イヌ丸離脱確定


「あ」

「八峡」

「やっほやっほ」


「んあ?」

「あー」

「葦北か」

「おう」


「八峡」

「髪の毛切ってるの?」


「見りゃ分かるだろ」

「髪、長かったからよ」


「あー、確かにね」

「髪、長かったもんね」


「んー……」

「けどちょっと勿体ないなぁ」


「何が勿体無いんだよ」


「えっとね」

「八峡が寝てる間」

「お見舞いに行ってたんだけどさ」


「は?」

「マジか」

「悪いな、そりゃ」


「え、へぇ」

「なんか面喰っちゃった」


「……なにがだよ」


「ん、いや、別に」

「うん、でも、そういうの」

「良いかもね」

「あ、うん」

「話の続きだけどさ」

「八峡のお見舞いでさ」

「基本的に体は」

「滑栄先生とか」

「向花さんが拭いてくれるけど」

「髪はあんまり弄らないから」

「八峡の髪、結構脂ぎってて」

「私が、手入れをしてたんだ」


「はぁん」

「そうか」

「暇潰しな真似ェしてたのか」


「私が八峡だったら」

「髪が痛んでるの嫌だなって」

「そう思ったからさ」

「迷惑、だったかな?」


「その聞き方はずるいわ」

「迷惑なんて言い辛いじゃねぇかよ」


「迷惑じゃねぇよ」

「まあ、その」

「ありがとな」


「出来ましたっ!」


「どーでしょーかっ」


「良いっすね」

「あざます」


「いちおう」

「髪は箒で叩きましたけど」

「洗髪はして下さいね」


「あ」

「八峡」

「上に上がるの?」


「あぁ」

「髪、洗うからよ」

「俺ん部屋に」

「行くんだよ」


「そっかそっか」

「じゃあ途中まで行こう?」


「別に良いけどよ……」


「あのよ」

「そういやなんだが」

「イヌ丸はどうした?」


「あー……」

「トシくん?」

「あの、ね、トシくん」

「学校、辞めちゃったらしいよ」


「……は?」

「イヌ丸がか?」

「何したんだよアイツ」



「何をしたってワケじゃないけど……」

「ただね?トシくん、出席簿に記入が無くて」

「それが一か月くらい続いてしまったから」

「おうちの方に連絡を入れて」

「そこで辞めた話になったんだって」


「……やっぱり」

「少し、寂しい?」


「……いや」

「ただ」

「アイツにピアス」

「あげたなって」

「思っただけだ」

………


「あれ?」

「どうしたの八峡」

「調子、悪い?」


「落ちても大丈夫な様に」


「私そんなに足滑らせて無いんですけど!?」



「あ?そうか?」

「悪いな、なんか」

「お前、よく階段で滑ってるイメージあるからよ」


「それって朝でしょ?」

「寝惚けてよく転ぶだけだし」

「はぁ……と言うか」

「滑ったの一回だけじゃん」

「四か月前……いや、五か月前?」

「八峡の意識が消える前の事でしょ」


「あ?」

「そうだっけか」

「俺が眠る前の話だわな」

「そりゃ」


「ん?」

「どうしたの、八峡」

「ジロジロ見つめてきて……」


「いや……」

「なんつーか」

「こういうの」

「柄じゃねぇのは分かってんだが……」

「マジでありがとな、葦北」


「え、ちょ」

「いいって、別に」

「そんな、真剣になって」

「言う事でもないし……」


「いやでも」

「俺が寝てる間」

「色々と、世話してくれたんだろ?」


「あ、うん」

「でも別に」

「私だけじゃないよ」

「八峡のお見舞いに来た事があるのは」


「は?」

「マジか」

「俺意外と人望あんな」


「……そこまで」

「人望は、無いと思うけどさ」


「……ハッキリ言うなや」

「……まあ、そんな」

「俺ん事お見舞いに来る奴なんざ」

「せいぜい」

「イヌ丸くらいだったんだろ?」


「は?」

「イヌ丸以外にも居るのか?」


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