憂いにウェブ

朶骸なくす

小さな刃物に託す

逸話を知っているかい

人の心を動かすぐらいの

ちっと短い

一言で

物語を

一夜を明かす為にはつまらない

ただの肴には短く

なんとこともない

商売人のほら吹きかもしれない


「その刃物は人を殺したんだよ」

露店の店主が言う

「さらに殺して、殺して」

これは「人を殺せる刀だよ」なんと


聞いていた客は往々にして驚く

そんな呪われた品は

よくあること


「憎い相手に持たせればいい」

そうしたら殺せるさ

店主は両手を広げて言う

火が付いたように人々が手をあげて

値段をいいあう、競りになる


わたしは思う

その小さな刃物は「小さすぎる」

狙いを定めて急所を突かなければ

人など殺せない

呪い殺せるほどの可能性があるのも

怪しく思う

しかし同情はした

刃物は切る為にある

人斬り刀は別にして、その小刀は

自衛にしかならないだろうに


値段がつり上がる

値段が響く

誰かがはなった言葉で周りが静まった

(もう、それだけの金は出せない)

店主はニコニコしていた

なるほど、サクラがいたのか

だから、わたしは「〇〇〇」と倍値を突き付けた

にやりと笑った店主は「決まりだ!」と言う


無事にわたしの手元へ呪いの小刀はきた

見ていた時より小さく感じる

そうだな、やっぱり人を殺すとうたうなら

『呪い』と言って売らなければならないだろう


「お前も苦労するな」

家のものはバカにするだろうが

一ヶ月もない命

この命の灯火を呪ってくるか

運命を呪い、壊してくれるか?


あまりに小さい

小さすぎた刃物は

助けてくれるだろうか

心臓を刺してくれるか

それとも命を刺してくれるか

一ヶ月が楽しみである


わたしの、わたしの子の枕元に置くとする

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