第十二章「パンとコンテスト」

52.パンで悩むルビィ

 最近、ショコラとハルはおやつの時間がちょっとだけ億劫になっている。おやつが不味いと言うわけでは無い。寧ろ、味に関してはいつも最高かと言うほど文句の付け所も無いが、レパートリーが少ないのである。

 ある日、とうとうショコラはルビィに対してこう言った。


 「いつまで朝食とおやつが一緒の生活が続くんだ?」



 事の起こりは数日前に遡る。いつものようにセレネから短刀での戦闘方法を習った後、いくらかの下級妖精とリディルに買い出しに行ったときのことである。

 ルビィはいつも買うお気に入りのパン屋があるのだが、その店の前に張り紙がされていたのだ。



 『新商品のアイデア募集中! 最優秀賞を取った物は商品化!』

 ポップで可愛らしいその広告をしばらく見つめていると、外見と同じようにおおらかな性格をしたパン屋のおかみさんが外に出て、ルビィに声をかけた。 



 「おや、ルビィちゃん。うちの広告が気になるのかい?」 

 「はい、何やら楽しそうな企画だな……と思いまして」

 「参加してみるかい?」  

 「え、いいのですか?」

 「ルビィちゃん、ショコラさんから料理が得意だと聞いてるよ。もしかしたら商品化されるかもね」

 「はぁ……やってみます」

 と、このように半ば押し切られて、ルビィはその大会に参加することになったのだ。



 話を冒頭に戻そう。その日からパン作りを始めたルビィだったが、なかなかに凝り性な性格であり、仕事と鍛錬以外の時間はパン作りに勤しんでおり、その試作品の試食は大体暇なハル達に回ってくる。

 最初は喜んでいたが、次第にパン限定になってきており、そもそも食べなくてもいいミスティと面倒ごとにはあまり関わりたくないルチアは逃げた。

 その他の仕事で忙しい他のメンバーはまずおやつの時間に手が空いていることが稀だったため基本的にはショコラとハルの2人が食べることになっていたが、ショコラはそろそろ限界を迎えそうだった。

 故に先程の言葉が出てきたのである。



 「いつまでって……そりゃ私が満足いくまでですけど」

 「そうなの……ところでそのコンテストっていつまで?」

 「3週間後が締めきりなのでそこまでですね」

 「おいおいマジかよ……」

 恐らくあと3週間は続きそうなこのパン地獄にショコラは天を仰いで呆れた顔をした。ショコラとてルビィの作るパンが嫌いでは無い。

寧ろ大好きだ。しかし、試行錯誤を繰り返しているといっても結局似たようなパンになる。似たような物が続けば流石に飽きるというものだ。

 ショコラは少し疲れたように言った。



 「ちょっとの間だけ、試食係は辞めるわ……。大丈夫よ、すぐに戻るから……」

 そう言って、ふらふらになりながら、ショコラは台所から出て行った。後に残されたハルとルビィは顔を見合わせる。ルビィは不安そうな目をハルに向けた。

 ハルはハルでまた面倒ごとを押しつけられたと言う気持ちはあるが、それでも大事な住民の1人だ。その悩みを解決しようと思い、ハルはルビィに言った。



 「ルビィ、どんなパンを作りたいとか正直ある?」

 「そうですね……そろそろカボチャとかサツマイモとか栗の時期ですのでそう言う物を使ってというのはあるのですが」

 「あーなるほどね」

 「はい、どうしました? ハル様」

 「ねぇ、ルビィ明日でいいからリディルの町のパン屋巡りに行かない? もしかしたらなんかいいアイデア浮くかもよ」 

 「え? パン屋にですか?」

 「うん。もしかしたらだけど新しいパンも生み出せるかもしれないわね」  

 「本当ですか!?」

 それを聞いたルビィは喜び、翌日出かけることにしたのだった。

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