世界最強だけど我が道を行く!!

ダノ

一章 ダンジョンに飛ばされた!?

プロローグ

澄み渡る青い空の下。


遥か遠くに連なる山々。


一切の歪みすら見当たらない、鏡のような水面。




そんな圧倒的な自然の中、一点の異物――もとい1人の少年が湖の畔に座っていた。




黒髪碧眼の少し幼さが残る、優しげな顔のその少年は、手に持った竿から、光のように細い糸を湖へと垂らしていた。



「ふん♪ふふん♪」



竿の先を見つめて鼻歌を口ずさむその顔は、年相応にとても楽しそうな表情だ。



「今日は何が釣れるかなぁ」



そう呟く声に応える者はいない。


少年はそれを気にした様子もなく、竿先に神経を集中させている。




――ググッ!!




その時、竿に当たりがあった。



「ヒット!!」



少年は嬉しそうに声をあげ、すぐさま立ち上がり竿を持つ手に力を込める。


掛かったものがかなり大きいのか、竿はよく曲がっている。


「なんだろう・・・大物そうだぞ」


引きはしばらく続いたが、やがて少年が糸を巻けるようになった。


頭が上を向いたらしい。


しばらく巻き続けると掛かったものの姿が見えてきた。


水に映るその影は少年の背丈の何倍もあった。


そして水面から顔を現したのは、恐ろしく大きいワニのような怪物だった。



「んー、こいつか・・・前に釣ったやつよりは大きいかな」



しかし、怪物を前に少年は恐怖した様子はなく、むしろ警戒を弱めているようにも見えた。


少年はおもむろに竿を地面に置くと湖に入っていき、水面に顔を出している怪物の方へ歩いていく。




怪物の方もそれに気づき、奴の目が少年を捉えた。


獲物に向けるような目で貫く怪物の視線と少年の視線が交差する。


すると、少年はニヤリと笑い、一瞬、その姿がぶれた・・・


と思うと次の瞬間には、少年は怪物の真上に移動していた。


そして少年は、怪物の後頭部になんの変哲もないパンチを放った。


それと同時に怪物のいた場所にとてつもない衝撃が発生して、大きな水しぶきをあげた。




水しぶきによって遮られていた視界が晴れると、そこには水面に浮く怪物の死体と、それを軽々と引っ張りながら水の中を歩く少年の姿があった。



常人には、まるで理解できないことが起こっていた。


しかし、少年は不思議がる素振りもなく、まるでそれが普通であるかのような振る舞いをした。




――実際、彼には当たり前のことなのだ。




「今日も狙いは釣れなかったか・・・」



岸まで怪物の死体を運び上げた少年は、それを見て呟いた。


そのとき覗いた表情は、さっきまでの楽しそうな表情が嘘のように、ひどく寂しそうなものだった。




「・・・ん?」



刹那、少年の顔はまた年相応の好奇心に満ちた表情に戻った。



「・・・侵入者かな? こんな事はじめてだ」



そして、少年は『転移』と呟いてどこかに消えてしまった。


気づけば、先ほどまで転がっていた怪物の死体まで跡形もなく消えていた。

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