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「……………」
何だろう、愛する人との交わりってどうしてこう幸せなんだろうか。アタシは天井をジッと見つめながらそんなことを考えていた。
確かに恥ずかしさはある。でもそれ以上に幸せが、カズへの愛おしさがこれでもかと溢れてくるのだ。もっと触れてほしい、もっと愛を囁いてほしい、もっとアタシを感じてほしい、そんな風に止めどなく想いが溢れてくる。
「……えへへ」
「どうした?」
「ううん、幸せだなってそう思ったの」
隣を見るとアタシと一緒で裸のカズが傍に居る。幸せだと、そう伝えるとカズは俺もだよと言葉を返してくれた。そしてアタシの頭を優しく撫でるように抱きしめてくれる。アタシはこうされるのが凄く大好きで、アタシからも全力で応えるように抱きしめ返してしまう。
でも、こうして落ち着いてくるとさっきまでのことを思い返してしまう。初めての時と同じような初々しさはあっても、あの時以上にアタシとカズは愛し合った。カズから触れられる部分全部が気持ちよくて、もっと触ってほしいだなんて口にしてしまったような気もする。
「……っ~!」
赤くなった頬を隠すようにアタシはカズの胸元に全力で抱き着く。カズの匂い、アタシの大好きな匂いだ。乃愛も洋介の匂いが好きって言ってたし、もしかしたらアタシたち姉妹は匂いフェチなのかもしれない。
……ていうかさ。こうしてアタシだけ照れてるのはなんか納得できない。よし、今からカズも照れさせてやる!
「ねえカズ、あれはどうだった?」
「あれ?」
「ここでさ、こうやるの」
カズから離れアタシは自分の胸を指差し、そして挟むようなジェスチャーをしてみた。カズにはそれだけで伝わったのか、一気に顔を赤くして視線を逸らした。まあ現在進行形で顔を赤くしてるのはアタシも一緒だと思うけど……ふふ、あの時のカズ可愛かったなぁ。
「俺自身凄くビックリしたけど……うん、最高でした」
「ふふ、あれだとそこまで汚れないから割と色んな所で出来そう?」
「……冗談だよね?」
「う~ん、図書委員の当番で座ってる場所さ……死角だよね?」
「……………」
「あ、想像した」
「はっ!? 仕方ないんだ!」
カズはエッチだなぁ……なんて、そんな提案をするアタシの方がエッチなのかもしれない。でも……割と本気でいいかもと思ったアタシ自重しろ! 頭を振って何とかその考えを追い出し、アタシは改めてカズに思いっきり抱き着いた。
「今日雅の家で帰る直前、アタシたち女子で揃って話をしてたじゃない? 何を話してたと思う?」
「……う~ん」
絶対当たらないとは思う。だって……あはは、アタシたちも年頃ってことなんだよねあの会話は。
『柚希ちゃんはどんな体勢が好き?』
『体勢……って、もしかしてそういうこと?』
『うん。ちなみに私は向かい合うのが好き』
『い、いきなり何の話をしているんですか!』
『とか言ってりーちゃん興味津々じゃん』
『う~ん、アタシは……』
『……ドキドキ』
『りーちゃん……』
なんて会話をしていたのだ! ……のだって何よのだって。とまあこんな感じのやり取りをしていたわけだ。凛と乃愛も恥ずかしがってはいたものの、興味津々に聞いていた。とはいえ、アタシはまだカズと一度しかしてなかったからその時は上手く答えられなかったけど、今なら答えられるかな!
「……分からん」
「だよね。あはは、まあ何というか……乙女たちの秘密ってことで」
「??」
けど、あんな問いかけしたのにこんなはぐらかした方はないよね。だからカズには真っ直ぐ伝えることにしよう。
「向かい合うのが好き、しかもキスしながらだと最高だし胸とか触ってもらえているとそれはもう凄いことになるね!」
「……!!」
今アタシはカズに抱き着いている。つまりこういうことなんだよ。
「今みたいな体勢がアタシは好き、カズはどうかな?」
「……好きです」
「うん。知ってる」
カズは意識してるか分からないけど、アタシと向き合う体勢が多かったんだ。だからアタシたちはそういう部分も似ているね。ふふ、でもこんな会話ばかりしてると色々と大変だしこの辺りにしとこっか。
「シャワー浴びよ?」
「あぁ」
安心したようにホッと息を吐いたカズがあまりに可愛くて、アタシは思わず胸にカズの頭を抱えるようにした。何というかさ、こうやって甘やかせたいって気持ちにもさせるんだよねカズって。
「30秒くらいこうしてよ?」
「……うん」
あ、そのうん可愛い!
マズい、本当に自分でも抑えられないくらいアタシはカズに夢中だ。以前語ったことがあるかもしれないけど、アタシはあの時のカズの背中が忘れられない。アタシを助けてくれた大きな背中、アタシを守ろうとしてくれたカズを忘れられないんだ。アタシのことなんてそんなに知らないはずなのに、ただ通りすがっただけなのにアタシを助けてくれたあの時のカズに一目惚れしたようなものだ。
「……一つ疑問というか謎というか」
「なあに?」
「どうして女性の胸ってこんなに落ち着くんだろう」
「それって科学的に証明されてなかったかな。なんかで見た気がするんだけど」
「あぁ俺も何かで聞いたような気がする」
「落ち着く? アタシの胸は」
「あぁ……凄くね」
肩が凝ることもそれなりだけど、こんな風に甘えてくれるのならこの大きな胸に感謝しないと。乃愛にはFって知られてるけど、ちょっと最近また大きくなってきたからなぁ……って、シャワー!
カズとイチャイチャしだすとやろうとしていたことを速攻で忘れちゃうから気を付けないと……うぅ、でもこのままずっとイチャイチャしていたいけど心を鬼にするんだ!
どうやら私の百面相はカズにしっかりと見られていたみたい。クスクスと笑われてしまったけど、そんな笑みでも私も嬉しくなるあたり相当だよ本当に。
それからカズと一緒にお風呂に向かおうとしたんだけど、その時にアタシのスマホが震えた。誰からだろうと思って画面を見ると、そこには懐かしい名前が出ていた。
「……荒木さんか」
“久しぶり月島さん。実はね、久しぶりに会えないかなって思ったの。こっちの高校の先輩が月島さんに会ってみたいって言っててさ。良かったらみんなで遊びに行こうよ”
そんな感じの内容だった。
アタシはパパっと返事を打って返信した。
「中学の同級生から。大したことじゃないよ」
「そっか。よし、早くシャワーを浴びようか」
「うん!」
「……あ、返事が来た」
とある場所、見た目からして派手な女性がスマホを手に取った。彼女の名前は荒木杏奈と言って、先ほど柚希にメッセージを送った昔の同級生だ。柚希と違う高校に進学した彼女は見た目から想像出来るように男遊びばかりしている。今回先輩たち大勢とカラオケに行った際、昔の写真を見せた時に柚希を先輩が目に留めたのだ。
『この子いいじゃん。誘ってくれよ』
その問いかけに杏奈は快く頷いた。柚希とかなり親しかったかと言われればそうでもないが、連絡先を交換する程度には話したことがある。だからこそ、誘いに乗ってくれると思ってメッセージを送ったのだが……返ってきたメッセージは思った以上に冷たいものだった。
“久しぶり。興味ないからいいや。ごめんね”
「……はあ?」
女子高生特有の絵文字とかが一切ない、ただそれだけの文字が返事として返ってきた。中学の時と違い、高校生になって垢抜けた杏奈はこの柚希からの返事に理不尽な怒りを抱く。
「この私が誘ってんのに何この返事……調子乗ってんのこいつ!?」
吸っていた煙草を捨てて踏みつける。その姿に通りすがった大人が注意をするが杏奈は鬱陶しそうにするだけで聞きもしない。高校も違うし通学路などで出会うこともない、だから文句を直接言うこともできないが……もし偶然会うことがあったらこれでもかと罵声を浴びせてやろうと心に決めた。
「……本当にムカつく女」
中学時代、杏奈の好きだった男子も柚希しか見ていなかった。その事実を思い出すだけでも杏奈は怒りに我を忘れそうになる。柚希にとっては全く関係のない逆恨みだが、杏奈からすればどうでもよかった。
とはいえ、だ。
この時の杏奈は考えもしなかっただろう。柚希ではなく、彼女の親友に鋭い言葉のカウンターを食らうことになるのを。
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