1章9話「理事会」
「最高幹部2名、幹部6名、計8名。最高幹部1名、幹部1名が欠席しております」
私が淡々と報告する中、中世の雰囲気が漂う薄暗い玉座の前に置かれた円卓を囲んで私を含む8人は席についていた。玉座にはこの学園の理事長が座しており、その風格は王のようだった。
「ここに集結致しました」
理事長は玉座から立ちあがる。その背中からは黒い翼が生えていた。
「ご苦労、鴉羽。今回諸君を召集は他でもない。学園内の異常についてだ。西条、現状を」
理事会の会議、それも緊急会議ということもあって室内は一層不穏な空気が渦巻く中、西条は口を開く。
「報告致します。2ヶ月ほど前、天蓮玲一という男が転入してきた事が事の発端です。最初は魔法すら充分に扱えない存在であるとの報告を受けたため、見逃しておりましたが、格段に成長を遂げ、我が派閥の有力幹部2名が打撃を受け、失脚致しました」
「おいおい、なにやってんだよ。西条」
西条の向かいに座る男、
「えらい賑やかですこと、神宮寺。理事長の御前ですのに」
西条の右隣に座る、頭部に狐の耳を生やした女、
「神宮寺、構わん。続けろ」
理事長の言葉に対して月蛾は「えらいすんませんでした」と頭を下げ、神宮寺は再度口を開く。
「黄金世代最大の汚点、劣等種呼ばわりされてた奴だろ? そんな奴に押されてどうすんだって話だろうよ」
「それは否めない。だが、天蓮玲一は昔とは違う。12年前の情報を未だに引きずるのはどうかと思うが?」
「はっ、笑わせんなよ。生まれた瞬間から才能が無かったやつに生まれた時から天才だった俺らが負けるわけない。理事会出身じゃないお前には分からないだろうがな」
神宮寺は嘲るようにそう言うと、月娥が笑みを浮かべる。
「その煽り文句を言いたいなら、ウチを負かしてからの方がええんやないの? 万年二位の神宮寺卿」
西条と同じく月娥も理事会の生まれではない。プライドの高い両者が火花を散らしていると、見かねて最高幹部の1人、八神司が口を開く。
「鴉羽最高幹部、今回負けた……誰だっけ?高……なんとかみたいなやつはここにいるのか?」
「ああ、連行済みだ。いまは牢に監禁しているがな」
そうか、と八神はうなずき、理事長に目線を移し、臆することなく口を開く。
「理事長、会ってみても良いか?」
「構わない、連れてこい」
重苦しい扉が開かれ、高杉が兵士に連行されてくる。普段なびかせている金髪は血で固まり、見るも無残な姿だった。
「離せ!お前らぁ……!」
そのまま、高杉は兵士達に投げられ、地面に叩きつけられた。
「あら、威勢の良い猿ですこと」
「んだと、てめぇ!」
月蛾の見え透いた挑発に乗った高杉は幻想種タケミカヅチを発動させ、月蛾に雷槍を放つ。だが、それは着弾する前に消滅した。
「やめておきなさい、猿」
月蛾が立ち上がると、彼女の持つ幻想種、九尾の象徴である長い9本の尾が現れていた。
「魔法の本質は感情であり、意志。私が持つ幻想種、九尾の能力は精神汚染。『魔法を撃つ』という意志が消えれば、魔法は使えない。ここまで丁寧に言えばいくら知能がほとんどない猿と言えども……分かるやろ?」
挑発に挑発を重ねられ、高杉の顔は真っ赤に紅潮するが、魔法を撃つことはできなかった。
「そんくらいにしとけ、お嬢ちゃん」
「良いではないですか、八神様」
八神が口を開くが、月蛾が汚染を解く様子はない。
「俺の声が聞こえなかったか?月蛾」
そう声をかける八神の表情は笑顔だったが、隠しきれないほどの凄まじい殺気を放っており、さすがの月蛾も脅威に感じたのか、大人しく魔法を解いた。
「高杉って言ったか?ここは大人しくしときな、死ぬぞ」
勝てないことを悟り、高杉がようやく抵抗をやめると、理事長が口を開く。
「私は君達に問いたい」
大きい声でもないのに良く響く。私はなにぶん付き合いが長いので今更と思うところはないが、他の幹部らが畏怖するのは仕方がないだろう。
「天蓮玲一は誰の手引きで転入したのかを、教えてもらいたい」
理事長の問いに答える者は居ない。下手なことを言えば、命が危ないのだから仕方もないだろう。私も無言で誰かが口を開くのを待つ。
「誰の手引き……というのは?」
沈黙に耐えきれなかったのか、幹部の1人、
「人事担当の1人が誤って天蓮玲一の転入許可を出した。拷問にかけたところ、どうやらその記憶だけが抜けているようでね」
天蓮玲一を理事会の人事に介入してまで転入させたということは、理事会中枢の人間が関わった可能性が高い。私達を疑うのも仕方がないだろう。もっとも私には心当たりがないので、堂々としていたが、ほかの幹部らはそうはいかないようだった。
「記憶を操作できるのは理事長のみ。理事長が直接手を下した訳ではないんですね?」
「分かりきった質問をするな、月娥」
「申し訳ありません」
珍しいこともあるものだ。顔には出さないがあの理事長が苛立ちを見せている。
「皆も知っての通り、天蓮玲一は7年前の戦いの際、『使徒』陣営に連れ去られた。それが現れたとなれば、彼は使徒陣営から派遣された可能性が極めて高い」
使徒陣営という言葉の登場に緊張感が走る。私も例外ではない。我ら理事会の最大の敵、それこそが『使徒』。
「そして、天蓮玲一を手引きしたということは我ら理事会に使徒陣営の内通者がいるということ」
無言と緊張が室内を包む。事態は最悪と言っても過言ではない。仮に天蓮玲一が使徒であり、学園を統合したとなれば、理事会は学園と使徒の両方から挟まれる。
「まぁ、良い。内通者の有無を問わず、どのみち使徒が動けば我々も終わる」
存在が災害のような者達だ。警戒しても意味がないのは事実かもしれない。
「天蓮については引き続き西条、お前に任せる」
「御意に」
私が天蓮玲一を陰で育てていることはまだ耳に入っていないらしい。もしもの場合も考えていたが、その必要はなかったようだ。そっと胸を撫で下ろした。
西条が頭を下げるのを確認すると、理事長は神宮寺と、その隣に座る幹部、
「近々、例の件を実行させる。備えておくように」
「あれ、やるのか」
「我々は質の高い人間を求めている。そのための学園であると、理解願うよ」
「はいはい、御意に」
相変わらずの軽い口調に月蛾は物凄い形相で神宮寺を睨むが、理事長は一切気にしていないようだった。
「
全ての幹部に指示を出し終わり、理事長は高杉に目線を移す。
「高杉和正、君には期待していた。幹部候補生への
空気感が変わり、室内に警告音が鳴り響いたと思うと、続けて機械音が流れ始める。
『仮想空間、現実への結合完了。精神と肉体の結合完了。モード:ホロウからモード:パンタシアへ移行完了』
「八神、始末しろ」
「御意に」
先程まで高杉に味方するような口振りだった八神だが、理事長の一声ならどうしようもない。
「悪く思うな、高杉」
八神は指で空中に3つの重なった文字を描いたかと思うと、その数秒後、高杉の身体に雷の爪のような傷が刻まれ、彼はあっという間に絶命した。
『ジュピター』モード:パンタシア。現実と架空世界を完全に同化させる装置。要するに、高杉は『本当に』死んだのだ。かつて、学園にその悪名を轟かし、西条の右腕として猛威を奮った男とは思えない無残な死に様だった。
重苦しい雰囲気が続く中、再び扉が開かれ、1人の女子が入ってくる。
「遅れまして、非常申し訳ありません。役所の仕事が少々立て込んでしまいまして」
「遊興は程々にしておけ。他の幹部や職員に示しがつかん」
「承知しました。ですが、他の幹部の実力がどれほど待っても私に追いつく様子がなく、飽き飽きとしているのですが」
女は毅然とした態度で堂々と他の幹部らを挑発しても、誰も言い返さないのは、皆がこの女を恐れ、羨み、尊敬しているからに他ならない。
「それはそうだ。今回は許そう。だが、あくまで本業は忘れるな」
「御意に。では、遅ればせながら、理事長にご挨拶を」
4年前の時点で齢十三歳、歴代最年少で最高幹部に就任し、今や科学班の長を務める存在。
「理事会最高幹部が1人、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第2章『学園抗争』に続きます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます