〈第36話〉 愛しいぬくもりに包まれました

「あぁ、俺は正気だよ」


 凄まじい怒気をまとって、クラウドが穴から出てきた。

 握り拳にふぅと息を吹きかけて、クラウドはベアード博士を一瞥した。

 クラウドに殴り飛ばされたベアード博士は、すでに意識はない。


「クラウドさま……ご無事ですか?」


 震える声で、アメリアは問う。

 正気だと言っていたが、アンポクスの影響がどこにもないとは言い切れない。

 心配でたまらなくて、無事であるようにと祈りながら、アメリアは恐る恐るクラウドに歩み寄る。

 クラウドはアメリアをその赤い瞳に映すと、大きく目を見開いた。


「どうしてまだここにいるんだ!? 逃げろと言ったのに!」

「クラウド様……」

「アメリア、俺に近づくな! 俺の服にもアンポクスが染みついて」

「ク、クラウド様ぁ~っ! うっ、ご無事で、本当にっ、よかったですっ」


 アメリアはクラウドの制止も聞かずに抱き着いた。

 大きくて広い胸はアメリアを難なく受け止めてくれる。

 ぎゅうっと抱きしめると、ドクドクという激しい心音が聞こえてきた。

 生きている。

 失うかもしれないと恐怖した分、涙があふれてくる。


「危険な目に遭わせてしまってすまない。心配をかけてしまったな」

「クラウド様がご無事であれば、それだけで十分です」

「それは、その……嬉しいが、勘違いしてしまいそうだ」


 クラウドはそっとアメリアの体を離そうとする。

 その動きに抗うように、アメリアはさらにクラウドの体にぎゅとしがみつく。


「勘違いではありません!」

「な、何を」

「私も、同じです。クラウド様が花の姿の私に優しくしてくれたあの日から、ずっと。クラウド様と過ごす日々が幸せで……」


 花であるアメリアを気遣ってくれて。優しく笑いかけてくれて。

 必要としてくれて。守ってくれて。愛おしんでくれて。

 欲しかった言葉も、あたたかい居場所も、アメリアが求めていたものすべて。 

 クラウドがくれたのだ。

 

「告白された時、本当に嬉しかったんです。とても嬉しくて、幸せで、でも、クラウド様には、私は相応しくないから……諦めようと思っていました」


 理性が邪魔をすれば、この気持ちはきっとまた自分で殺してしまう。

 だから、今伝えたかった。


「私、クラウド様のことが好きです。大好きなんです」


 涙でぐちゃぐちゃの顔で、可愛くもなんともない告白だけど、まっすぐに自分の気持ちを伝えたい。


「クラウド様、大好きです。クラウド様の側にいたいです。これからも、クラウド様のことを待っていてもいいですか?」


 涙でにじむ視界が一瞬だけ開ける。

 クラウドがそっと涙を拭ってくれたのだ。

 とても幸せそうに微笑む彼と目が合って、また涙があふれてしまう。

 泣きすぎて赤くなった瞼に、少し冷たいクラウドの唇が優しく触れた。


「もちろんだ。アメリア、愛している」


 クラウドに呼ばれる自分の名前が好きだ。

 甘くて、愛しくて。

 時々きゅっと切なくなる。


「アメリアでなければ駄目なんだ」

「嬉しい、です。クラウド様……大好き……」

 

 愛しさと幸せに包まれて、無茶をし過ぎたアメリアは大好きな人の腕の中で意識を手放した。

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