執着

「彼の存在を」

「無価値だなんて」

「言わせたくないの」

「私は」


「どうしてですか?」

「彼は其処まで重要な人間ではありませんよ」

「どれ程頑張ろうとも」

「贄波先生の手を以てしてでも」

「彼の存在は無意味です」

「贄波先生は色々な生徒に手を伸ばして来ました」

「私の様な優秀な家系に生まれた者は大成しましたが」

「……五十市などと言う、一般家系から排出された生徒は」

「無意味に死んでしまった」

「贄波先生の期待を裏切ったのです」

「証明はされているのですよ」

「彼ら一般家系から排出された生徒は」

「何れ死んで、消えてしまう」

「無意味に無価値に無常に」


「違うでしょ」

「無意味、なんてものはない」

「必死に生きている彼を」

「その人生を」

「無意味だなんて言わせないわッ」


「……どちらにしても」

「彼はもうダメになりますよ」

「この懲罰を受けた人の殆どは」

「痛みによって精神を崩壊しますが」

「残った人は」

「自分を否定する様になります」

「自分で自分を傷つけてしまうから」

「自分の事が嫌いになっちゃうんですよ」

「だから」

「彼は結局」

「どちらに転んでも」

「ダメになっちゃうんです」

「一度始まった懲罰は」

「受け切るまで終わりません」

「それでも貴方は」

「壊れた男に対して」

「意味がある、と」

「価値がある、と」

「言えるのでしょうか?」


「当たり前でしょう」

「価値があるわ」

「彼の人生には」

「意味がある」


「では」

「一週間後」

「彼の無事を祈っておいてください」

「無駄だとは思いますが……」

「その時に答え合わせでもしましょうか」


「それにしても」

「こんな人間の為に」

「何故貴方はムキになるのでしょうか?」

「恋でもしているのですか?」


(執着)

(そうね……私が)

(彼に執着する理由……)

(言葉に間違えがあるから?)

(だからそれを正すまで)

(私は彼に執着する?)

(……違う)

(私は彼を守りたいワケじゃない)

(私は……彼を助けたかった)

(あの頃の、私と同じように……)

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