第51話 ちびちびポテトの委員長

 それから……何日か経った。


 変わらず俺はずっと家で過ごしていたが……マジック、ゲーム、勉強……何をしていても、それらに集中することが出来ずにいたんだ。


「……」


 理由は当然……あの日の出来事だ。


 あの日……ヒナノの大会の日。


 俺は高円寺と喧嘩をした。そして……結果としてヒナノを悲しませてしまった。どれだけ頑張ってあの日を美化したとしても、この事実は変わらなかった。


 ……もちろん高円寺とは仲直りしたいし、ヒナノを傷付けてしまったことを謝りたいと思っている。


 元通りの関係に戻れたら、ってずっと考えている。


 でも……でも……それをどうすればいいのか。どうやって謝ればいいのか。


 何なら……本当に俺が悪いのか。俺のどこが間違っていたのか。


 それがまだハッキリと理解出来てないから……何も行動を起こせずにいたんだ。


 ……だからと言って何もしない間、気持ちが収まる訳でもない。むしろ日が経つ度に関係が崩れていくような……そんな気がして、本当に苦しかったんだ。


 何か元に戻るようなきっかけが欲しい……そう切実に願っても、叶わないのは分かっている。きっかけは、行動しなきゃ手に入らないのは分かっている。


 でもその何をやるべきなのかが分からなくて、またずっと悩んで吐きそうになる。


 このループが無限に続く。


「……」


 ああ。どうして……慣れていた筈の一人ぼっちが。こんなにも苦しくて。辛いんだよ。


『ピポパピポパポン』


「……ッ!?」


 刹那、電話の音が響いてきた。誰だ……誰なんだ相手は……!?


 俺はスマホを手に取って名前を見た……そこに書いてあったのは。


『草刈』


 草刈だった。


「……草刈、か」


 ……俺はどこか安心したような。ガッカリしたような……そんな変な気持ちになりつつ、電話を取った。


「……もしもし」


「おお、もしもし! 久しぶりですな藍野氏!」


「草刈君……どうしたの?」


「ややや……藍野氏、体調悪いのでござるか? 元気が無さそうですぞ?」


 草刈の察知能力が高いのか、俺があからさま過ぎるのか分からないが……多分後者だろう。


「……あぁ。ちょっとね」


「本当に大丈夫でごさるか? キツくなったら薬とか飲むんですぞ?」


「……うん。ありがとう」


 それで草刈は……どうも俺らに起こった出来事を知らないみたいだ。恐らく大会にも行ってなかったのだろう……一応聞いてみようかな。


「そういや草刈君……ヒナノの大会に行った?」


「ああそれは……高円寺氏から『来なくていい』と連絡を受けてですな。だから行ってないのでこざるが……あれ以来、グループらいーんも活動していなくて、ずっと不思議に思っていたのでござるよ」


「……だから俺に電話を?」


「そうでござる!」


 ……なるほど。これで俺に電話をかけてきた理由に合点がいった。


 そりゃグループでお喋りな高円寺が、全く喋らなくなったら不審に思うのは当然だもんな。


 それで……どうしようか。このまま誤魔化しても、どうせ草刈はヒナノや高円寺に電話するだろうから……隠し通せるとは思わない。


 ならもう……思い切って相談するべきかな。


 まぁ……悲しいことに。俺の心は限界みたいだし。選択肢はないようなものだけどな。


「藍野氏?」


「あっ……ごめん。草刈君、少し話したいことがあるんだけど……いいかな?」


「ほう、それなら……我ら会って話すのは、どうでござるか?」


「えっ?」


「ほら、直接会った方が藍野氏も話しやすいでござろう?」


「……まぁ。そうだね」


 わざわざ俺の相談に乗ってくれているんだ。外に出るのは億劫だが、ここは従うのが無難だろう。


「ええ! それではマジ高前のマックへ集合願いますぞ!」


「分かった」


 電話を切った後に俺は……その辺に落ちていた服に着替え、椅子にかかっていたパーカーを手に取った。


 ──


 マック。


 説明するまでもないが、おいしいおいしいファストフード店である。


 そしてこのマックはマジ高前にあるので、いつもマジ高生のたまり場となっているのだ……それが嫌だから、俺はあんまり行かないけどね。


 そして俺は店に入って、草刈の姿を探した……が、中々見つからない。


「……」


 んん……どこだ? もしかして2階にいるのか?


 俺は狭い階段を上がってまた探す。ええっと草刈……草刈……





「ん、藍野遅いぞ」


「……えっ?」


 そしたら……俺のよく知っている人を発見した。でもそこに座っていたのは、草刈ではなくて……


「しかし美味いなこれは。中毒になりそうだ」


「……委員長?」


 ちびちびとポテトを食べていた委員長だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る