聖魔逆転! 〜最悪の勇者と正義の魔王の異世界物語〜

よしかわゆきじ

プロローグ 聖魔逆転

 その戦いは壮絶そうぜつを極めた。


 最終決戦。幾多の強敵を打ち破りながらダンジョンの最奥にたどり着いた勇者シャインのパーティーは、魔王ゲラに立ち向かい、己をかえりみず戦った。


 勇者が携えるは魔王を切り裂ける唯一の武器・聖剣バディ。


 大聖女ノアルは彼女だけが持つ聖なる力を一点に注ぎ込み、聖剣に力を与えた。

 大魔術師ソーサーは自身に宿る魔力の全てをぶつけ、最上級幻魔法げんまほうであるビッググラビティを発動した。通常の魔物であれば永くにわたって静止してしまうといわれるこの魔法は、魔王ゲラの動きすらもわずかながら遅らせたのだ。


 力を使い果たした二人を守るのは聖騎士デュソーと射術士しゃじゅつしロミの役割だった。しかし、彼らに魔王直属の飛翔魔ひしょうまたちが同時に襲いかかり、防衛は阻まれた。


「くそっ、なんだこれは!? ロミ、なんとか撃ち落とせないのか!」

「無理だ。魔物のくせに連携の精度が高すぎる。こんなことが・・・」


 焦りを隠しきれない二つの声が聞こえた次の瞬間、彼らのものとは違う絶叫がこだました。


「ノアル! ソーサー!」


 全ては魔王を打ち倒すため、自らの身を守るほどの魔力すらも残さなかったソーサー。そして、シャインにとって最愛の女性でもあったノアル。彼らの命の灯火が無情にも吹き消されたのだった。

 しかし、それでも勇者は振り返らない。動きが鈍くなったとはいえ、一瞬でも隙を与えれば魔王に逃げられてしまうだろう。命を賭した彼らがそんなことを望んでいるはずもない。仲間を失った悲しみをも力に変え、彼は剣を振るい続けた。


 大聖女ノアルから譲り受けた聖なる力を結集し、自身を守る光の壁を作り出す。相討ち覚悟で捨て身の接近戦に持ち込むと、二合で降魔こうまほこを払い退け、魔王の心臓に聖剣を突き立てた。


「うおおおおおお!!!!」

「がぁっ・・・」


 魔物を倒す時と同じ、確かな感触があった。ついに魔王ゲラを倒せる。そうシャインが確信したとき、ゲラが苦痛に顔を歪めながら何かの呪文を詠唱えいしょうし始めた。


「貴様、何を・・・」


 ゲラは最期の力をふり絞り、禁忌とされてきた言葉を叫んだ。


「聖魔逆転(リヴァーサル)」


 刹那せつな、魔王ゲラは光に、勇者シャインは闇に包まれてその場から姿を消した。

 魔王が操っていた飛翔魔も消え、凄惨せいざんな戦いの舞台へあまりに唐突な静けさが訪れた。

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