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「……おぉ」
「あはは、カズの反応は当然だと思うよ」
朝から朝比奈邸に来ていた以上昼食はどうするのかっていう疑問があった。これだけ面子が居ることだしファミレスにでも行くのかと思ったけど、まさか……こんな風に用意されるとは思わなかった。
俺たちがさっきまで遊んでいた大きい部屋、その部屋でボードゲームを広げていた長テーブルに料理が並んでいた。まるで旅館で出てくる料理のように、俺たち全員分の料理が用意されていたのだ。
「凄いな……え、これって全部お手伝いさんが?」
そう聞くと、料理を運んでくれた三人の女性が頭を下げた。朝比奈さんもそうだよと頷いているし、本当に凄いなこれは。
「なあなあ! 早く食べようぜ!」
「もうよーくん! 食い意地張り過ぎ!!」
洋介はともかくとして、みんなはこの光景が当たり前のように座った。柚希は隣をポンポンと叩くように俺に座るよう促した。
「ふふ、初めての方はまあそうなりますよね。三城様、好き嫌いがなければどうぞ完食してください。それが私たちにとっての喜びですので」
そう言ってお手伝いさんは部屋を出て行った。つい俺も頭を下げてしまったが、ずっとこうしてるのもアレだと思い柚希の隣に座る。全員が座ったのを確認し、みんなで手を揃えていただきますと口にするのだった。
「……うまっ」
見た目から分かっていたことだけどかなり美味い。白身魚のフライっていうありふれたものではあるが……まあ雰囲気もあってそう感じるのかもな。みんなもそれぞれのペースで楽しんでいるが、洋介は次から次へとパクパク口に運んでいる。乃愛ちゃんはそれを隣で呆れているかと思いきや、楽しそうにジッと洋介を見つめていた。
「乃愛ってさ、本当に洋介が好きなんだよ。たくさん食べる姿とか、いつもあんな風に見つめてるの」
「へぇ」
ジッと見つめられているからこそ洋介も気になったのか乃愛ちゃんと目を合わせた。乃愛ちゃんは目が合ったことが嬉しそうに笑みを浮かべるけど、洋介は少し照れくさそうに目を逸らして食べることに集中する。あれはあれで結構意識しているような気もするけど……どうなんだろうな。
「……でも」
「どうしたの?」
ああやって好きな人を眺めて目が合えば嬉しそうに笑う、この部分は柚希と本当にそっくりだ。髪の色は違うし雰囲気も違うけど、姉妹ということもあって乃愛ちゃんの顔立ちは柚希と本当に似ている。だから笑顔とか、笑った顔は柚希にそっくりで綺麗だし可愛いなと思ったのだ。
見つめてくる柚希に何でもないと口にして食事を再開する。するとやっぱり柚希は気になったのか聞いてきた。
「え~? ちょっと気になるんだけど!」
「知りたい?」
「うん」
何々と、身を寄せてきた柚希に俺は答えた。
「まあそこまで大したことを思ったわけじゃないよ。乃愛ちゃんが洋介を見ている視線とか、目が合った時の嬉しそうな笑顔が柚希と同じだなって思ったんだ。見てるこっちが幸せになるような、そんな笑顔がさ」
「……あ」
思わず手を止めた柚希のポカンとした顔が可愛くて思わず苦笑する。柚希は数秒口をパクパクさせた後、俺の手をガシっと掴んで身を寄せてきた。そんな柚希の表情はというと……ちょっと怒ってる? いや、怒ってるというよりは何だろう……良く分からないが柚希は俺にしっかり言い聞かせるように口を開いた。
「ねえカズ、アタシは今とっても我慢しています」
「お、おう……」
「みんなの目があるからイチャイチャするのを我慢しているのです。止まらなくなりそうだから、さっきのキスのことだってまだ頭に残っています……その、言っちゃうとすぐに二人っきりになって色々したいのを我慢しているんだよアタシは」
ストレート過ぎる言葉に俺も少し恥ずかしくなってしまう。柚希が何を思っているのか、何をしたいのか分からないほど鈍感ではないからだ。……まあ、そんなこともあってこの後柚希を家に招いたわけだけどさ。
「それなのに……それなのにカズはアタシをイジメるんだから! 我慢しているアタシにそんな嬉しい事ばかり言っちゃってさ……もうもう! 本当に……ほんっとうに大好き!!」
本当に、その部分で俺に抱き着こうとしたけど流石に食事中ということもあって踏み止まったみたいだ。代わりにと言ってはなんだが、俺が大好きな笑顔でそう言ってくれた。ちなみに、この俺たちのやり取りはバッチリ他のみんなに見られていたわけで。
「柚希と三城君って息をするようにイチャイチャしますよね」
その青葉さんの言葉に俺と柚希を除く全員が力強く頷くのだった。さて、そんな風にみんなで美味しい昼食を頂いた後はゆっくりとした時間を過ごす。
「それにしても朝のゲームの時は本当に楽しかったよ」
その朝比奈さんの一言は確かに間違ってはいない。何だかんだあったけど、笑いあり涙ありの時間だった。涙が誰を指すのかは一先ず置いておいて、そんな風に楽しい時間だったのは確かだ。
しかし、思い出して楽しそうに笑う朝比奈さんを見て立ち上がった存在が居た。そう、柚希である。彼女は物凄く良い笑みを浮かべて朝比奈さんに歩み寄るが、柚希の様子から何かを感じて蓮同様に朝比奈さんも逃げようとした。
「凛、乃愛」
「はい!」
「イエスマム!」
柚希の声に応えるように二人は朝比奈さんを拘束するように捕まえた。ジタバタと暴れる朝比奈さんだが、流石に二人の力には勝てないらしい。空は呆れたように溜息を吐き、洋介は眠くなったのかいびきをかきながら眠り、蓮に至ってはさっきの俺みたいだと遠い目をしていた。
「な、何をするつもりかな……?」
「う~ん、分かってるでしょ?」
「……はい。せめてお手柔らかに」
朝比奈さんは抵抗を止めたようだ。柚希は手をワキワキとさせながら朝比奈さんに覆い被さり、そのままくすぐり攻撃を始めた。あぁなんだ、流石に相手が朝比奈さんだけあって可愛い感じで良かったよ。
「あははは! やめ……やめてぇ……ふぁ……ぅん!!」
「ほらほら、良い声で鳴きなさいよ」
「いやあ……凛ちゃんも乃愛ちゃんも離してぇ!」
「ふふ♪」
「あはは♪」
柚希だけじゃない、あの二人も楽しそうに朝比奈さんを見下ろしていた。まあ確かに俺と柚希が目立った感じではあるけど、大体みんな朝比奈さんに振り回された感じだからなぁ……。
「雅も大人になっちゃって」
「みーちゃん前より大きくなってる」
段々くすぐり攻撃が卑猥なものになっているけど、あの女子の絡みに突撃する勇気は俺にはなかった。というか実際に被害に遭っている朝比奈さんの他に約一人落ち込んでますがな。
それから困りながらも柚希たちが満足するまで待ち、三時くらいまでみんなで雑談に興じて解散になった。
「ありがとう朝比奈さん。今日は楽しかったよ」
「……あはは、そう言ってくれると嬉しいよ。また呼ぶから来てね?」
今日みたいに暴れるのは勘弁だけど、楽しかったのは本当だ。朝比奈さんとまだ残る蓮に挨拶をして俺と柚希は先に帰ったみんなに遅れる形で朝比奈邸から出るのだった。
「あ~! すっきりしたぁ!」
「あれだけ暴れたらなぁ」
どうなるかと思ったけど、あれもまた彼女たちなりの仲の良さなんだろうな。男としては少し直視できなかったけど、それでも最後まで笑いは途切れなかった。飲み物を買いつつ、俺は柚希を連れて家まで帰りそのまま部屋へと向かった。
ベッドに腰を下ろして俺は柚希と見つめ合う。
「……はは、思えばあれ以来か」
「そうだね。ふふ、恥ずかしいはずなのに待ちきれないのが不思議」
照れたように笑った柚希の肩に手を置いてキスをした。昼前にした触れるだけ、唇を舐めるような優しいキスではなく、徐々に舌を使った激しいモノへと変化する。二回目というのはやっぱり一回目と心持ちが違うのか、余裕はそれなりにあった。
「カズ……カズぅ……ぅん……あむ」
ベッドに横になった彼女に覆い被さってキスをしながら、服の上から胸に触れると温かさと柔らかさが手の平に広がった。震える体に思わず手を離しそうになったもののそれを止めたのは柚希だった。
「もっと触って……お願いだから」
その求めに再び俺の手は柚希の体へと伸びた。
付き合っているからこそやっぱりこういう時間も大切なんだと思う。もちろんちゃんと学生だからこそ守るべきことは守る、それを認識した上で改めて俺は柚希と体を重ねるのだった。
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