第二章

第1話 あらたな校則

 夕陽が差し込む、放課後の生徒会室。


「諸君!」

 

 金の髪に、サファイア色の瞳をしたアドレー・リューファスが、高らかに宣言した。


「今日は男女交際について、話し合いたい!」

 

 アドレーは王立魔術学園の三年生、生徒会長だ。

 リューファス王国のきらきらしい王太子で、クリスティンの元、婚約者である。


「学園は学業を修めるところだ、男女が交際する場ではない! 違うか!?」


 アドレーは、生徒会のメンバー一人一人を見回す。


「違わない」


 冷たい美貌のラムゼイが、椅子の背に腕をかけ、半ば面倒くさそうに答えた。


「男女交際の場ではない、ええ、その通りですよ、殿下!」


 クリスティンの義兄スウィジンが深く頷く。


「そうです! 色恋にうつつを抜かすと、風紀が乱れるし!」


 魔術剣士のリーも、強く賛同した。

 四人は、何やら一致団結している……。

 

 生徒会メンバーは前年と同じで、彼らのほか、クリスティン、隣国皇子ルーカスが所属している。

 メルはクリスティンの近侍として、いつも付き従ってくれている。

 

 アドレーは勢いづいた。

 

「そう、我々はまだ学生なんだ! 学業に専念すべきだ。他生徒の模範となるべき生徒会役員が、男女交際などしている場合ではないだろう!? 禁止にしよう、男女交際を!」

「どうでもいいが、どちらかといえば、おまえの意見に賛成だ」

「異議なしです」

「殿下、たまにはよいこと言います!」

「リー、私はいつも、有意義な発言をしている、たまにとは何だ!」


 ラムゼイ、スウィジン、リーが男女交際禁止に賛成し、クリスティンとルーカスは皆の勢いに引き気味、メルは無言だった。


「では多数決により、決定だ!」


 ──王太子の強権発動で、学園にあらたに男女交際禁止の校則ができた──。




◇◇◇◇◇




 最近、ゲームの攻略対象の様子がおかしい。

 

 クリスティンはメルと昼食を摂りながら、近頃の皆の異様さを思い、溜息をつく。

 

 この春、進級し、魔術学園の二年生となった。

 メルと想いを通わせたクリスティンだが、話し合い、卒業までここに留まることにした。

 二人の関係も周囲に内緒にすることになった。

 

 クリスティンとしては、今すぐにでもメルと国を出る覚悟だったのだが、彼は先日こう言ったのだ。



「二年間よく考えてください」


 クリスティンは首を傾げた。


「どうして? わたくしのこの気持ちは、変わったりしないわよ。二年後でも今でも同じなのに……」

「お気持ちを疑っているのではありません。後悔のないようにしていただきたいからです。一生のことです。帝国に行けば、簡単にこの国に戻ることはできなくなるでしょう。皇太子妃として、縛られることも多くあるはずです。クリスティン様に無理を強いてしまうなら、私はむしろ使用人でいたいと思います。あなたのお傍にいられれば、それが何よりの幸せですから」

「メル……」

「卒業までどうかよくお考えください」

 

 メルは、帝国に戻るかどうか、二年後に返事をすると帝国側に連絡をした。

 皇太子という身分を知るのは、この王国においてはクリスティン、ルーカス、ソニアの三人だけである。 

 ソニアは今、聖女の使命により聖地に赴いていて、数ヵ月は、首都に戻らない。

 

 今すぐにでも、メルと結婚をしたいというのが、クリスティンの正直な気持ちだ。

 好き合っているのに、主従という今の状態でいなければならないなんて。

 が、情熱のまま突っ走るより、考える時間があったほうが、メルにとっていいとクリスティンは思い、了承した。



 昼食を食べ終え、クリスティンは隣のメルをじっと見つめた。

 光を弾くプラチナブロンドの髪に、濃い紺の双眸、高く細い鼻梁、甘やかな唇、綺麗なフェイスライン。

 どの角度から見てもとても整っていて、見惚れてしまう。

 彼は瞬いた。

 

「クリスティン様?」

 

 ここにはひとけがない。秘密の訓練場で二人だけでお昼を摂っていた。

 寮は別々。今は二人だけで過ごせる貴重な時間である。

 クリスティンは彼の指を摘まんだ。


「クリスティン様……」

 

 メルは目を僅かに見開き、クリスティンの手を握りしめた。

 互いに近づき──。

 

「……いけません」

 

 しかし彼はそう言って、耳を赤くして俯いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る