イヌ丸とは浅い関係

「はぁ……」

「ねえ八峡」


「あ?んだよ」


「……貴方が寝ている間」

「貴方の友人が私の元に来たわ」


「……誰だよ」


「清純そうな男」

「名前は」

「永犬丸、と言ったかしら」


「あー」

「イヌ丸か」

「……なんでお嬢の元に行くんだよ」


「……さぁ」

「私に言われても分からないわ」


「本当か?」

「例えば……」

「俺の見舞いに来た時に」

「出会ったとか」


「……そんなの」

「ありえないわ」

「だって」

「私はその場に居なかったもの」


「あー、はいはい」

「そんで、なんだっけ?」

「イヌ丸がどうかしたのか?」


「えぇ」

「貴方に」

「さようなら、と」

「伝えて欲しい」

「そう言っていたわ」


「……そうか」

「まあ」

「あいつとは浅い付き合いだが」

「一応は」

「それなりの友好関係だったってワケか」


「……随分と」

「寂しい言い方をするのね」


「事実だしな」

「アイツとは高校ん時に入って」

「出会っただけの人間だ」

「それだけの関係」


「そう」

「………」

(永犬丸)

(貴方との約束は)

(これで果たしたわ)

(これで)

(もう、彼に関係する事なんて無い……)


「……あー、なあ、お嬢」


「……え、なにかしら」


「……あー、っと」

「あのな?」


「なによ」

「勿体ぶって」


「その……」

「はぁ……感謝しとくよ」

「ありがとな、お嬢」


「……は?」

「ちょ、ちょっと、いきなり」

「いきなり、なに、どうしたの、あな、貴方」


「動揺し過ぎだろ」


「私はお見舞いに行ってないのだけれど!?」


「別に入院してる時の話じゃねぇよ」


「じゃっ、なんで感謝するのよ!」

「まったく意味が分からないわっ!」


「五か月前ん時」

「俺が眠る前の話だ」

「俺とお嬢が任務に出て」

「一緒になった事あんだろ?」



「え?……ぁ」

(五か月前……前回の仕事ね)

(八峡が一緒だった時……確か)


「そん時に」

「俺に言った言葉」

「それがあるだろ」


「……えぇと」


『自分の命の価値すら見出せないのかしら?』


「あん時、真面に攻撃受けちまって」

「そん時ん記憶殆ど無くしちまったけど」

「お嬢の言葉だけは、覚えてんだ」

「多分さ、俺」

「あの言葉があったから」

「自分の価値を、見つけられたんだ」

「だからさ」

「ありがとな、お嬢」


「そ、そうね」

「目一杯感謝なさいな」

「………貴方、其処から先の」

「記憶は覚えているの?」


「あ?」

「……だから」

「記憶に無ェんだよ」


「……そう」

(じゃあ、貴方は)

(その後)

(私を救った事を)

(覚えて無いのね)

(……そう、なら)

(良かったわ………)

「………」

「ねぇ、何か食べる?」


「あ?」

「メシ?」


「えぇ」

「特別に」

「御馳走してあげる」


「マジ?」

「……あー、でも良いや」

「品揃え悪そうだし、ここ」


「………そう」


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