硝子一枚届かない言葉


「………あ」

「八峡さま」

「こちらです」


「界守さんっ」

「お嬢は」


「……この宗家敷地内にある」

「隔離場に」

「お嬢様が居ます」

「……八峡さま」

「お願いします」

「私の声では」

「お嬢様は戻る事は出来ませんでした……」

「ですので、どうか……」


「……なんか事情は分からんすけど」

「俺がお嬢に出来る事は」

「なんでもするつもりなんで」


「……よろしくお願いします」


「――――お嬢ッ」

「……なんだ、この部屋」

「瘴気みてぇな嫌ァな空気が流れてやがる……」

「あ、お嬢ッ!」


「…………」


(虚ろな目だ)

(何も考えて無い様な顔)

(壊れた人形の様に)

(動くと言う意志が欠けてやがる)

「おい、お嬢ッ」

「大丈夫か?」

「クソッ、なんだこの硝子」

「すぐにぶっ壊してやるッ!」

「盛れやッ!焔羅蛾眉光ッ!」

「ッ嘘だろッ!」

「傷一つ、付いてねぇッ!」


「……八峡さま」

「この硝子部屋は」

「かなりの多重結界によって作られた強固な硝子です」

「………私が術式を扱う事が出来れば」

「無理矢理出る事も容易なのですが……」


「あ!?」

「って、界守さん」

「その首輪……」


「はい、そうです」


「趣味すか?」


「いえ違います」

「こんな時ばかりは趣味に走りません」

「これがある限り」

「私は術式を使役する事が出来ないのです」

「………だからこそ、この硝子は破壊出来ない」

「この硝子部屋は」

「贄波家の血族しか開く事が出来ませんから」


「あ!?」

「じゃあどうするんだよッ!」


「……贄波家の血縁者が手を加えるか……」

「それか……お嬢様自身が」

「この部屋から出る意志があれば……」


「……そうか、なら」

「お嬢ッ!声聞こえてんだろッ!!」

「なあ、ここから出ようぜッ!」

「そんであの婆さんに一泡吹かせようやッ!」

「なあ、お嬢ッ!」


「……………」

「や、かい………」


「ッあぁッ!俺だッ」

「なあお嬢ッ!!出ようぜ」


「………」

「…………八峡」

「消えて」


「あ?」

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