贄波璃々編前編終了


「……あ」


「八峡さんっ」

「良かった……」

「もう、お怪我は大丈夫なのですね」


「……はい」

「俺は、大丈夫です」


「生きてて良かった……」

「大切な人が居なくなるのは……」

「ばっちゃは嫌です」

「ですから」

「生きてて……本当に……」


(……気づかなかっただけか)

(俺は……)

(こんなにも)

(誰かに「生きて良かった」と言われたんだな)


「………う、うぅうう」

「葦北さん……」

「居なくたってしまいました……」

「良い子だったんです」

「優しい子だったんです……」

「あんなにも、幸せになって欲しいと思う子だったのに」

「どうして……居なくなってしまうのでしょう……」

「うぅ………うぅうううぅぅ……」


「今日は」

「色々な人の火葬です」

「地下施設で行われますが……」

「八峡さんは、どうされますか?」


「ケジメ、すよね」

「こういうの」

「あいつに」

「ちゃんとしたお別れ」

「しないと」

「ダメ、すよね」


「葦北さんのお部屋」

「そこから大切そうなもの」

「持って来ました」


「夜々さん」

「半分、持ちますよ」








「八峡さま」


「界守、さんだっけか」


「はい」

「申し訳ありませんが」

「八峡様」

「少々お時間を頂いても宜しいでしょうか?」


「いいっすよ」


「どうしたんすか?」


「この部屋に」

「お嬢様がいらっしゃります」

「……ご学友を失って」

「酷く傷ついているご様子です」

「ですので、どうか」

「八峡さま」

「お嬢様にお見舞いを、お願いします」


「……話から察するに」

「お嬢は精神的に参ってる」

「そういう事、すよね?」


「そんで……」

「お嬢を慰めて欲しい」

「って事すか」


「え、あの……」


「……すいません」

「俺は、今」

「お嬢に会うワケには行かないっす」


「俺は、お嬢に言いたい事が沢山ある」

「伝えたい事が山ほどある」

「けど、それは今じゃない」

「俺は、お嬢に救われた」

「それを今言ってしまえば」

「それは感謝の言葉じゃなくて」

「慰めの言葉になっちまうんですよ」

「慰めってのは」

「傷の舐め合い」

「傷を癒す行為で」

「心を弱くさせる」

「俺は……俺のせいで」

「お嬢を弱くしたくないし」

「そんな姿は、見たくないんす」


「お嬢は強い」

「それは界守さんも分かってる筈だ」

「だから」

「俺が何か言わなくても」

「お嬢は立ち直ってくれる」

「俺が、この感謝の言葉を伝えるのは」

「その時なんすよ」

「だから」


「そういうワケです」


「どういうワケよ」


「勝手な男ね」

「知った風な口で言ってくれるわ」

「一体、私の何を知っているのかしら」


「……そこまで」

「言われてしまった以上は」

「立ち上がらないとダメね」

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