第32話 港での立ち話・・ 運命の車輪と水底の鎖の音

二人の魔物たちが 港で立ち話をしている者達を見ていた。

一人の修道士に・・それから


「人の良い修道僧さま ああ、優しすぎるから・・」シオン

「そうね、シオンちゃん ふふっ お気の毒な事」サラ


「悲運の運命の車輪の音がするよ

水底深くに 鎖で繋がれて、引きずり込まれる」シオン 

未来視、未来視をしながらシオン、彼の瞳が金色に異様に輝いている。


今度はサラが過去視する 修道僧の過去の出来事を視ている。

「愛した最愛の恋人・・引き裂かれた初恋、死んでしまった恋人も呼んでるから」

「黄泉の底で待っているから」サラが呟く


彼によく似た面立ちの綺麗な少女

サラの瞳が赤く煌めいて深紅、血の色に輝いた。


二人は修道僧の過去と未来の時間の出来事を視ていた。


一人の修道僧 以前、マルタ騎士団に一時在籍していたが

今は別の教会にその席を置いていた その彼は・・。


「ご無沙汰しております リラダン総長」

「やあ、久しぶりだ 元気そうで何よりだ リヒター君」


リラダン総長は偶然、マルタ島の港で再会した

修道僧リヒター・エルムスと嬉しそうに会話を交わす。


「最近はイスラム側に浚われた人々の身代金に見受け金を運んで

交渉していると聞くが・・」リラダン総長


「ええ、グランドマスター、リラダン総長様」


「北アフリカの港、チュニジアでは奴隷市場があり そこから

欧州、各地の寄進で集めたお金を持ち、私達の教会の職務として交渉しております」リヒターは微笑んで、そう話した。


「時にはエジプトなどの港近くでも・・交渉しているとかリヒター君?

それに奴隷商人だけでなく、危険な海賊相手も多いと聞いたが?」

表情を曇らせて心配そうな顔をするリラダン総長


「はい、リラダン総長さま その通りです」リヒター


「君は優しい男だ 情が深いから、辛い時も多いだろう?」

「・・・・」

沈黙、しばらくの間の後で、言葉を返す ゆっくりと言葉を紡ぐリヒター


「寄進で集まった資金は 全ての囚われた者達を買い受ける程の膨大な金額では

ありません・・グランドマスター、リラダン総長

マルタ騎士団が捕らえた人質、 その人質交換でも・・」リヒター


「我が騎士団もそちらの教会の応援はしてはいるが・・」


「有難うございます 

危険な場所にはマルタ騎士団の方々に警護までして頂いてます」


しばしの間の時間が流れた後で

「それでも、救えない者達の事を考えると辛いですね」リヒター


海風が吹く、カモメたちが鳴き声を上げて、白い翼で旋回しながら 

南の紺碧の空を舞っていた。


リヒター修道僧たちは 北アフリカと南イタリアの中間点に位置する

マルタ島で補給した商用のガレー船に相乗りの形で乗り込んでゆく


ただ、黙ってリラダン総長は彼等の無事を祈りながら、見送るのみ・・・。




21.11.21~11.22


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