やれやれ系主人公っぽいやつを観察してたらいつの間にかその美少女幼馴染に気に入られていた件

みょん

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 中学生の時はそうでもないが、高校生にでもなると色々と多感になる時期がある。

 勉強の難しさに嘆いたり、将来を見据えて頭を悩ませたり……或いは好きな人が出来てどう接点を持って告白をしようかとか、そんな多くの考えを持つようになる時期だと思うんだ。

 自己が発達して考えが多岐に渡ると色んな人間性が見えてくる。良い人間もそうだし悪い人間も平等に見えてくるってものだ……さて、そんな風に良く分からない自論を展開した俺の名前は三城和人、どこにでも居るような男子高校生である。

 いつもと変わらない日常の一部に溶け込むように、俺は運よくクジで獲得した窓際最後尾の席に座り、今日の授業で使う教科書を広げながら教室内を眺めていた。


「それでさぁ。昨日のテレビがさ!」

「うんうん! 見た見た!」


 でかい声で話しているのは人気の男子と女子のグループ、そしてそんな彼ら彼女らと接点を持ちたくて近づく取り巻きと言ったところか。お友達と仲良くするのは構わないけど、廊下にまで聞こえそうなくらいの音量で話をしないでほしい。俺にとっては……いや、どうやら俺以外の人でも同じことを思っている人が居たみたいだ。現に何人か鬱陶しそうな目で見てるしね。

 ……まあそう騒がしい連中ではあっても悪人というわけではない。学際の出し物であったりクラスの決め事に関しては率先してあれやこれやと意見を言ってくれるからだ。まあつまらない話し合いをとっとと終わらせたいというのが大部分だろうけど、それでも結構助けられていることもあるのだ。

 さて、そんな風に時間を潰しているとガラガラとドアが開いて新たなクラスメイトの登校だ。三人の男子に三人の女子、それぞれタイプの違う男女だ。


「みんなおはよう!」


 その内の一人である女の子が明るくそう挨拶をするといたるところから挨拶が返された。続くように他の奴らも挨拶をすると同じように挨拶される。俺のクラス……いや学校全体と言えるのかな。その中でもこの男女は“一人”を除いてとても有名だ。男子はイケメン揃いだし、女子は美少女揃い、聞くところによるとみんな何回も告白をされるくらいに人気者らしい。

 飛び交う挨拶から逃げるようにその中から一人の男子が抜けてくる。さっき俺は一人を除いて有名と言ったが、その一人がこいつになるわけだ。あの中でこういっては何だがパッとしない男子生徒、俺の席の前に座ったそいつは鞄を置きながら大きく溜息を吐いた。


「……やれやれだな。毎日毎日飽きずによくやるよ」


 俺がバッチリ聞いているとも知らずにそいつはボソボソっと口を開いた。


「おっす、大変だな?」

「おはよう……本当だよ。朝は静かにしたいんだけどな」


 俺の声に反応したそいつは苦笑しながらこちらに体を向けた。まあ色々とパッとしないだの言ってしまったが、俺とこいつは友達という間柄になる。こうして席も近いと話すことはあるし接する機会も増えるから当然と言えば当然だけど。


「それなら一緒に来なければいいんじゃない?」

「それはそうなんだけどさ。先に行くとそれはそれで文句言われるし」

「……幼馴染も大変なんだなぁ」

「んだんだ」


 心底その通りだと力強く頷くこいつに俺は苦笑してしまう。少し遅くなったがこいつの名前は柊空、今までのやり取りからも分かるようにそこそこに話をする友達の一人だ。

 それにしても……と俺はまだ向こうでクラスメイトに囲まれている男女を見る。

 彼ら彼女たちと空は幼馴染という関係でとても仲が良いのは周知の事実だ。入学当時はあの輪の中に居る空を快く思わない奴も居たらしく嫌がらせとかもあったらしいが、それは既にあの幼馴染たちが手を回して解決したらしい。それでも嫉妬の目とかを向けられることも少なくないとかで、この間一緒に昼飯を食ってた時に空は愚痴っていた。


「でもさぁ、なんかラノベの主人公っぽいよね」

「またそれ? 俺は主人公なんて柄じゃないし断じて」

「そんな力強く否定しなくてもええやん」


 空は本当に嫌そうにそんな顔をしているけどまるっきり俺の知っているラノベと被ってるんだよね。確かに視線の先に居るキラキラとした男女に比べると空は普通だ。けどあいつらはあいつらで空を頼りにしている部分はあるし、何だかんだ空も行動力を発揮することがあってそれに助けられる人間が少なくないわけじゃない……うん、これはもう主人公ですね。


「生暖かい目で見つめるなよ」

「そいつは失礼」


 失敬失敬と身振り手振りをすると空はまた小さく溜息を吐く。あまり溜息を吐き過ぎると幸せが逃げるぞ、なんて言うと誰のせいだって言われそうなので黙っておくことにしよう。

 こうして空と話をしてるだけで朝礼まで五分を切っていた。騒がしさは相変わらずだけど席に着く人たちが増えてくる。それはあのキラキラ幼馴染たちとて例外ではなかった。


「勝手に居なくならないでくださいよ空君!」

「いやだってめんどくさいし」

「友達付き合いも大事なんですよ? それにまた三城君にご迷惑を掛けたんじゃ?」

「なんで俺が迷惑を掛ける前提なのか一度話し合おうか」


 夫婦漫才は他所でやってくれ他所で。

 空の席の前に座り俺を見てそうお茶目に口にしたのは青葉凛、キラキラ幼馴染の一人である。艶のあるサラサラとした黒髪が目立ち、優し気な雰囲気と顔立ちでとても人気のある女の子だ。ただ空経由で聞いた情報ではあるが、まだ素晴らしい成長とは言えない胸部のことを少し気にしているらしい。


「三城君、何か良からぬことを考えましたか?」


 ……女子って怖い、鋭くて怖い。

 ゴゴゴと恐ろしさを感じさせる青葉さんからそれとなく視線を外す。


「いや和人、それ白状しているようなもんだぞ?」

「……やあ青葉さんいい天気だね」

「ふふ、雨が降ってますけどねぇ」

「……………」


 外を見れば雨模様……こいつは迂闊だった。

 ていうか空のやつめっちゃ楽しそうに俺をみてやがる。そんなに青葉さんに怯える俺を見て楽しいのかそうですか。いやでもさ、女子って怒ると何するか分からないっていう恐怖みたいなのもあるんだよ。あることないこと噂流されて学生生活破綻とか嫌だしさ。まあ青葉さんに限ってそんなことするわけないとは思っているけど。

 旗色が悪くなる俺、空と青葉さんも俺を笑顔で見つめている逃げ場のない状況に救世主が現れた。


「こら、あまり“カズ”を苛めるのはやめなって」


 そう言って乱入してきた女の子、彼女もまたキラキラ幼馴染の一人である。


「別に苛めたつもりはないですよ。ちょっと何か不愉快なモノを受信しただけですから」

「受信って何よ受信って」


 そう言って俺の隣の席に座って椅子ごとグイっと彼女は近づいてきた。

 花のようないい香りが鼻孔をくすぐってきて少し緊張してしまう。この女の子の名前は月島柚希、委員会も一緒のことからそれなりに俺にとっても良く話す子だ。


 明るい髪色と胸元のボタンを外していたり、先生にバレない程度にネイルなどをしていることから少しギャルっぽい。しかし青葉さんに負けず劣らずの美貌なのでこれまた美少女だ。後何と言っても立派なモノをお持ちである。


「月島さん少し近い――」

「柚希」

「つきし――」

「柚希」

「……柚希」

「うん♪」


 名前を呼んであげると嬉しそうに笑ってくれる、その笑顔は本当に破壊力抜群で心臓に悪い。


「なるほど、ああやって距離を詰めるんですね」

「……なあ凛、どうしてそんなに顔を近づけるの?」


 何やらあっちがイチャイチャしだしたけど気にする余裕はなかった。

 正直なことを言えば個人的に派手な人ってのは苦手に思うことがある。それは知り合った当時の柚希にも同じことが言えた。けれど席が隣になったこともあって、更には委員会も一緒になると触れ合う機会というのは増えるんだ。だからこそ上辺しか見てなかった自分を恥じるくらい、柚希がとても思いやりがあって可愛い女の子だと知ったんだ。


「ちょっと近いんだけど……」

「そうかなぁ? 普通だと思うけど?」


 ニヤニヤしながら更に距離を詰めるのはやめろって、ていうか絶対分かってるよね?


「ふふ、カズってば照れちゃってさ」

「そりゃ照れるでしょうよ。柚希って美人だし」

「……そっか。えっと……ありがと」

「う、うん……」


 いきなりしおらしくなって髪を指でクリクリしながらお礼を言う柚希……まあ俺もいきなり美人って言ったのはどうかと思うけど、慌ててたから嘘が言えなかったんだ。そうこうしていると担任が教室に入ってきた。俺と柚希はサッと離れるがその直前だった。


「おはよ、カズ」

「おはよう柚希」


 そんな小さないつもの挨拶が行われるのだった。

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