第2話 初詣に行きましょうと私は誘った
「穂乃果ー。太一君ー。ご飯よー」
お母様からの呼び声が響き渡る。
あ、ご飯のことすっかり忘れてた。
先輩との一緒の日々は楽しくて、ご飯を忘れてしまうことすらある。
「さすが
先輩が、お母様の作った御節を褒め称える。
並んでいるのは、数の子の塩漬けに黒豆、伊達巻き、田作り、きんぴらごぼう。
それに加えて、焼いた車海老に焼いた鯛。
さらに、里芋やレンコン、人参などを使った煮物といったところ。
お雑煮は京風に、白味噌にお餅を入れたシンプルな代物だ。
「お母様もお疲れ様です。毎年、結構、手間がかかってますよね?」
年末から数日に渡ってお母様が御節の準備をしているのを私達は見ている。
結構手間がかかるものもあるらしく、大変だっただろうなと思う。
「もう毎年の事だからね。慣れたわよ」
そう涼しく返すお母様だけど、どれくらい時間をかけたんだろうと思う。
いつか、私も先輩と……夫婦になって、御節を作ったりするのかな。
なんて、先走って未来を妄想したりもしてしまう。
それもこれも、先輩が悪いのだ。意地悪で、でも、優しいから。
「いやいや、本当に毎年助かってるよ、由佳。愛してる」
そうお母様を労うのは私のお父様。本名を
製造業に勤めていて、長期主張が多いけど、さすがに正月休みは取れたみたい。
いつも大変そうだから、正月くらいはゆっくりして欲しいな。
でも、娘の前で愛してるだの何だの言わないで欲しい。
「もう、良一さんったら。元旦から愛してる、だなんて♪」
ほら、お母様が嬉しそうにしている。
お父様とお母様は高校生の頃に知り合ったらしい。
詳しい経緯は知らないのだけど、こうして今もラブラブだ。
こういうのを見せられると、やっぱり出張に行ってて欲しいと思ってしまう。
「由佳さんも良一さんも、新年から夫婦でいちゃつくのおは勘弁してくださいよ」
幸い、先輩も同じ感想だったらしい。
いい加減食傷気味なこのやり取りにげんなりした様子でストップをかけてくれた。
「それを言うなら、太一君と穂乃果もいちゃいちゃすればいいじゃない?」
にやあとお母様が笑みを浮かべる。
「わ、私と先輩はもうちょっと慎みがあるんです!」
何が悲しくて、お母様たちが見ている前でそんなことをしないといけないのか。
「ですよね、先輩!」
きっと、同意してくれるだろうという意図を込めて視線も送ってみる。
先輩なら、わかってくれるよね?
「……」
のだけど、何やら先輩は黙り込んでしまった。あれ?
「穂乃果、その、愛してる。元旦から、こうして居られて、幸せだぞ」
恥ずかしそうにしながらも、先輩はそんな愛の言葉をくれたのだった。
「ちょ、ちょっと。先輩……」
「いやさ、たまにはよくないか?こういうのも」
「ず、ずるいですよ。でも、私も大好きです、太一先輩」
ああ、なんでお母様たちが見てる前でこんなことしてるのかな。
でも、愛していると言われて、気持ちを返さないわけにもいかない。
「太一君もなかなかやるじゃない。あれだけ恥ずかしがってたのに」
「それはもう過去のことですから」
しれっと返す先輩だけど、やっぱり恥ずかしそうだ。
「太一君が卒業したら、うちに婿入りしてほしいくらいだな」
「良一さん。さすがに、それはまだ気が早いわよ」
「いやいや、こういうのは早い方がいい。で、どうだい?」
お父様も意地悪だ。本当に。
「け、検討させていただきます」
先輩も、さすがに婿入りは即断出来なかったらしい。
そんな風にしてお茶を濁していた。
どうせなら、「是非とも」くらい言って欲しかったな。
て、私もお母様たちに毒されてる。
「で、太一先輩は
御節を食べ終わった私達は、再びゲームプレイを再開。
『
「そのつもりだけど。そんなに不満か?」
意地悪な視線で私を見てくる先輩。
それは、このキャラに私を重ねているのはわかる。
でも、先輩の家に、ゲームしまくって入り浸ったのは私の黒歴史でもあるのだ。
小学生の時分だから許された蛮行であって、高校生になった今、とてもじゃないけど出来る気にはなれない。
「はい。結婚相手は、
先輩、先輩と元気に主人公を慕う歩乃華は女性の私からみるとどこかあざとい。
でも、
それに、字が違うとはいえ、同じ名前だ。愛梨と主人公が結ばれると、
なんだか寝どられた気分になってしまいそう。
「讓るつもりはないんですね?」
念の為確認を取る。
「ああ」
そして、予想通りの肯定。ゲームに関してはやっぱり先輩も譲らない。
「わかりました。それじゃ、初詣で決めましょう!」
さっきゲームをプレイしながら考えていた案を私は提案する。
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