100万人突破記念配信 1

『《狐舞サキ》チャンネル登録者数100万人突破記念配信!色々やるよーっ!《ミラライブ三期生/記念配信》』


配信開始予定時間になった途端、おっそろしい勢いでコメントとスパチャが流れていく。コメント内容を目で追うことなど当然できない。待機人数は何十万人だったか…まあ、そんなことはどうでもいい。それだけたくさんの人が私の配信を見に来てくれているのだ。ならば、私がみんなにできることはただ一つ――――


「みんな、こんばんはー!あなたの恋人、サキだよーっ!」


【コメント】

:きたー!!!!

:久し振りの恋人呼びだ!!

:楽しみすぎる!!

:100万人おめでとう!!


普段はもうほとんど使わなくなったファンの呼び方で目の前のカメラの向こうにいるみんなに挨拶を。

何気に久し振りの3D配信だ。


「さてさて、まだ私自身も現実味のないこの状況ですが!なんと今日は色んな人がお祝いに来てくれております!この後順番に出てきてくれるので楽しみに待っててねー!!」


今更だがここはミラライブ本社の地下の一室。

ミラライブ特製のカメラを用いてVの身体になり、そこに編集でライブ会場のような装いを加えて配信しているという構図だ。


「じゃあまずはこの二人と一緒に一曲歌っていこうと思います!!」


私がそう言うと画面が暗転し、次に明転した時には私の左右にミタマちゃんとマイカちゃんが。

ちゃんとリアルの私の隣にもその二人がいる。

緊張した面持ちの二人の顔を確認している間に、事前に三人でしっかりと練習しておいた曲が流れ始める。


ちなみに今から三人で踊りながら歌う予定だ。事前に収録したものを流すとかではない。

体力に微塵も自信のないマイカちゃんは「私の分だけでも先に録ったの流させて」って言ってた。

でも多分マイカちゃんがダンスで息切れしてるくらいでやっと私たちと同じくらいのレベルになるので今のこの形式になったのだ。


なんて考えてる間にもう曲の中盤くらいに。


真面目に体力作りしてきたのか、割と激しめのダンスなのにも関わらず思ったほど苦しそうではないマイカちゃん。


ミタマちゃんの方はというと、イメージ通りというか普段からよく動き回っているらしく、体力には余裕があるようで楽しそうに歌っている。


かくいう私も部活動をやっていた時期の貯金でそれなりに体力があるのでこれくらいならまだまだ余裕といった感じだ。



なんて考えながら歌っていると、いよいよ曲の終盤に。ここまでミスらしいミスもなく、歌がマイカちゃんほど得意ではないはずのミタマちゃんも含め最高のクオリティだ。


「「じゃあ改めて、サキちゃん100万人おめでとー!!!」」


「二人ともありがとう!!未だに信じられないよ私ゃ……」


「みーからしたら、むしろ『まだ100万なの?』って感じなのにゃ」


「わかる。もうとっくに1000万くらいいってるものだと思ってた」


冗談めかした感じもなく、本気で思ってそうな口調でそう言う二人。

そんなわけあるかい。


【コメント】

:なんで今歌ってんのww

:こういうライブってそういうもんだっけ??

:サキちゃんが未だに100万なのが信じられないのは本当にそう

:なんか最初からいきなり特殊だなぁ


「そいやマイカちゃん、体力大丈夫?椅子とお水持ってきてもらおうか?」


「なんか最近サキちゃんのそういう優しいところが全部下心なんじゃないかと疑っちゃうんだよね」


「わかるにゃ。それで今まで何人オトしてきたのにゃ?」


「普通に心配してるだけでなんでそこまで言われるの!?」


同期ということもあり、他のメンバーよりも近い距離感でいじりあえる二人。実際に顔を突き合わせているということもあって、記念配信なんて抜きにして何気にこの三人で話している時間がただただ楽しい。

私のイメージについては改めてもらう必要があるとは思うけど。


「そうだ、サキちゃんにやってみてもらいたいことがあるんだよね」


「え、なになに?」


「前一緒にASMRやった時にさ、『握力はりんご3個分』って言ってたよね?」


「あー、確か言ったね、流石に冗談だけど」


「てことでこれ持ってきました」


そう言ってマイカちゃんが取り出したのは一つのりんご。


「まさか」


「握りつぶしてみてよ」


「無理に決まってるくない!??!?!」


「サキちゃんならいけそうって思っちゃうのが怖いところにゃ」


【コメント】

:りんご持ってきてるの草

:流石に無理だろ

:いくらサキちゃんでも

:無茶ぶりがすぎるww

:そういや久し振りの素面マイカちゃんだ


「ふぁいとー」


「えぇ……」


まぁ、試しにやってみるくらいならいいか。


「ふんっ……!」


記念ライブで何やってんだ?と思いながらもりんごに力をかけていく。超硬い。


いやこれ普通に無理だろ………………。うーん、ヘタのあたりに一気に力入れたらまだいけそうか……?


パキッ


「「「え?」」」


あ。


「いやこれあの、握りつぶしたうちに入らないから。力かける向きのアレでね?ほら、いい感じに力集中してさ」


手の中でほぼ真っ二つになったりんごを見ながら慌てる私。

二人はもうこの上なくドン引いた感じの表情をしている。


「いやほら、純粋に握りつぶすなら80kgくらい必要って言われてるけどさ、多分力かける場所とかによって基準ってまちまちだと思うのよ。ていうかこれだと潰すというより割るって感じだし。ね?ね??お願いだから化け物を見る目はやめてええええええええ!!!!!!!!!」


「私急用思い出したから帰るね」


「奇遇だにゃ。みーもだにゃ」


「待って、お願いだから」


「そいじゃみんな、この後もまた別の人が来るから楽しみにね~」


「ばいにゃ~」


「待ってえええええええ!!!!!!」


【コメント】

:うわぁ

:……まじ?

:これはひどい

:もうツッコミどころしかねぇよ

:また切り抜くのが大変になるなぁ!!!!

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