旅仲間が増えそうです

いま、俺たちはある人たちを尾けている。

こう言うと犯罪のように聞こえるが、実際は犯罪が起きるのを防ごうとしているのだ。


俺たちは、さっき偶然ある男と少女が話しているのを目撃し、どうやら男は少女を夜の玩具にしようとしていると、分かってしまった。

そして、これまた偶然、その男はその1時間前に俺があれこれ褒めまくって調子に乗らせてしまった男だったのだ。


これは俺が止めなくてはと思い、男と少女の動向を尾けている次第である。



俺の予想通り、男と少女は街を出て、近くの森に入って行った。

しかし、予想外の事もあった。

男の仲間らしき人が何人か現れた事だ。


どいつも気配を消せていないが、辺りが暗いからか少女に気づいた様子はない。


俺の左右にいる穂花と暎斗は、多少ばかり気配を消しているが、気配を消していない男たちとあまり変わらない。

だが、男やその仲間にも気づかれてはいないようだ。



そうやって、しばらく尾けていると男と少女が少し開けた場所に出た。



「ここですか?」



少女が男に問う。



「あぁ、そうだ。ここがお前の人生の分岐点だ!!」



男は少女の問いに、下卑た笑みをたたえて答えた。

そして、ポケットから笛のようなものを取り出し、それを鳴らした。


その音を合図に周りにいた男の仲間たちが少女を囲むように飛び出した。



「えっ? どういうことですか?」



「ククク、お前は騙されたんだよ。夜のクエストなんてない!! これからお前は俺たちに犯されるんだ!!」



「・・・そんなぁ!!」



そんな会話を木の影から聞いていた3人は話し合った。



「どうする? 制圧するか?」



暎斗がそう聞いてきた。

だが、それは難しい。

ただ制圧するだけなら失敗する気はしないが、少女を助けながらとなると絶対とは言えない。

相手がどんな攻撃手段を持っているか分からないからだ。



「いや、あの子を人質にとられる可能性がある。だから、できるだけあいつらを少女から引き離したい。俺と暎斗が囮になってあいつらを引きつけて、その隙に穂花があの子を助け出す。俺たちはあいつらを撒いて、ギルドにいるからそこで合流しよう」



「「わかった!」」



「じゃあ、行くぞ!」



俺はそう言うと、暎斗と共に木の影から出る。


そして気配を出して男たちの横を通り過ぎていく。


その途中で立ち止まった俺は、さも偶然ばったり見てしまった感を装い声をあげた。



「あっ・・・えっと、見てません!! 強い冒険者さんが弱い者いじめをしている所なんて、見てません!! だから詰所に行って報告なんて絶対しません!!」



そう言って俺は駆け出した。

それに暎斗もついてくる。その際、暎斗が「こういう演技は憎たらしいくらい上手いよなぁ」と呆れたようにこぼしていたが、無視した。



それを男たちはボーッと見ていたが、すぐにハッとして追いかけて来始めた。



「ヤベェ、あいつらを逃すな!!」



男がそう叫んで走り出す。それに続いて他の奴らも走り出した。

馬鹿ばかりなのか、少女1人を残して全員が俺たちを追ってきた。



「今のうちに逃げるよ!」



穂花は男たちがいなくなったのを見計らって少女に近づいた。



「誰ですか?」



「冒険者だよ。困ってそうだったから助けてあげたの」



「ありがとうございます。もしかして、さっきの2人組の人達もお仲間ですか?」



「うん、2人はギルドで待ってるから、私たちも行こう!」



誰もいなくなったので、穂花は簡単に少女を救出できた。





「ごめんなさい。私のせいで、危険な目に合わせてしまって・・・」



ギルドに向かって穂花と歩いていた少女は俯いて『しょぼん』という効果音が似合いそうな表情で謝った。



「大丈夫だよ。私たちこう見えて、結構有名な冒険者なの。あの男達くらい何人いても返り討ちよ」



穂花はそう言って胸を張る。



「でも・・・」



穂花が励ますが、それでも罪悪感が消えないみたいだった。



「もし、まだ申し訳ない気持ちがあるなら、これから仲間の2人のところに連れて行くからその時にお礼でも謝罪でもするといいよ」



穂花はこの場で元気づけるのを諦めラウト達の元ヘ連れて行くことにした。



その後、何事もなく穂花と少女はギルドにたどり着いた。



「おっ、来たぜ」



暎斗が穂花を見つけて声をあげる。

それを聞いて武器屋で剣を物色していた俺は手に持っていた短剣を戻して、穂花たちの方へ向かう。



「何もなかった?」



俺の魔力探知で男たちが全員こちらについて来たことは分かっていたのだが、一応きいておいた。



「おかげ様で楽に街に戻れたよ。ラウトたちも大丈夫だった?」



「うん、いい感じに撒いてきた」



「あ、あの。ありがとうございました!」



俺たちが無事を確認し合っていると、穂花の少し後ろをついて来ていた少女は前に出て来て、お礼の言葉を述べた。



「いいよ。というか、俺のせいだし。それより自己紹介しようよ。俺はラウト」



「俺は暎斗だ」



「私は穂花」



「はい、私はルルって言います!! えっと、ラウトさんのせいというのはどういうことですか?」



「ああ、それはね――」



俺はことの顛末を伝えた。



「ぜんぜんラウトさんのせいじゃないですよ。改めて、助けてくれてありがとうございました。私、田舎から出てきたばかりで何も知らないので、本当に助かりました」



「そっか、大変だね。それと、敬語はいらないよ。多分同じくらいの歳でしょ?」



「すいません、この喋り方が素なんですよ。崩した喋り方のほうがいいですか?」



「そうなのか、なら無理に変えなくていいよ」



「ちょっと質問いいか?」



暎斗が会話に参加してきた。



「はい」



「ルルの格好を見ると冒険者っぽい気がするんだが、冒険者なのか?」



「いえ、まだ登録していませんが、戦うのには少し自信があります!!」



ルルはそう言って、胸を張る。いや、あまり変化はなかった。

ルルは銀髪で美少女ではあるのだが、スレンダーな美少女だ。

胸は穂花の方が大きい。

穂花も比較的大きいという程度で、目を見張るほどではないが、それでも穂花と並ぶとルルのそれは小さく見える。


その話はおいておくとして、これから冒険者になるというなら、俺と同じ新人ということになる。

これはチャンスかもしれない。

というのは、俺はどうにかして穂花たちのパーティーに入ろうと思っていたのだが、いきなり有名な穂花たちのパーティーに入るのは目立つし、反感を買いかねない。


冒険者にとって、高ランク冒険者とパーティーを組むというのは、生活を安定させるために一番手っ取り早い手段なのだ。

その点、2人で活動していて、かつ貴族の専属でもない穂花たちならパーティーに入れてくれるかも、と名乗りをあげる冒険者が後を絶たなかったのだと言う。

しかし、穂花たちはそれを断り続けている。

そんな所にぽっと出の新人が入ったと知られれば、恨みを買うのは目に見えている。

そこで、まずは新人同士、ルルと俺でパーティーを組んで、そこそこの成果を出した後にパーティーを統合させれば、少しはマシなのではないかと思ったのだ。

まあ、パーティーは違えど、行動は共にするわけだがな。


だが、ルルの意向を無視するわけにはいかない。

ルルにその事を相談してみた。



「えーと、つまりラウトさんとパーティーを組んで、その後穂花さんと暎斗さんのパーティーと合体するんですね。私もひとりでは不安だったので、ありがたいのですが・・・」



ルルはそこで言葉に詰まった。



「何かいい辛いことでもあるの?」



「私、昔から同年代の友達と比べてかなり強いらしくて、ついて行けないって言われるんです。だから、その・・・」



俺が問うと、ルルは悲しそうに目を伏せながら告白した。

なるほど、こちらの心配をしてくれたらしい。



「ああ、それなら多分、大丈夫だぞ。俺たちも見たわけではないからはっきりした事は言えないけど、ラウトはめっちゃ強いから」



そう答えたのは暎斗だ。

それは俺も同意見だ。

この世界での強さの基準は穂花たちで上位に入るらしいから、俺は最上位のさらに上と言った所だろう。



「そうなのですか?」



ルルは確認するように俺に聞いてきた。



「ダンジョンで鍛えられたからね。強さについては問題ないと思うけど、男女が行動を共にすると言うのに忌避感はない?」



「それは大丈夫です!!」



俺の質問にルルは元気よく即答した。

即答される方がこちらとしては心配なのだが、まあ俺が気をつければいい事だし、よしとしよう。



「じゃあ、これからよろしくね」



「はい! その、不束者ですが、よろしくお願いします!!」



ルルの言葉は、結婚を前にする時のようで少し受け取りづらいが、ありがたく受け取っておく。

これで当面の方針が決まった。


早々に3人の旅ではなくなってしまったが、行き当たりばったりも悪くない。

これぞ旅の醍醐味だろう。



「それで、今日は遅いから登録は明日にして、宿に入ろう。それでいい?」



「はい、大丈夫です」



「穂花と暎斗もいい?」



「いいよ」



「いいぜ」



勝手に話を進めてしまったので、俺は2人の方を見て確認を取った。

2人も異論はないようだ。


俺たちはギルドを出て、昼と比べて少しひっそりした夜の道を歩き、穂花たちがいつも利用しているという宿に向かった。



その途中、後ろにいた穂花から俺だけに聞こえる声で耳打ちされた。



「ルルに手を出したら、死ぬほど後悔させるからね」



普段の穂花からは想像もできない、ゾッとするような底冷えする声に、俺は思わず穂花を振り返った。

すると、とても表面的な作り笑顔で俺を見ていた。

その奥に、言葉にできない恐ろしい何かを感じる笑顔だった。

穂花はルルと俺がパーティーを組むことに、何か思うところがあるらしいが、深入りしたら後が怖いので、俺は頷くことしかできなかった。


ルルに手を出さないという理性は元々あったが、俺の理性は穂花への恐怖へと変わりつつあった。




そんなことがありつつ、俺たちは宿にたどり着いた。

もうすっかり夜が更けてしまった。



俺はダンジョンにいた時とは違う、爽やかな疲労を感じながら宿へと入った。

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