第7話 正月二日
正月二日、環の家では親戚が集まるのが毎年の恒例となっていた。
元旦は家族で静かに過ごし、二日に親戚一同集まって顔見せをする、今は亡き祖父が決めたことだ。
元々大勢で騒ぐことが好きな環だったが、今は宴を離れて二階にある自室にいた。
階下の喧騒に紛れて、茜の声が聞こえてくる。
「ほら!おじさん、もっと飲みなって」
どうやら御酌をして回っているようだが、酒豪の茜相手だ男衆もそろそろ音を上げてる頃だろう。
家族同然の茜が参加するのも、毎年恒例の風景になった。
暫く、皆の声を遠くに聞きながら作業を進めていたが、不意のノックで環は我に返った。
「開いてるよ~」
その声を受け、ペットボトルを持った茜が入ってきた。
「いやぁ、宮下のおっちゃんってあんなにお酒弱かったっけ?」
「おじさんも70超えたしね、普段は飲む量も控えてるっておばさん言ってたよ」
そっかそっか、と言いながら茜が差し出したペットボトルを環は受け取った。
「ありがと」
キャップを捻って開け、スポーツドリンクを流し込んだが思いの外喉が渇いていたことに今更気づく。
考えてみれば2時間弱悪戦苦闘していたのだ。
「で、どう?」
茜の確認は、先程から環が行っていた設定についてだ。
「とりあえず諸々のアカウントの登録が終わって、再起動させたとこ」
「お、良いね。順調じゃん」
「そりゃあね、あれだけ念入りに事前の説明サイトを見ておけって言われたんだし」
言いながら、環はさっきまで見ていたスマホの画面を指でスクロールさせた。
途中、登録するメアドのパスワードを忘れて、探すのに手間取ったことは内緒にしておこうと心に決めていた。
「確かに調べておくのは必要だと思った」
「でしょ?大体初めての人はこういう設定でひっかかるんだよ」
笑いながら茜はコントローラを持ち、再起動されたラフステーションの主要な設定を確認して回る。
「オッケ!問題無し」
そう言って環に向かってVサインをする。
環は大きく頷いて、ようやくこの地道な作業が終了したことにほッと胸を撫で下ろしていた。
年末の福引で特等を当ててから、今日まで怒涛の日々だった。
本来なら、年明けの落ち着いた時期に商品が納品される予定だったそうだが、
物が物だった為に、茜が典子に相談し即納という流れになってしまったのだ。
福引会場を後にし、環が帰宅した直後には、ラフステとテレビを積んだ軽トラが到着し、
あれよあれよという間に茜の部屋に40インチの4K対応テレビが設置され、
今まで置いてあった19インチは弟の部屋に払い下げとなった。
弟の部屋と諸々の配線工事を済ませ、あっという間に去っていった敷島電機のスタッフに一番感謝したのは、
今まで部屋にテレビが無かった弟だろうと環は思っていた。
そこからは正月を迎える支度、家族での初詣、親戚を招く準備と追われラフステの箱を空けたのは
元旦の夜になってからだった。
茜の指示でネット回線に繋ぎ、FLHのソフトをダウンロードするためだ。
FLHは店頭売りでなくダウンロード専売の為、落とすのに時間が掛かるとの判断だった。
その判断が正しかったことを、終了まで6時間と表示された画面を見て環は思い、茜の忠告通りそのままベッドに入った。
「良し。FLHのアカウント登録も終わってるんでしょ?・・・どうする?やる?」
悪戯っぽく笑う茜。
「やる!」
そう言ってコントローラーを受け取り、環は40インチの前に陣取った。
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