いきなり絶体絶命の危機
目覚めた場所は暗く広い穴というか、洞窟のような場所だった。
「うーん、ここが異世界なのかな?」
(・・・ん?)
俺は辺りを見渡して、違和感を感じた。
目線がやけに低い。
身体を作り替えるとか言ってたっけ。
その身体に少し慣れなさを感じながらまた周りを見る。
確かにこんな場所、地球になさそうではあるが、それだけで異世界だと判断する証拠として少し弱い。
それが確信に変わったのは、背後から感じる猛烈な殺意を放つ怪物の存在を感じた瞬間だった。
俺は何よりも先に逃げ出した。
振り返ることもせず、細い通路のような穴に向かって全力で走った。
気配は俺を追いかけてきている。
俺が体を投げ出すように穴に転がり込むと、同時に、穴の入り口に巨大な手がぶつかった。
振り返ると鬼をより恐ろしくして、巨大化させたような怪物が穴の入り口にギラリと光る目を当ててこちらを見ていた。
幸い、怪物は穴には入って来れないようで、命拾いした。
一気に安堵が広がると同時に、怒りも湧いてきた。
(あの男、やっぱり俺を殺す気じゃないのか?)
こんな危険なら、教えて欲しかった。
届かない怒りを心の奥に仕舞い、俺はどうするか考えた。
持ち物はない。
穴の外には化け物。
できることは穴の中の探索しかなかった。
幸運にも、穴の中には危険なモンスターはいなかった。
そして、奥には湧水があり、飲み水には困らないことが判明した。
そうすると、残る問題は食料だが、これは魔法で凌ぐしかない。
実は魔法は便利なもので、生命活動を限定することで、必要エネルギーを最低限に抑えてくれる。
これで3ヶ月は何も食べなくても生命を維持できる。
しかし、3ヶ月以内に外の怪物がいなくなるとは考え辛い。
となると、あの怪物を倒さないといけなくなるのだが・・・・詰んでね?
それでも、やれることはやって死んだ方がいいので、2ヶ月間で奴を倒す準備をして1ヶ月分のエネルギーで、奴を仕留める。
そして、あいつを食う。
うん、それしかない。
作戦開始だ。
よし、まず寝よう。疲れた。
こうして、異世界1日目は幕を閉じた。
ちなみに自称神曰く、この世界にも魔法があって、その魔法と地球で使っていた魔法は微妙に違うらしい。
加えて、この世界に長くいると、地球の魔法は使えなくなっていくらしい。
――2ヶ月後
俺はここに飛ばされてからずっとこの日のために準備を進め、やっと今日、完璧に準備を終えた。
奴はここに来た日以来、ずっと寝てくれていたので、準備も楽に進められた。
作戦はこうだ。
まず、俺は奴にダメージを与えられる武器を持っていない。
魔法ならば擦り傷くらいつけられるかもしれないが、倒すには遠く及ばない。
よって、殺すには間接的に攻撃する必要がある。
そこで俺は泥水で溺死させることにした。
しかし、奴がすっぽり嵌るほどの大穴を掘るエネルギーはないので、水路を掘って、湧水を穴の入り口周辺に2ヶ月間、流し続けた。
俺の魔法も駆使して奴が入るほどの大きさの泥沼を作った。
あとは奴を誘い込むだけだが、奴も馬鹿ではない、こんなあからさまな罠に嵌ってくれるほど、優しくないだろう。
だから俺は魔法で浮遊し、上を向かせる事で足元に注意がいかないようにすることにした。
準備は完璧。
今こそ2ヶ月に及ぶ戦いのフィナーレだ!!
しかし、そこには大きな誤算があった。
(・・・あれ? あいつ起きてね?)
そう、奴が目を覚ましていた。
それだけじゃない、俺が作った沼を凝視していた。
(嘘だろ・・・俺が準備している2ヶ月間、一度も目を覚さなかった癖に、なんでこんな時だけ目を覚ますんだよ)
俺はもう無理だと悟った。
せっかくここまで準備したが、流石に心が折れた。
俺は力なく穴の入り口の方へヨロヨロと歩いた。
もうこいつに立ち向かう手段はない。
ここで死ぬしかないだろう。
なら苦痛が一瞬で済む死を選ぶ。
俺は入り口の外に立ち奴に向かって叫んだ。
「さぁ、とくと食え、俺の肉は格別だ!!」
奴も俺の覚悟を理解してるのか、ゆっくりと近づいてくる。
俺は奴がここにくるまでの、短いようで長い時間の中で姉さんにお礼を言った。
(ありがとう、生かしてくれて。でも、ごめん。もうダメっぽい。助けてあげられない俺を許してください)
そして俺は奴を見た。
奴はゆっくりと俺の方へ来て・・・、沼に嵌った。
――なんでやねん!?
あんなに凝視してたのに。
お前の脳は1分以上前のことは記憶してくれないのか?
――ギョェェェ!!
奴は断末魔の叫びをあげながら、沼の中に消えていった。
しばらくして、俺のすぐ横に、大人のヒグマほどの大きさがある肉塊――奴の肉と思われる――といくらかの硬貨が現れた。
(この世界では、モンスターを倒すとドロップアイテムとお金に変換されるのか?)
そんなことを考えていると、いきなり抗えない睡魔に襲われた。
俺はそのままその場に倒れるように眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます