第42話 照れ&照れ

 そして俺はまたプレゼントを探す作業に戻っていた。うーん。「何を貰っても喜んでくれる」か……


 それは……俺もそれは薄々気が付いていたのかもしれない。だってヒナノは優しいから……何なら嫌なものを貰ったとしても、きっと彼女は喜んだフリもしてくれると思うんだ。


 まぁ……それなら何を渡してもいいや、という考えには絶対にならないけど。


 きっと店員さんは、そこまで命を削ってまで考えなくてもいいんじゃないかな、みたいなニュアンスで言ってくれたんだと思うけどね。


 そして高円寺の『好きなら相応する物を渡せ』か……この言葉も引っかかっているんだよな。


 見合うもの…………それは似合うもの?


 ダジャレかよ。


 ……そういや。ヒナノには何が似合うんだろう。可愛いから大抵は似合うんだろうけど……ちょっと想像してみようかな。


 カチューシャとか大きなリボンは、絶対に似合うだろう。白いワンピースと麦わら帽子も良いな……アイドルみたいなキラキラな衣装も見てみたいし、水着……いや水着は駄目だ。何か妙に…………これ以上は止めておこう。


 まぁ……そんな洋服とかをあげる勇気なんかないから、勝手に想像するだけなんだけど。


 ……というか。


 俺はヒナノを喜ばすことだけを考えていたけれど……俺自身も喜ばすことも考えないといけないんじゃないか?


 何を言っているんだ、と思われてしまうかもしれないけれど……けどそれが正解なのかもしれない。


 今まではヒナノがどう反応するかどうかだけを考えていたけど……俺がどう反応するかも考える必要がある。俺からそれを贈る意味というのが必要なんだ。


 まぁグチグチよく分からないことを言っているけれど要するに……俺もヒナノも喜ぶ物を渡せばいいんだよ!!


 そう思ってから……俺の判断は早かった。俺がビビっときた商品を手に取って……レジへと向かったのだった。


 ──


 そして迎えたヒナノの誕生日。俺は朝早くに登校し、ハートのエースのカード。そしてその後ろにクイーンとキングのカードを重ねて、ヒナノの下駄箱に入れた。


 つまり昼休みに屋上へ集合、というメッセージだ。


 久しぶりにカードを使ったから通じるか不安だったけど……ヒナノが登校してすぐ、俺に向かってニコッと笑ってくれたので、多分通じているみたいだった。


 そして俺は……一日中ずっとドキドキしながら、授業を受けたのだった。


 ──


 昼休み。俺は昼食も取らずに屋上へと向かった。もちろん、包装されたプレゼントも持ってね。


 そしてソワソワ……ソワソワしていると。扉の方から足音が。そして……!


「へへへっ、お待たせ!」


 天使がやって来ました。


「まっ、待ってないよ!!」


「なら良かったよ! ……シュン君が昼休みに呼んでくれるのって久々だね。何かあったの?」


「えっと……」


 俺は勇気を出して……プレゼントを取り出した。そして……!!


「えっと、ヒナノ! お誕生日おめでとう!!」


「えっ、えっ!?」


 ヒナノは随分と驚いているようだ。予想すらしていなかったのだろう。そんなヒナノに俺は。


「プレゼント……受け取ってくれ!」


 包装紙に包まれたプレゼントを手渡した。


「えっ、シュン君! 本当に貰ってもいいの!?」


「うん! 俺が選んだんだ!」


「うわぁっ……嬉しいよ……!」


 そしてヒナノは俺のプレゼントを受け取ってくれた。ここまで喜んでくれるなんて……本当に良かったよ。


「ねっ、ねぇねぇ! 開けてもいいかな?」


「もちろんだよ」


「やったー!」


 ヒナノは俺のプレゼントをバリバリと開ける。そして取り出した物は……


「えっ、これって……ヘアピン!?」


 そう。2本のヘアピンだった。


 1つはお花の大人っぽいヘアピン。もう1つはクリーム色の小さなリボンが付いた、可愛らしいヘアピンだ。


 両方、あのお店で……俺がチョイスした物だ。


「うん。ヒナノに似合うかなって。そして……これをヒナノが付けてる姿が見たいなって。思ったんだ」


「わぁっ……!! とっても可愛いよ! シュン君、本当にありがとう!」


 ヒナノは俺の予想以上に。とってもはしゃいで喜んでくれたんだ。


「うん。俺も嬉しいよ」


「ねぇねぇ、付けてもいいかな!」


「いいよ!」


 そしてヒナノは前髪を上げて……2本のヘアピンを付けた。


「……ふふっ、シュン君。どうかな?」


「……」


 その姿はお世辞抜きで……テレビに出ている女優とかとは比べ物にならない程……めちゃくちゃ可愛かったんだ。


 めちゃくそドクドクと早くなった、心臓の鼓動を押さえつけて……俺は。本心をヒナノに伝えたんだ。






「ヒナノ……とっても可愛いよ」






「えっ……!?」






「……」


「……」


 ……あれっ? もしかして俺……とんでもないことを言ってしまったんじゃないか?


 恐る恐る前を向いてみると……顔を真っ赤にして、目をグルングルン回しているヒナノがそこにはいた。


 ……多分。俺もヒナノと同じ感じになっていると思う…………そして。俺らは顔を見合わせて……


「あっ、ありがとう!! 私、とっても嬉しい!!」


「おっ、おう!! そうだろう!!??」


「うん!! すごいセンスだよ!!?」


「ああ!! そうだろう!!??」


 お互いに恥ずかしさを隠しているのか……いつもよりも3倍くらいの声量で会話をした。当然頭は……上手く回っていない。そして何を言ってるかも……分からない。


「じゃ、じゃあ教室に戻ろっか!! シュン君!!」


「そうだねっ!! ヒナノちゃん!!!!」


 そして俺達は教室に戻ったが……それから、会話は1度もしなかったのだった。


 何でかって? 照れちゃうからだよ。

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