第3話:生徒会長?

「どうして僕はここにいるのだろう?」




 気がついたら僕は生徒会室で執務をしていた。

 というより、ただ机に積まれた紙を眺めていた。




「それは名倉くんが生徒会長だから……かな?」




 隣で苦笑を見せてくる少女―― 六条朱莉ろくじょうあかり

 


 肩ほどまでの金髪。

 小柄な体。

 少し気弱そうな表情。



 どれをとっても先輩には見えないが、れっきとした三年生。

 僕にとっては二つ上の先輩だった。



 突然先輩から呼び出しを受け、よもや決闘を挑まれるのかと身構えてしまったが、実際は生徒会室へ連れてこられて、雑務を押し付けられていた。



 そんな状態なのだから、状況が飲み込めないのは仕方ない。



 しかも、先輩は僕が生徒会長だから連れてきた、としか言ってくれない。




「そんなことを言われても、そもそも僕は生徒会長をやるなんて一言も言ってないですよ?」


「学園一位だからだね。強制だよ」




 先輩は苦笑をしていた。




「それで生徒会長って何をしたら良いのですか?」


「基本的には校内の見回りだね。魔法の不適正利用を取り締まる感じかな。あとは見ての通りたまってる雑用をこなしていってね」


「頑張ってください、先輩」


「私より名倉くんが頑張ってよ」


「やる気のない僕に言わないでくださいよ。そもそも僕が魔法で制圧すると後に何も残りませんよ?」




 何もできずにあっさり制圧されてしまうって意味で言う。

 しかし、先輩は苦笑を浮かべる。




「さすがにそんな時は名倉くんが手加減して――」


「手加減……難しいですよ」




 不特定多数を相手にしないといけない、なんて考えたくない。


 いや、上手く立ち回れば同士討ちを狙うことはできるか?


 でも、できるだけ相手にはしたくない。




「――強すぎるのも考えものだね。せっかく名倉くんの情報収集しようと思ったのに」




 先輩の本当の目的はそれの様だ。




「そういえば先輩の順位って……?」


「えっ? 私は名倉くんの次だよ? ……もしかして知らなかった?」


「あっ、はい。自分のことでいっぱいだったので――」


「生徒会の会長、副会長はそれぞれ一位と二位が担当することになってるんだよ。魔法学園の代表たる人物だからね。当然と言えば当然だけど」


「そうですか……。一位、いりますか?」




 正直、決闘なしで渡せるものなら渡したい。

 でも、先輩は首を横に振る。




「あははっ、まだ名倉くんに勝てる気がしないよ。そもそも相手の情報を収集する前に挑むのは猪過ぎるよ」


「えっと、初日に挑まれたんですけど……」


「六角くんだね。魔力は多分私より強いんだけど、ちょっとまっすぐすぎるところがあるんだよ……」


「先輩も同程度の魔力があるのですね……」


「それは内緒だよ」


「えー、教えてくださいよ。そのうち決闘を挑んでくるんですよね?」


「……うん、もちろんだよ? それなら名倉くんの情報ちょーだい。それと交換で教えて上げるよ」




 先輩は可愛く舌を出しながらお願いをしてくる。


 ただ、そんなお願いをされたところで僕には渡せる情報はない。

 それに下手に情報を渡すと、先輩が襲ってくることに他ならない。




「いいですよー。まぁ、噂の通りですけどね」




 根も葉もない噂だが、こういうときには役に立ってくれる。

 僕がニヤリと微笑みながら言うと先輩は諦めにも似た表情をする。




「やっぱりそうだよねー。さすが学園長クラスの魔力は伊達じゃないね」


「ロリち――。学園長クラスと言われてもあまり嬉しくないですね。見た目がその、子供だし――」


「あははっ、学園長をそんな呼び方にできるのは名倉くんだけだよ」




 先輩が楽しそうに声を出して笑っていた。




「むしろそうとしか呼べないですよ? それで僕の情報を教えたわけですから、先輩のも教えてくださいよ」


「私はそこに書いてある通りだよ?」




 僕の机におかれていた資料。

 それは生徒のランキング情報だった。


 僕のは除かれて、一番上に置かれているのは先輩だった。



六条朱莉ろくじょうあかり[2位]

光[放出(A)][付与(A)][感知(A)][その他(A)]




「えと、光属性の魔法が得意なんですね?」




 光魔法。

 光そのものを扱うものから、物体に光の如く速度を与えて、とんでもない破壊力を生み出すものまで、多種多様な使い方がある。



 しかも先輩は全ての型を使うことができる。

 ただ明るくなるだけ……とは考えにくい。


 でも、何を考えているのか全くわからない。

 今のままだと選択肢が多すぎるので、少しでも減らしておきたい、と思っていた。




「そうだね。隠してても調べたらすぐ出てくるかな。生徒会なら学園のイベント情報も残ってるもんね。これが私の得意魔法だよ」




 にっこりと微笑んだ先輩が手に持っていた消しゴムを指で弾いてみせる。

 その瞬間に僕の頬横をものすごい速度の何かが飛んでいった。




 ボコッ。




 鈍い音を鳴らして僕の後ろにある壁に消しゴムが埋まっていた。

 そのあまりの速度に身動き一つ取れず、表情も固まったままだった。




「結構魔素圧をかけながら放ったんだけど、やっぱりわざと・・・外そうとしてるのが分かっちゃうんだ」


「あ、あははっ……、ここで当てようとしても意味ないですからね。決闘じゃないですから」




 心の中では冷や汗を流していたのだが、それを表情に出さずに笑みを浮かべる。




「でも、光速でものを射出する魔法なんですね」


「――まぁ、そういうことにしておくよ。ただ名倉くん、本当はわかってるよね? はぁ……、まだまだ届きそうにないね」




――?? もしかするとただ早く放っただけじゃない? ただ、僕がまるで全て見通してると思われているので、これ以上聞くことは憚られた。

 むしろ向こうが勝手に勘違いをして、決闘を挑んでこないならそれはそれで好都合だったからだ。




「はぁ……、分かりました。面倒ですけど適当に校内を見て回ってきますね」


「……私も一緒に行こうか?」


「いえ、一人で大丈夫ですよ。それと他のメンバーも探さないといけませんよね?」


「書記と会計と庶務……は必須かな。あとは魔法執行部長とかがいたときもあるね」


「三人以上ですね。先輩もいい人がいたら教えてくださいね。僕みたいな一年がするより三年の人がした方が良さそうですから」


「うーん、全部名倉くんが担当するのが一番良さそうなんだけどね」


「無茶言わないでくださいよ」


「あははっ。でも、三年で探すよりは名倉くんが一緒にいやすい人を探すべきかな? ほらっ、名倉くんって一年だし、今の三年は反発して名倉くんの指示を聞かない人が多そうだから……」


「でも、魔力が高い人の方が良いんですよね?」


「そこは名倉くんがいたら問題ないよね?」


「……うん、問題しかないですよ」


「あははっ、大丈夫だよ。私もいるし。あと、それでも不安なら三位の人を魔法執行部長に置くのは考えられるけど……」




 三位……。六角先輩か……。

 また襲ってきそうだからなぁ……。




 やはり最初の印象が強いので、どうにも気が進まない。




「そこは一旦保留にしますね。とりあえず必須の三人は探してみます」


「うん。目指せハーレム、だね」


「先輩……、僕をからかってますよね?」


「あははっ、むしろそっちに現を抜かしてくれると私は嬉しいけどね」


「はぁ……、むしろ能力で決めさせていただきますよ。それじゃあ、少し出てきますね」


「いってらっしゃーい。私、お菓子が欲しいな」


「購買部に行くわけじゃないですよ……」



 ため息交じりに僕は生徒会室を出て行った。

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魔法を使えない最弱が学園トップに君臨するそうです〜学園最強の偽装者〜 空野進 @ikadamo

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