【短編事変】ブルーレイン・ヤング

Lie街

女々

「あなたはいつもそうね」

私はもう彼を捨てるつもりでいる。

いや、先に私を捨てたのは彼の方だ。

昔から、女癖は酷かったけどもう限界だ。私は私のやりたいようにやらせてもらう。

「これで最後さ、約束する」

約束?何度目の約束かしら。両手だけでは足りない、ひょっとすると足の指を足しても足りないかもしれない。

この人は本当に嘘ばかりついては私を騙して、もうしないと約束をしてもそれさえ破り捨てる。コピー用紙みたいに薄っぺらい約束、ううん、ティッシュペーパーよりもずっと薄くて軽薄な約束。破るためにあるようなものじゃない、そんなの。

「ううん、もう決めたの。これで最後って。バイバイ。」

彼の顔がいよいよ歪になる。さっきまではなんとかなるとふんでいたのがそうもいかなくなったのだろう。

私はね、そんなに安い女じゃないのよ。本当はあなた以外にも男を作ろうと思えば幾らだって作れたの。あなたと同じでね。

でも、しなかったのよ。あなたが最初に浮気した時それがバレた時のあなたの顔が、私はどうにも忘れられなくてね。焦りと不安と哀愁とその他の雑多な感情の中で作り出された情けない顔、私はその顔を見る度に許してしまうの。魔法にかかったみたいに。

けどね、それも今回でお終いよ。また、私みたいに都合のいい女を見つける事ね。

私は彼に背を向け、あの顔を少し懐かしく思いながら、名残惜しくも思いながらその場を去ろうとした。

「最後にさ、キス…してくれない?」

私は立ち止まった。

ここら辺は人通りがとても少なかった。車のクラクションの音が微かに聞こえて、彼のアパートの影がちょうど私たちを覆い隠していた。

私はとても優雅にそれでいて静かに彼の方を見た。

そして、彼の方へ少しずつ歩き始めた。

思えば、もう彼と付き合って何年だろうか。3年、決して短くはないと思う。

悲しいことも辛いこともあった。2度目の浮気の時、玄関先で浮気相手と鉢合わせた時は一瞬私の方が怯んでしまった。

でも、楽しいことや嬉しいこともそれ以上にあったはずだ。

水族館に言ってマンタの大きさを実感した時、彼は子供のような笑顔で(おおきいね)と話しかけてくれた、初めてのSEXの時も彼の紳士な態度に普段はあまり見ない大人っぽい色気を感じたし、彼のキスはとても素敵だった。

真っ赤な夕日みたいに情熱的だけれど、真夜中の湖畔のように青く静か様子も内包している。

私はやはり彼のことが…。

私は遂に彼の目の前まで来てしまった。彼がゆっくりと私の両肩に柔らかく触れ、目を閉じる。

「…。」

彼の健康的な唇がゆっくりと私の口に近ずいてくる。

私もその唇に諭されるようにそっと目を閉じた。

そして、首を思いっきり後ろにそらして彼のおでこ目掛けて頭突きをかました。

「ぐは!」

彼は面食らってその場で丸くなった。

「キモチワリィ。最後にキスさせろ?ちゃんちゃらおかしいわ!顔が良ければななんでも許されるわけじゃねんだよターコ!」

私はうずくまる彼の足の甲を思いっきりヒールで踏みつけた。

激痛にもがく彼を少し眺めたあと、どことなくスッキリとした気持ちでその場を颯爽と後にした。

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