが……
「何だ藍野。私の朝の時間は、とても貴重なものなんだぞ?」
何でわざわざそういうことを言うんだよ、話しにくくなるじゃんか!
「いやでも……そう言う割には委員長、結構素直に来てくれたよね」
「ほう……何が言いたい?」
「い、いや別に……」
だから怖いんだってば! 俺の華麗な論破を威圧で無かったことにしないでよ!
「それで藍野氏。我らを呼び出したってことは、何か進展があったのでござるか?」
「いやまあ、進展というか……とある作戦を決行しようとしててね」
そして俺はヒナノが考えた作戦の説明を2人にした。高円寺の後を追うこと、そして誰か代表1人が選ぼうと考えていることを……
そこまで聞いた委員長は。
「ふぅん……じゃあ藍野、お前の出番だな」
「え、えっ? 何で俺?」
「だってこういったコソコソするようなことは……藍野得意だろ?」
「なっ、なんて人聞きの悪い……」
いやまぁ実際にそうかもしれないけど! 1番存在感が無いのは俺だろうけど! 言い方ってモンがあるじゃんか!
「でも藍野氏。我も藍野氏が向いていると思いますぞ?」
「えっ、草刈君も……? いやいや、ここは公平にジャンケンでもして決めようよ?」
そうやって提案しても、素直に「うん」と頷いてくれる人は誰もいなくて。そして……
「あ、あのね! 実は私も、シュン君が適任かなって思っているの!」
「ちょ、ヒナノまで……」
おいおい……どうしてここまで俺にやらせようとするんだ?
そんなに俺に期待してくれてるの? やめてくれよ。俺みたいなクソザコメンタルの持ち主は、過度な期待をされるとプレッシャーへと変わるんだ……
そんな風に頭を抱えていると委員長が。
「まぁ……そんなに納得出来ないのなら、こういい変えてやろう。消去法で……藍野。お前しかいないんだ」
「え、消去法?」
「草刈は図体が大きいから尾行に向かない。雨宮は抜けている所があるから、ドジしてバレる可能性がある。そして私は……」
「委員長は……?」
「普通に行きたくない」
「……えっ?」
「私は小学生の頃から今に至るまで、無遅刻無欠席を続けている。だから……こんなことの為に早退など使いたくないんだ」
「えっ、えぇ……」
……いや、まぁね? 下手な嘘をつかれるよりはマシだけどさ……正直過ぎんだろ。
でも委員長はこういう人だよな……はぁ。仕方ねぇや。俺も腹を括ろう。
「ああ、分かったよ。俺が行く」
そしたらパァっとみんな嬉しそうな顔をして。
「うん! シュン君適時連絡してね! 私たちはこっちでサポートするから!」
「それは嬉しいけど……ヒナノ、お願いだから授業はちゃんと受けてくれよ?」
──
会話が終わるとチャイムが鳴り、いつもの学校生活が始まった。
その間、俺とヒナノは高円寺の動向を遠目で探りつつ、授業を受けたり、休み時間を過ごしたりしていた。
それで2時間目が終わった頃。高円寺が荷物をまとめて……外に出たのが見えた。
おっ、まさか……!?
「シュン君! 今だよ!」
「ああ」
ヒナノの合図で俺は、担任の机から事前にかっぱらっておいた『早退届け』を取り出して……机に置いた。
早退なんかしたことないから、使い方がよく分からんけど……そんなのどうだっていい。どうにかなるだろ。
それで、なるべく身軽で動きたかった俺は、財布とスマホだけを持って……急いで高円寺の後を追いかけた。
そして俺は階段を駆け下りて靴を履き……外に出る。
その時、何とかギリギリ門を出ようとしている高円寺の姿が見えた。
俺は音を立てないようにしながら、早足で向かう。そして後ろを追う。
一定の距離を開けたまま、高円寺の尾行を数分間続けていたら……とある地点で、高円寺の足がピタリと止まった。
「ん?」
高円寺の傍にはボロボロのポール状の物が……もしかしてアレってバス停か?
ならバスに乗るつもりなのか……? どこまで行くつもりなんだよアイツは。
というかこれ以上俺がバス停に近づいたら、高円寺にバレるよな。どうする……? 立ち止まるのも不自然だし、超スローペースで歩くか?
いやここは……ステップだ。宝島ステップだ。足をクロスさせながら2歩進んで、2歩下がる。
どうだ。これで歩いているように見えるけれど、1歩もその場から動いていないように見えるという神業。
ああ、家で練習しておいてて良かったぜ。ステップを笑うものは、ステップに救われるとはこのことか。ん? 何を言ってんだ俺は?
そんな狂った悪夢のような時間を続けていたら……バスがやって来た。
おおっ……助かった!
そしてバスは止まり、高円寺が乗ったのを確認した後、俺は走ってバスに乗り込んだ。
高円寺は前の方に座ったみたいなので、全くバレずに乗れた……流石だ俺。超クレバー。そしてステップに感謝。
そんなことを思いながら、走って息を切らした俺は……状況を確認しやすいであろう1番後ろの席にドスッと座ったのだった。
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