奇妙な動物園2

檻の前までやっていくと、コウモリは君たちのことをまじまじと見つめ、そして喋りだした。


「見たところここに来てそう時間が経っていないようだね。

 ならば急ぐといい。君たちに残された時間はあまりに少ないのだから」

コウモリはそう言うとケタケタと笑いだした。


「おい、残された時間が少ないってどういうことだ!」

「そのままの意味さ、このままココにい続けるのは君たちにとって良くないことなのさ。嘘だと思うならここでしばらく待ってみたら?」


こいつと話していても埒が明かないな。もし時間がないなら急いだほうがいいだろう。ワトソンが見つけた地図をみる。

園内のマップには簡易的な見取り図が書かれていた。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ 獅子の像 ┃

┃                    ┃

┃     猿の穴  猿の山   猿の海   ┃

┃ ┃

┃ 空の檻            空の檻 ┃

┃                     ┃

┃ 猫の檻     庭園     空の檻 ┃

┃                    ┃

┃ 空の檻           木菟の檻 ┃

┃                  ┃

┃ 蛇の檻    蝙蝠の檻    休憩所  ┃

┃                    ┃

┃        ☆現在地         ┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


 いくつかの檻と大きな庭園、そしてひときわ目立つ獅子の像と三つの猿。地図だと余白が多いが実際は周りは壁や入り口にあった謎の空間で囲われており移動できない。

庭園は入る事もできる。獅子の像に向かうには穴と山の間か山と海の間のを通るしかない。


「なあ、休憩所の上ってなんて読むんだ」

「ミミズクだろ。それにしても空の檻が多いな」

「これ'そら'じゃなくて'から'なの?」

「なんでそらを収容してんだよ」

「そんなことより出口だよ。地図で見たところ壁で覆われていて出口がない」


闇雲に探していては時間が足りない。そうだ、コウモリに話を聞いてみよう。喋ってくれるかわからないがなにか知っているなら聞いておきたい。


「おい、ここは何なんだ。それにお前はなぜ喋れる。出口はどこにあるんだ」

「ワトソン落ち着けって。一気に質問しても答えられないだろ」


気持ちは分からなくもない。ここにきてからおかしな事ばかりおきてるからな。だか焦っていても答えは見つからないだろう。


「ここはある男が作ったんだ。大層見目麗しい人間の男の姿をしていたよ。作った目的は知らないけどね。お前達から見て右の方に休憩所があるだろ。あそこにはここを作った奴がよく来ていた。

そうだそうだ、きっと今日も来ているに違いない、あいつと鉢合わせなんて恐ろしい恐ろしい!!」


ニヤニヤと笑いながらコウモリは話始めた。本当の事を言っているかわからないが、休憩所にいけばなにか見つかるかも知れないな。


「他の檻にいる動物は?あいつらも喋れるのか」

「猫とミミズクは喋るさ。蛇はいつも腹を空かせているから喋れたとしても近づかないほうがいい。」


猫とミミズクは喋れるのか。こっちもあとで話を聞きにいかないとな。

「まあ、あの猫は嘘つきも大嘘つきさ、その上手先が器用で頭も回るし人のものをスグ欲しがるんだ。あいつが君たちの持ち物に興味を示すようなら気をつけたほうがいいね。」

頭が回って嘘つきって、ここにいる動物はやばいな。


「ミミズクの事だが、あのミミズクはもう何も覚えちゃいない。物覚えのいい振りをしているだけさ。

あいつと話してたって有益な情報は得られないよ。時間の無駄無駄」

癖が強すぎる。物覚えが悪いって年寄りかよ。


「で、空の檻にはなにがあるんだ?まだ、なにが入るか決まっていないのか」

「あの檻はまだ誰のものでもないよ、でも近いうちに住人が出来るかもしれないね」


まだ誰のものでもないか。とりあえずは放置でいいだろう。

「庭園はなにがあるんだ?危険なものはないよな」

「あの庭園はこの園内の中央に広がる花園さ、いろんな種類の花があるよ。綺麗だし一度見てみるといいよ」


安全とは言われていないが、他の檻に向かう際よることになる。注意しながら進むか。とりあえずは休憩所にでも行くか。ここを作ったという男に会いたいし、美咲ともっ君は疲れてるしな。


「そういえば猿と獅子は?なんか特別なものなんじゃないの?」

「あの三つの猿の事はよく知らないなぁ、でもあいつらはそれぞれ何か大切なものを持っている様だね。それが君たちにとって必要なものかどうかは知らないけど。欲しいなら貰いに行けば?

あいつら簡単に渡してくれるさ!そんな大切なものを無償でくれるなんていい奴らだなぁ!ほんといい奴らだよ!」


大切な物ね。ここから出るのに必要なら行ってみるか。

「獅子の像か、あいつがなんなのかはわからないな。ずっとあそこにあるけど、ただの置物じゃないかな。きっと創設者の趣味でずっとあそこにあるのさ!」


まあ、動物園だし何かのモニュメントがあってもおかしくはないか。少しとはいえここについて知ることができた。とりあえずは休憩所に行かないとな。

俺たちはそこから離れ休憩所に向かう。残されたコウモリは相変わらずニヤニヤとしながら俺たちを見送った。


やっと着いた。檻からそこそこな距離があったからな。

休憩所はログハウスの様な外観で、窓にはカーテンがかかっており、外から中の様子を見ることはできない。

耳を済ませてみるが物音はなく、人の気配もしない。鍵が空いてたので扉を開けたが何か襲ってくるわけでもなく普通の休憩所だ。

電気は通っており明るく、エントランスにはいくつかの木製の机と椅子があった。もっ君は部屋に入るなり椅子で休憩し始めた。よほど疲れたのだろう。

美咲は奥にあった図書室に向かって行った。奥の方には自販機やトイレ、喫煙コーナーまである。ワトソンは机の上あったノートを調べている。万年筆が近くに転がっていたからあそこで書かれたのだろう。

読むのに時間がかかりそうだし、自販機で飲み物でも買うか。あいつらがなにを飲むか知らないからお茶でいいかな。百二十円をいれボタンを押す。しかし反応がない。電気は通っているみたいだがボタンが点灯しておらず、お金も帰ってこなかった。

トイレにも行ったが水が流れない。紙はあるのにこれでは使えない。

元の部屋に戻ると皆集まっていた。どうやらノートを読み終えたらしい。

ノートには箇条書きのような形でこう書かれていた。



・人間は動物を檻に入れた娯楽施設が好きな様だ、何が楽しいかはよくわからぬが、まぁ暇つぶしに真似てみるのも一興か。

・施設は用意した、あとは動物だが普通のものではつまらんな

・あいつは賢いと何かと面倒だ

・面白いことを思いついた

・未だに脱出者は現れない、折角出口も用意してやったというのに

・マスターキーを無くした、まぁいい

・脱出者は現れないまま、動物が増えすぎた、半分は炉にくべた。もう半分は埋めておくか。

・今回のは割といいところまで行ったが駄目だったな。もう飽きた。ここは破棄することにしよう。

 気が向いたらまた覗きに来る程度にすることにする。



なんだこれ脱出者がいない?てことはここからは出られないのか。出口はあるらしいが場所は書かれていない。俺たちは他に何か書いてないかを探そうとした。

と、その時自分の体に違和感を覚えた。他の三人をみるとそこにはないはずのものがあった。

ワトソンには大きな耳が生え、もっ君は毛深くなり鋭い爪が生えてら美咲にはクチバシと羽が生えてきた。

俺には尻尾が生えてきた。これがさっきコウモリが言っていた時間がない理由か。ノートに書いてあった普通ではない動物は俺たちで、空の檻に入る動物にされるのか。

戸惑い驚いたが、時間がないのはわかった。急いで出口を探さなければ。それに逃げ出したらこの体が治るのかも調べないと。

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