透明なボクを愛して
増田時雨
プロローグ
少し暗く、埃っぽい階段をゆっくりと上っていく。屋上へと続く階段に人影はなく、ただ自分の足音だけが響く。
私は屋上の景色を想像する。きれいなオレンジ色の夕焼け、描きかけのキャンバス、散らかった絵の具のチューブ、たくさんの色が混じり合ったパレット。
そして……。
私はギィと屋上の扉を開く。すると、想像通りの景色が開けた隙間から覗く。
私は手に力を入れて、錆びついたドアを全開にする。
夕焼けが、落下防止用の白の柵を紅色に彩っている。
私は一歩外に出て、ぐるりと周りを見渡す。
いつもどおりの世界。そのはずなのに、何か違う。
私は屋上に出て、ゆっくり歩き出す。
強い風のせいで、開け放たれていたドアがバタンと閉じる。
その瞬間、私の目にあるものが飛び込んできた。柵の外にきちんと並べられた、学校指定の上履き。それが、私の感じていた違和感の正体だとすぐにわかった。
私は無意識のうちに震えていた手を強く握って、その上履きへと向かっていく。
雲がちな空は茜色に染まり、静かな世界を優しく照らす。
上履きのすぐそばまで来た私は、柵を両手で掴み、おそるおそる下を覗いた。
そこには、夕焼けにも劣らないほど美しく、鮮やかな赤い血の海が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます