6.剣士がやって来た

  ハルが草原と森の一部を破壊した翌日。屋敷の図書館の中でショコラはその内容が書かれた新聞を読みながら大笑いしていた。

 「アーッハッハッハッ!昨日昼あたり、丘で原因不明の謎の突風が表れ、森の一部が破壊だってよ、傑作だわ」 

 「なーにが傑作ですか、こっちはこれから起こりうる絶望に打ちひしがれてるだと言うのに」

 大笑いしたショコラとは対照的にハルは机に突っ伏し落ち込んでいた。

 「まぁいいじゃないか、減るもんじゃないし」

 「減るもんじゃないって……ショコラさん他人事のように」

 「実際他人事だからな」

 「無慈悲か!」

そう言ってショコラに掴みかかろうとするハルだったが、そこに来ていたルビィとサフィの二人が止めた。

 「まぁまぁ、この記事にはハル様のせいだとは一言も書かれてませんから大丈夫だとは思いますけど……」

 「そうですよ、ハル様とりあえずこちらのハーブティーでも飲んで落ち着いて下さい」

 「うっ……ありがとう2人とも……ホントどこぞの冷徹魔女とは大違いだわ」

 「おい、どういうことだ」

ショコラが睨み付けたがハルは一切気にせずにまた読書に集中した。



 さて、そんな会話があってから1週間。特にこれと言った出来事も終わっておらず、街の人々もこのことをほとんど忘れ去っており、ハルは安心しきっていた。

 しかし、こういう時こそ嵐というのはやってくるのである……。



 その日もいつものようにルビィとサフィは他の妖精とともに自分たちの仕事をこなし、ショコラとハルは図書館で読書をしているいつもと変わらない日のはず……だった。

 急な来客によってその平穏はいともあっさりと崩れたのだ。



 「何やら玄関が騒がしいな」

 「そうですね、ショコラさん」 

本来玄関から図書館まで声が届くと言うことはなく、今も当然声は伝わっていない。ではなぜ、騒がしいと感じることが出来たのかと言うと、妖精達が不安そうだったからである。

 妖精達は感情に機敏であり、また自分より上位の妖精の感情にはより強くなる。そのためルビィかサフィのどちらかが困ると妖精達に伝わると言うことである。

 「ちょっと行くか」

 「そうですね」

2人は本を置き、玄関の方へ向かった。



 「だから何度言ったら分かるんですか!」

 「確実にここにいるだろ! 最強の魔女が」

 その頃、玄関ではルビィと黒髪のショートヘアに角が生えた少女が何やら言い争いをしていた。ルビィはかなり困惑しており、何とか落ち着かせようとしていたが、少女は一向に鎮まる気配が無かった。

 「おーい、ルビィどうした?」

 「ショコラ様、ハル様!」

ショコラとハルの2人が来るとルビィは安心して、こちらを見た。ルビィは涙目になっており、よほど困った案件だったと言うのが察せられた。

ショコラはルビィを引き寄せて聞いた。



 「どうしたんだ? お前付きの妖精達が騒いでいたからここまで来たが」

 「はい、先ほどやって来たこちらの女性が例の事件を聞きまして、そこでこの魔法を使える人と勝負したいと聞かなくてですね…」

 そう言われ、ハルとショコラは黒髪の少女の方を見る。少女の方も2人を向き、見ていたがすぐにこう話した。

 「お前か? あの風魔法飛ばしたのは、早速だがあたいと戦って欲しいんだ」

 「いや私じゃないな、こっちだな」

 「なにふってんのよ、バカ!」

ショコラは即座に否定し、隣のハルを紹介した。すると、剣士の目が輝き、彼女の方に向いて紹介した。

 「そうか! お前がか! あたいはクレセ。最強の剣士を目指しているぞ。早速だが、勝負してくれ!」

 「ええ……」

と、困惑したハルだがショコラが「いいから受けろって」と言いたげに肘で小突いてきたので、仕方なく受けることにした。



 さて、外に出た2人は丘のとある場所で向き合っていた。

自信満々なクレセに対し、ハルはどこか不安そうな顔をしていたが、ショコラは容赦なくルールを告げた。

 「んじゃ、ルールな。どちらかが降参って言うまでバトルだ。とりあえず被害があまり大きくならないように結界魔法張っとくからこの中なら何やってもいいぞ」

 そう言い、ショコラはかなり広めの結界を張り、そして告げた。

 「よーい、始め!」



 始めに仕掛けてきたのはクレセの方だった。剣を鞘からだし、一直線にハルの方に斬りかかる。しかし、ハルは即座に避ける。しばらくの間はクレセが斬り、それをハルが避けるという戦法だったが、それに痺れを切らしたクレセがとうとうキレた。

 「ちょこまかちょまこかとこざかしいなぁ! 一発でキメてやるよ!」

そう言うとクレセは深呼吸し、気を溜めた。しばらくすると、剣が光り出しクレセは先程よりも早く斬りかかってきた。

流石にハルもマズいと思ったのか、この前使った魔法を唱える。しかし、あまりにもあまりにも焦っていたためか――

 


威力は前の時よりもかなり強くなっていた。



 あまりの風圧に耐えきれなかったのか、クレセは強風に揉まれ、自分が先程いたところよりも、かなり遠い場所にいた。そしてクレセは一歩も動かずうずくまっていた。

その様子を見て慌てたハルはクレセの所に行き、すぐに脈を測った。幸い動いているので安心したが、かなり傷が多かったので、ハルは回復呪文をかけた。

クレセの傷は瞬時に治り、そしてハルの方を向いた。

 「完敗だよ、あたいの。あんた凄いよ」

 「あなただってかなり強い剣士よ」

 「あんたには敵わないよ」

そう言って手を伸ばしたクレセの手をハルは握り返した。

 その様子を見てショコラは「青春だなぁ…」と男泣きしていた。



 さて、戦いに敗れたクレセがどうなったのかと言うと……

 「1、2、1、2……」

なんとこの屋敷に住み着くことになったのである。曰く、「戦いに勝つならまず相手を知ること、つまりこの屋敷にいればハルさんの強さが分かる!」と言う理由でこの屋敷に住み着き、今日も今日とて鍛錬に勤しんでいる。

 「全く、騒々しくなったな」

 「ま、読書の邪魔にならなきゃいいわよ別に」

こうしてここの屋敷にまた住民が増えることになったのだった。

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