第26話 善良な方の陰キャ

「……じゃあ話しますけど」


「何でお前いじけてんだよ」


「別にいじけてないもーん」


「……まぁいいから。聞かせてくれ」


 ここで拗ねられて、喋らなくなったら困るからな……もう大人しく聞いておこう。


「んーそれじゃあ、まずはウチの話からしよっか」


「ああ……いいけどさ」


 おっと、これは長い話になりそうだぞ。


「ウチはさっきも言った通り、たまにしか学校に行かないんだ。理由は面倒だから!」


「……威張って言うことじゃねぇぞ」


「まぁーね。それで……1週間前くらいだったかな? 久しぶりに学校に行くと……めっちゃクラスがどんよりしてたんだよね」


 どんより? もしかしてあの出来事……俺が教室をめちゃくちゃにした後のクラスの話か?


「まぁ気になるから、何があったのか聞いちゃうよね……めっちゃ落ち込んでいる感じのヒナヒナに」


「どうしてヒナノなんだよ」


「それは、ヒナヒナはこんなたまにしか来ないウチみたいな変人にも優しくしてくれる……ウチの唯一の友達なんだよ!?」


 変人なのは自覚してるんだ……これを口に出すと面倒なことになるのは予測出来たので、黙っていたけど。


「で、まぁご存知……んふふふっ、皆さんご存知の通り。文化祭の道具が壊れた件で、あいのーんと坂下達が争ったらしいんですけど」


「何で笑った」


「え、笑ってないよ?」


「……あ、そう」


 もういちいち止めてたら、話が進まねぇよ。


「でもまぁ話を聞いたウチは九分九厘、坂下側が犯人だと思ってたんだよね」


「……どうして?」


「だってほら、あいのーんは善良な方の陰キャでしょ?」


「何だ善良な方の陰キャって」


 絶対に褒めてないだろそれ。俺、怒っていいやつだろ。


「でも、証拠が無いからさー。アイツらを縛り上げられなかったんだよねー」


「まぁ……奴らはアリバイ工作していたからな」


「でしょ? だからその証拠は諦めてさ、他の作戦を考えたんだよ」


 何だ。アイツらが破壊した証拠を見つけた訳じゃないのか……ならより一層謎だな。


「どんなことを?」


「それはね、アイツらがまた悪事を働いた瞬間の映像を収めようとしたの」


「えっ?」


 そんなことが出来るのか? だってまた悪いことを繰り返す保証もないんだし……


「あっ今、『また悪事を繰り返すとは限らないじゃねぇの!?』 ……って思いましたね?」


「勝手に心の中読むのやめてもらっていいっすか」


 エスパーかコイツ。それとも妙に勘が鋭いのか。


 そして高円寺は身振り手振りで、俺に訴えかける。


「あのね、心優しいあいのーんには分からないと思うけどさ……悪い人って本当に悪いんだよ!」


「はぁ……」


「分かる!? ウチらが想像もつかない程、心が腐っているんだよ!」


 まぁ……高円寺の言わんとしていることは分かる。要するにサイコパスだの良心を持たない人のことを指しているのだろう。


「何となくは……分かるけど」


「そんな人はね、ほんっとーに悪いから平気で人を傷付けることが出来ちゃうの! 息を吸うのと同じくらい簡単にね!」


「……」


 何か急にスイッチが入ったかのような喋りっぷりだな……何か思うことでもあるのだろうか。


 別に……掘り下げて聞いたりはしないけど。


「だからその2人は、今後も絶対に悪事を働くと思ってたから……証拠を掴むためにウチ、毎日学校に行くことになっちゃったんだよ!?」


「何でキレてんだよ……」


 言うまでもないが、それが普通の高校生の生活だからな……


「それで……結論から言うとね。予想通り2人とも悪事を働いたんだ。それもまぁーエグいやつ。証拠もゲットしてるんだ」


「……」


「内容、知りたい?」


 もう既に嫌な予感しかしないけど……ここまできて聞かない選択肢はないよな。


「……ああ。教えてくれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る