第13話 変態は死すべし!

連絡先の交換をしてから結菜先輩と別れ、コンビニの買い物袋を持って家に帰る途中に事件は起こった。


「きゃああああああ!!!!」


遠くからかすかに聞こえた女性の叫び声。


びっくりして辺りを見渡すが他に人の姿はなく、当然だが悲鳴を上げた女性の姿も見えない。


「っ…!」


そしてその悲鳴から思い起こされるのは、数日前でのカフェでの事件の記憶。

先程聞いた悲鳴は、背後から男にナイフを突きつけられ、恐怖のあまり叫んでしまった店員さんの叫び方と酷似していた。少なくとも、彼氏に何かプレゼントをもらって『きゃー!ありがとー!!』と声を上げるのとは明らかに質の違う叫び声。ていうかそんなことでこんな叫び声上げる奴がいたら躊躇なくぶん殴る。


週末とはいえ、お昼下がりのこの時間帯。辺りに誰の姿も見えない以上、この悲鳴を聞いたのが私だけという可能性も否定できない。この前のような強盗、もしくは通り魔、あるいは強姦…。いずれにせよ、切羽詰まった女性の叫び声を聞いたのに何事もなかったかのように家に帰る道理はない。


というか、そんなことを考えるよりも前に私は悲鳴の聞こえた方向に駆け出していた。



悲鳴はかなり遠くから聞こえたので正確な場所はわからない。私は、大体この辺りと思われる周辺の路地裏なんかを細かくチェックしていった。


「はあっ…はあっ…見つ…けた…」


体力と勘を頼りに人目につかない路地裏に駆けつけた私の目の前にいたのは、下半身を露出させてヘラヘラと笑っている男。

そして、恐らく今まさにその男に襲われているのであろう衣服が乱れた女性。幸い大事な部分が露出したり穢されたりはしていないようだが、誰も助けに来なければその結果に至るのは時間の問題に思えた。


「な、なんだてめぇ!邪魔すんなよ!お前も犯されてえのか!?」


私に気付いたその男は、その股間についている粗末なモノを隠す様子もなく私を脅してきた。何か凶器を持っているわけでもなく、特段力が強いようにも見えない。


うーん…どうしよう、ここまで人を殺したいと思ったのは初めてかもしれん。あ、でもこの前梨沙にナイフ向けたあいつといい勝負かも…?


「に、逃げて!」


…と、私まで襲われるかもしれないと思ったその女性が健気にも私だけでも逃げろと言ってくれた。


…ああ、今まさに自分がこの変態の毒牙にかかろうとしているというのにこの人は…。


「てめ、動くんじゃねえぞ!この女犯し終わったら次はぶへらっ!?」


もう、その男の言葉を聞く前に私はそいつの顎を蹴り飛ばしていた。正直、こんなクズの言葉をこれ以上聞いてたらマジで殺してしまうかもっていうぐらいには腹が立っていたからだ。


カフェの強盗とは違ってそいつは私より背が低かったので大して身体が柔らかくない私でも顎くらいまでなら余裕で爪先が届いた。


私の蹴りをモロに受けて吹っ飛んだそいつは、軽く脳震盪を起こしたようでもう立ち上がることもできずにいる。女の蹴りを避けることもできずに一発でやられるような脆弱な野郎のくせに相手をか弱い女性と見るやレイプしようとするなんて吐き気しかしないが…


「あの、大丈夫ですか!?」


大事なのはそんなクズに構うことよりも被害者の女性。今の今まであんな野郎に襲われそうになっていたのだ。不安や恐怖も半端じゃないだろう。

私は、とりあえず安心させるために未だガクガクと震えている彼女を抱きしめる。


「大丈夫、もう安心していいですよ」


そう言うと彼女ももう安全だとやっと理解したのか私を抱きしめ返しながら涙ぐんだ声で、


「は…はい、本当にありがとうございます…!」



…と、それを聞いたとき。私はあることに気付いた。


抱きしめていた手を離し、肩を掴んで彼女の顔を見る。


肩ぐらいまでの髪のメガネっ子。特段美人と言うわけではないが、庇護欲をそそられるなにかがある…と、問題はそこじゃない。

相手も同じことを考えていたようで、少し驚いたような表情で私の顔を見つめてきていた。


「「あなたは…」」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『《狐舞サキ/雪降マイカ》オフでたまたま会ったのでコラボすることになったわ。私の隣にサキちゃんがいるわよ❄《ミラライブ三期生/新人V》』


【コメント】

:オフコラボ!?

:ゲリラ配信ktkr

:異質な組み合わせじゃ…

:どんな化学反応が起こるんだろうか…

:まあ、爆発だろうな

:草

:ていうか、会った経緯が気になる

:確か二人は会ったことないはずだよな?

:うむ、サキちゃんはスカウト枠だからオーディションには来てないって言ってた


「みんな、来てくれてありがとう。来てくれたお礼に豪雪でもプレゼントするわね❅」


「どう考えても罰ゲームなんだよなぁ…。あ、サキです。今日はマイカちゃんの枠にお邪魔してまーす」


【コメント】

:ボケとツッコミが逆な希ガス

:それな

:マイカちゃんはボケるようなキャラじゃねえ…

:そしてサキちゃんがおとなしいんだが?


「いや、私だって他の人の枠に来てるのに馬鹿騒ぎしたりしないからね!?ちゃんと常識あるので!」


【コメント】

:はいはいワロスワロス

:常識ってなんだっけ

:少なくとも常識的ななろう主人公はいねえ

:それな

:鏡見てほしいわぁ

:このアバターそっくりの美少女が鏡越しに見つめ合ってるとか天国かな?

:だめだコイツ末期だ


「はいはいワロスワロス」


「マイカちゃん!?」


「とまあサキが常識的か否かなんていう茶番はさておき」


「茶番にしないでくれる!?」


「今日はね、実はカラオケボックスから配信しております!」


「私のことは完全に無視するのね…」


「いやー、前に歌コラボ取り付けてからすっごい楽しみだったのよね〜」


「それは私もだけど…ていうか配信機材ありがとね?」


「いいっていいって!私の家すぐそこだから気にしないで!」


「実は私もこの辺住んでるのよ!今度お泊りオフでもしよっか」


「いいねいいね!!楽しみ!」


【コメント】

:ねえ、気付いてる人いるか?

:うむ

:クールとは。

:それな

:クールがないとクーポンが成立しないんだが?

:ただのポン?

:いや、未だに全くポンしてない


「あ、確かに。クールキャラはどうしたの?」


「あー…あれね、雪が好きだから雪関係のキャラで行こうと思ったら担当の人に『どうせならクールキャラなんてどうです?』って言われちゃってね。断りづらくてOKしてそのまま…って感じ」


「あ、あのキャラは持ち込みじゃないのね」


「そうそう〜!だから私はもうクーポンじゃありません!」


「…ていうかマイカちゃん、それ何飲んでるの?」


「チューハイ」


「え!?未成年じゃないの!?」


私がそう言うとマイカちゃんはグラスをドン!!と机に置いて、


「私ゃねえ!もう20は超えてんだよ!見た目とか身長のせいでガキ扱いされるけど本当はもう大人なんだよ!あ、ウイスキーロックでお願いします。サキも飲む?」


「さらっとお酒の追加注文しないで!?私未成年だしさぁ!」


【コメント】

:いや草

:急展開が過ぎる

:真っ昼間やぞ?ww

:昼間からウイスキーロックとな…

:ていうか成人してたのか(遠い目)

:未成年にウイスキーを勧める配信者の鑑


「ほら、飲んでばっかりじゃなくてとりあえずなんか歌お!今日はそのためにコラボしてるんだしさ!」


そう。この前カラオケコラボをしようと話になったので、どうせなら偶然会った今日で消化してしまおうという話になったのだ。


「だね〜。先攻私でいい?」


「お、バトる気満々だねぇ」


「当たり前じゃん」


「ふっふっふ…後で吠え面かくなよ…?」


「その言葉、すぐ後悔することになるぜ…!」


「やってみるがいい…!」

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