透明なボクを愛して

増田時雨

プロローグ

少し暗く、埃っぽい階段をゆっくりと上っていく。屋上へと続く階段に人影はなく、ただ自分の足音だけが響く。

私は屋上の景色を想像する。きれいなオレンジ色の夕焼け、描きかけのキャンバス、散らかった絵の具のチューブ、たくさんの色が混じり合ったパレット。

そして……。



私はギィと屋上の扉を開く。すると、想像通りの景色が開けた隙間から覗く。

私は手に力を入れて、錆びついたドアを全開にする。

夕焼けが、落下防止用の白の柵を紅色に彩っている。


私は一歩外に出て、ぐるりと周りを見渡す。

いつもどおりの世界。そのはずなのに、何か違う。

私は屋上に出て、ゆっくり歩き出す。

強い風のせいで、開け放たれていたドアがバタンと閉じる。


その瞬間、私の目にあるものが飛び込んできた。柵の外にきちんと並べられた、学校指定の上履き。それが、私の感じていた違和感の正体だとすぐにわかった。


私は無意識のうちに震えていた手を強く握って、その上履きへと向かっていく。

雲がちな空は茜色に染まり、静かな世界を優しく照らす。

上履きのすぐそばまで来た私は、柵を両手で掴み、おそるおそる下を覗いた。



そこには、夕焼けにも劣らないほど美しく、鮮やかな赤い血の海が広がっていた。

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