第11話 凸!? ②

「サリーの馬鹿ああああああああああああ!!!!」


「あべし!?」


私は、思わず梨沙にタックルをかましていた。

この前喫茶店でされたことの仕返しだ!


【コメント】

:何が起こった?

:秘孔突いたんか?

:あべし言うてたな

:いくらサキちゃんでも北斗神拳は…

:音的にはタックルだな。今は床で抱き合ってると予想


「なんであんなこと言うのよぉ!!恥ずかしいじゃんか!」


「むぅ…だって可愛いんだもん」


「真顔で可愛い言うな!」


「ていうか感情的になってるように見えるけどちゃんと本名じゃなくてサリーって呼んでくれてるし、ホントは恥ずかしさもそこまででもないんでしょ?」


「…バレた?」


「親友様を舐めるんじゃない」


「えへへ」


「むっ…かわええ…とりあえずどいてくれない?」


「うーん…やだ。どうせだしもうちょっとスリスリさせて」


「ふえ!?配信中だから後でね!?」


「むぅ…約束ね?」


「はいはい、とりあえずリスナーさんをほっとかないの!」


あ。


配信中だってこと全く考えてなかった。


急いでパソコンのスクリーンの前に戻ると二人並んで座り直す。


「えーっと…失礼いたしました」


とりあえず謝罪するが、激流の如きコメント欄に流れているコメントのほとんどは『てぇてぇ」のみ。

…まあ観てる人が不快じゃないならいいかな?


しかし恐ろしい速さで流れていくコメントの中に気になるコメントがいくつか。

その中の一つがこれ。


『ガチ百合か?!!』


「……?ねえサリー、百合って何?」


「女の子同士で恋愛感情持ってイチャイチャすることだよ」


「……あぁ、なら私達は違うよね?」


「だよね」


【コメント】

:は?

:はあ?

:典型的な百合だろ

:何言ってんだ

:これ付き合ってないってマジ?


「いや、だって私彼氏いるし」


「うん、サリーったらほんとにラブラブなんだよ」


「まあまあ、その話はいいじゃないか」


【コメント】

:は?

:は?w

:ていうかリア充アレルギーが

:ちょっと待て、なろう主人公とラブラブリア充のコンビやと?

:あてつけかな?

:サキちゃんは彼氏いないのかな?

:いくら可愛いとはいえ俺だったら劣等感で死ねる

:サキちゃんと付き合うなんて一日で別れる自信あるわ

:もし万分の一の確率で彼氏になれたとしてもとなり歩くだけで罪な気がする

:ていうかサリーちゃん、浮気か?

:ごめん、切り抜き班なんだけどどこ切り抜いたらいいかわかんない


切り抜き班とは、ライブのハイライトシーンをまとめてMeeTubeに上げる人のこと。切り抜かれたお陰で知名度が上がって一気にチャンネル登録者が増えたりもする。

……昨日の配信の最後の部分の切り抜きは……まぁしばらく見ないようにしよう。


「そういえばもう結構遅い時間だけどサリーはいつ帰るの?」


「お母さんには今日はお泊りって言ってあるから大丈夫!」


「聞いてないんだけど!?」


「大丈夫、早紀のお母さんには言ってあるから!」


「だからサリーへのガード甘すぎない!?」


結局その日は、お母さんが気を利かせて二人分の晩ごはんを部屋まで届けてくれたので二人で寝るまでぶっ通しでライブ配信をやっていた。

……私のお母さんがこんなに理解あるのが不思議でならないんだけど…。


「ん……そろそろ眠くなってきたかも……」


時計を見ると、もう午前2時を回っていた。最近忙しかったので私も少しだけ瞼が重くなってきていた。


「サリーはあんま徹夜慣れしてないもんねー」


「早紀が慣れてるのがおかしいんだよ……」


「流石に私も頻繁に徹夜してるわけじゃないからもう結構眠いけどね」


【コメント】

:ていうかもう8時間か…

:時間が経つの早いなぁ…

:結局切り抜きどころが見つからんかった

:あまりにも面白すぎた

:ほんと、二人のトークスキルがやばすぎる

:マジで何十時間耐久配信とかでもずっと喋ってそうだよな

:喉が心配じゃ


「みゅ…ごめん、寝る…」


「じょうがないなぁ、じゃあ配信終わるね。みんなばいばーい!」


【コメント】

:おつかれー

:楽しかったよー

:早く寝な

:おやすみー

:おやすみー

:…待て、配信切れてないぞ

:…まさか

:みんな尊死する準備しとけ

:死ぬ準備とは


「むぅ、もうバレちゃってるから今回はなしね」


【コメント】

:な…!?

:嘘だろ!?

:うわあああああああああ

:言わなきゃよかったぁ!


私は声のトーンを落として、


「そのかわり…」


「すー…すー…んみゅ…」


【コメント】

:!?

:寝息か!?

:サリーちゃんの寝息か!?

:かわええ!

:あれ、涙が

:あれ、血涙が


「ほらほら、もっと音大きくしないとサリーの寝息聞こえないよ?」


【コメント】

:既に最大DA!

:ぽちぽちぽちぽち

:最高すぎる

:サリーちゃんちょっと可哀想w

:それなww


「…みんな、大好きだよ❤」


この配信は終了しました。

『《狐舞サキ》今日も配信するよー!とりあえずは雑談かな?…あと、昨日の配信でのことについて少し…《ミラライブ三期生/新人V》』

3.2万人が視聴 0分前に配信済み


SAKI Channel SAKIちゃんねる チャンネル登録者数 4.8万人




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「うああああああ!!あのタイミングはあかんやろ…」


サキちゃんの最後の言葉が延々とウチの脳内でループ再生されてる。


「完全に油断してたなぁ……。脳みそ溶けるで……」


ちょっと聞いただけで虜になる声、めちゃくちゃ面白いボケとツッコミ、尽きないトーク……。


「こりゃ……そろそろウチの立場も危ないかもなぁ……」


たった二回の配信でミラライブで一番のチャンネル登録者数を誇る自分のチャンネルのの登録者数に達したそのチャンネルを見て、軽く恐怖を覚えるのだった。

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