ギャル勇者メーシャちゃんに、まとめて全部まかせろし! 〜《ギャルのキックはジャッジメント》世界征服たくらむ邪神に『ガツン!』と右脚叩き込みます!!〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)

はじまり

第1話 『ギャルなあーしと、めちゃでかいタコ』

 とある海辺の堤防にて、ひとりの女子高生がたこ焼きを食べていた。

「あちゃ~。たこ焼き冷めちゃってるし……」

 毛先に青のメッシュの入った茶髪を、クルクルと指で回しながら女子高生がぼやく。

「まー、美味しいからいっか! しかも、今日暑いし」

 しかし、一瞬で気を取り直し、茶色の革靴をプラプラと足で遊びながら、たこ焼きをもうひとつ口に放り込む。靴下が土踏まずの所まで下がっているのは、蒸れてしまったからで間違いない。

  この女子高生は、一二三(いろは)メーシャ。高校二年生の女の子、先にも書いたが茶色の瞳で、茶髪の髪に青のメッシュが入っており、ピンクのリップはお気に入りのモノしか使わない、制服もちょいちょい着崩し、靴下はカワイイもの以外ははかない、『面白そうなことはとりあえず試してみる。やるときはやるけど、基本軽いノリで』がモットーの、いわゆる“ギャル”だ。

 メーシャはウイルス研究をしている父と、専業主婦をしている母、そして真っ白な毛と赤い目を持つハツカネズミのヒデヨシの、3人と一匹の家族である。

 ゲーム好きの母の影響でメーシャは小さい頃から空想の世界が大好きなので、ゲーム的、アニメ的シチュエーションは大好物である。

「あ、タコふたつ入ってっし。あーし、やっぱツイてんね!」

 学校指定の青ブレザーのボタンを外し、赤いネクタイを緩める。

「やば。ソースこぼれちゃったし」

 灰色のスカートの裾に落ちたソースを急いで指で拭きとるが、くっきりと染みになってしまった。

「あちゃー。またママに怒られる」

 と言いつつ、女子高生は一切困った顔をせず、もうひとつたこ焼きを頬張る。

「チュー」

「あ、ヒデヨシ起きたの? おはぴ」

 カバンの横に置いていたクリアケースの中にいたハツカネズミが、目を覚まして鳴いた。

「つか、パパめちゃ酷いんですけど。ヒデヨシによく分かんない注射打つとかさ」

「チュー……」

 このハツカネズミがヒデヨシだ。

「つか、あの注射なんだったんだろーね? なんか、研究の成果だー! って言ってたけど」

 食べ終えて空になった容器を小さめのごみ袋に包んで、無造作にカバンに突っ込む。

「あ、もうこんな時間か。どーりで太陽が赤いわけだ! あはっ」

 スマホには18時と表示されていて、海を照らす日の光は夕方のそれだった。

「そろそろ帰ろっか。流石にもうヒデヨシを実験に使ったりしないっしょ」

 女子高生はヒデヨシに語りかける。

「チュウ……」

「大丈夫だって! もしもん時は、あーしがガツンと言って謝らせるし。でも、ヒデヨシもパパを許したげて。あんね、パパは最近流行ってるウイルス? ああ、実はナノマシンだったんだっけ? をね、解明しようとしてんの。みんなのために。だから、ね?」

「チュー!」

 ヒデヨシは、メーシャの父がウイルスの研究をしている際に逃げ出してしまって、たまたまメーシャの所に迷い込んだのがキッカケで飼い始めた。

「つか、ヒデヨシ。なんか今日は物わかりいいね! なんか一発芸とかいけんじゃね?」

「チュチウ」

 ヒデヨシが返事をしているみたいに鳴く。

「お、マジで? もしかして動画とか撮ったら、億万長者になれるっしょ」

 ギャルはそう言っておもむろにスマホを触り出した。

「ちょいまち……。今動画の準備すっから。……おけ!」

 ギャルがヒデヨシにカメラを向ける。

「いくよ? スタートって言ったら、なんかめちゃくちゃバズりそうなギャグやってね。ちなみに、最近あーし刺激に飢えてっから、そこんとこ、よろしくね」

「……」

 ヒデヨシは固まってしまう。いくらハツカネズミでも、無茶ぶりだってことを理解したに違いない。

「さ~ん、に~い……」

 悪魔のカウントダウンが始まる。

「い~ち。……えっ、ちょっと待って」

 メーシャが何かに気をとられたおかげで、ヒデヨシは悪魔のカウントから逃れる事ができた。

「なんだなんだ?」

 少し離れた砂浜のところに、何人かの人だかりができていて、騒ぎになっている。

「ねえ、あそこ騒がしくない?」

「ヒデヨシ、ギャグはまた今度だ。ちょい、あそこ行ってみよ! なんか、おもしろそう」

「チ、チウ~……」

 気が抜けたヒデヨシがペタリと座り込む。

 ヒデヨシもメーシャに負けず劣らずツイてるのかもしれない。

「ほ~ら、ヒデヨシも行くよ!」

 メーシャはスマホとヒデヨシをささっとブレザーのポケットに入れると、騒ぎになっている場所に向かってダッシュした。

「うぉっ! 靴脱げた! と、とっと~! セーフ」

 走っていると靴下と靴が脱げてしまって、こけそうになるもなんとか堪える。

「忘れてた。……おけ! じゃ、気を取り直していくよ~」 

 そして、靴下と靴をしっかり履き直すと、今度こそ騒ぎの場所まで走って行った。

 

「なにこれ!」「触手か?」「すごい!」「こわ~い」

 近づいてみると、何やら巨大な触手らしきものが浜辺に横たわっていて、その周りで10人近くの人がスマホで撮影したり、話し合っていたり、騒いだりしていた。怖がっているような言葉も耳に入ってきたが、実際は皆このライブ感を愉しんでいるようで、危機感はさほども感じられない。

「ちょ、なになに?! えっ、待って。つか、この触手でかくね? たこ焼き何個分!?」

 到着したメーシャは、目を輝かせてその触手を見る。確かに今地上に出ている部分と、海の中に隠れて居る部分を合わせると、相当な大きさである。

 しかし、触手の色は真っ黒で、ザラザラしていて、お世辞にも美味しそうには見えない。

「ゲテモノは美味しいって、パパいってたし! いっちょ釣り上げちゃお!」

 メーシャは周りを見回して、釣り人のおじさんに目を付ける。

「お、良いの見っけ! おっちゃん、それ貸して」

「え、これ? まあ、いいけど……。なんで?」

「触手出てるけど、身体はまだ海ん中っしょ? 釣って、みんなで食べよ!」

「あれを食べるのかい? 止めた方が良いって……」

「だいじょび。タコだし、きっと美味しいって。ほら、良いから貸してって」

「ああ、はいどうぞ。でも気を付けてね」 

 メーシャは近くにいた釣り人のおじさんに、いい釣り竿を借りた。

「なんだなんだ?」

「釣り上げるらしいよ」

「俺食ってみたいかも……?」

「え~、やめときなって」

 野次馬の皆さんは、思い思いに語り、メーシャを見守る。

「うし、いくよ。せーのっ!」

 メーシャは釣り竿を投げて、恐らくタコの身体がある場所に糸を垂らした。

 ────チャポンッ。

「……」

 しばしの静寂が訪れ、漏れなく皆、固唾を飲んだ。

「……」

 そして、何事も無く時間が流れ、少し皆の頭に不安が過った、その時。

「……来た! うぉっ?」

 糸が引っ張られ、それに応じてメーシャの体も引っ張られる。

「おも! めちゃやる気じゃん。したら、あーしだって、負けないかんね!」

 メーシャは何とか踏ん張り、懸命に竿を引っ張り、リールを巻く。

「お嬢ちゃん、がんばれ!」「やっちまえ!」「おねえさん頑張って!」

 野次馬の皆さんがエールを送る。

「うぉ~! めちゃ、みなぎってくるんですけどー!!」

 メーシャのリールを巻く勢いが良くなり、それに対応して水面のバシャバシャも次第に近づいてきた。

「あと、もうちょい……!」

 バシャバシャはもう目前で、水の中の黒い影が皆の居るところからでもはっきり見える。野次馬の皆さんの興奮もたかまって、もはやお祭り状態だ。

「これで決めるし! とりゃぁ~!!」

 ────ザップーン。

「釣れたしー!」

「「「うぉー!!」」」

見えているところだけでも10mを超えそうな巨大な黒いタコが浜辺に打ち上げられると、メーシャ含め、ここにいる皆全員で雄たけびを上げた。触手の太い部分は丸太の様に太い。

「ミズダコにしちゃ、でかいし黒いな。新種か?」

 おっちゃんが分析する。

「とりあえず一口いっとこ! ……へ?」

 ゴキゲンで触手に手を掛けた。だが、いつの間にかメーシャの足に触手が巻き付いていて、

「あ~れ~!」

 海に引きずり込まれてしまった。

「お嬢ちゃ~ん!」

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