第5章 ピカピカの冬編

第77話 じゃがじゃが会議

 とある日の昼休み屋上。


「ねぇシュン君。最近、心美ちゃんの早退が多いと思わない?」


「え? ああ……言われてみれば、確かにそうかもな」


 コンビニで買ったじゃがりこをヒナノと分け合いながら、俺達は話をしていた。


 俺はそのカップからじゃがりこを2本取り出しつつ、続けてこう言う。


「でもいつものことじゃないか? あいつ、祝日のある週は自分で勝手に連休作ってたぞ」


「えっ、そうなの? ……んー、でも! やっぱり私は気になるよ! 昨日も先生に『このままだと出席日数が足りなくなるぞ』って言われてたの見たもん!」


「んー。そうなのか?」


 あいつはいくらサボり魔だと言えども、進級出来るギリギリのラインを狙っているから、少なくとも出席日数が足りなくなる、なんてことは起こらないと思うんだがな……


「なら、何かあったんだろうか。直接本人に聞いてみるか?」


 俺がじゃがりこをかじりつつそう言うと、ヒナノは少し不安そうな顔をした。


「でも……何かあったら、心美ちゃんから私達に話してくると思わない?」


「まぁ……確かにな」


 あいつは自分のことを喋るのが大好きだ。それも良かった出来事だけでなく、ツイてなかったことやグチも容赦なく聞かせてくる。


 ヒナノは俺以上にそれを味わっているだろうから……自然とそんな考えに至るのも当然だよな。


「だから……多分心美ちゃんは、何か私らには言えないような特別な事情で悩んでいるのかもしれないの」


「うーん、そうか……」


 しかし、そう決めつけるのには如何せん情報が足りない気がする。それならばとりあえず……


「じゃあ……あいつらにも話を聞いてみようか。情報が増えるかもしれない」


「えっ?」


 早速俺はあいつら……言わなくても分かるだろうが、草刈と委員長を屋上に呼び出すのだった。


 ──


「藍野。何の用だ? まさか雨宮とのイチャイチャでも見せつけるつもりか?」


「おい、なんだその嫌味は」


 そんで委員長の隣には。


「藍野氏、まだDの意志を受け継いでいるか答えるでござる!! 早く!」


「……だからお前は何を言ってる? ワンピの話は他のヤツにしてくれ……」


「違うでござる!! 藍野氏には、我の言いたいことが伝わるハズでござろう!!」


「……」


 つーかこいつらって、ここまで愉快なやつだったっけ……? 当然、これは褒め言葉などではない。


「呼び出した理由は……うん、ヒナノから伝えて貰おうかな」


 俺だとマトモに話を聞いてくれないと直感した俺は、ヒナノに託すのだった。


 そしたらヒナノは「うん」と快く頷いてくれて、2人に話してくれた。


「えっとね、最近心美ちゃんがよく早退するの。それもいつも以上の頻度で……だから2人は何か知ってないかなって思って」


 それを聞いた委員長は、手を顎に当てて。


「ああ、そう言えばそうだな。それは私も少し気にはなってはいたんだ」


「えっ、ホント! 委員長は何か知らない?」


「何があったかは知らないが……高円寺は遅刻と早退は半々ぐらいの割合だった。しかし現在では、早退が体感9割は超えている」


「……!」


 おっと……この情報は結構デカいのでは?


「えっと、それって……?」


「ふっ、それは藍野に聞いてみよう……何か気が付いたようだからな」


 ニヤッとした委員長は俺に問いかけてくる。何だそのエグい会話のパスは……何とか答えるけどさ。


「えっと……高円寺は何か、昼頃に用事があるってことなんじゃないか?」


「まぁ…………正解だな」


 あっ、当たったぁ……危ねぇ。


 委員長は俺の為に、見せ場みたいなのを作ってくれたのだろうか……それとも俺が間違えるのを期待していたのか……


「……」


 ……これ以上は考えないようにしよう。


 そして次は草刈が口を開いた。


「んー。我のは情報になるか分からないのでござるが……」


「何でもいいの! 草刈君、教えて!」


 ヒナノは草刈に詰め寄る。こんなキュートなヒナノにグイグイ来られて、冷静でいられる男なんて……


「あっ、雨宮氏……!?」


 そうそういねぇよな。


 草刈は慌てたように……そしてデレデレしたようにヒナノに喋るのだった。


「え、えっとですな。この頃の高円寺氏は、あまり体調が良さそうには見えませんでしたのですぞ。それに……クマも酷い日があったので、寝不足気味なんではないでこざろうか」


「寝不足気味……?」


 昼に用事、そして寝不足か……これらを合わせて思い付くのは……思い付くのは……


「いや、分からねぇな……」


 残念なことに俺は名探偵ではないんだよ。チラッと委員長を見てみると、俺と同じように難しい顔をしていた。


 きっと委員長も思いついていないのだろう。


「うむ……もしかして高円寺氏は、バイトでもやっているのではござらんか?」


「いや、高円寺はそこまで苦学生の様には見えなかった……その線は薄いと思う」


「あっ! 実は高校生は世を忍ぶ仮の姿で……実は心美ちゃん、世界を守る魔法少女だったりして!」


「……雨宮。まさかとは思うが……本気でそう思ってはいないよな?」


「えっ! あはっ、じょ、冗談だってば!」


 いや委員長……ヒナノは結構本気で思っていたと思うぞ。だって思い付いた時、めっちゃ嬉しそうな顔していたもん。


「うーん……」


 まぁ……収穫はあったけど。そこまで大きな情報は得られなかったな。


「えっと……じゃあ本人にバレない程度に上手く探っていこう。じゃあ今日は解散で」


 これ以上何も浮かばなそうだったので、ひとまず俺はこの集まりを解散したのだった。

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