第80話 小さな、おとうと

 生きてる…………


まだ


まだ、生きてる…………


もう、終わりと思った


誰かが、迎えに来た そして頭を優しく撫でられた


意識は白く白く 真っ白に……




   現実 髪を掴まれ、食材袋に放り込まれ気絶した。




 目が覚めた、夢なら 


いや、現実 はっきりと記憶している


スラムで小さな弟と、二人で遊んでいた


弟と共に捕まり、大きな箱に閉じ込められた


光が差した


ノコギリと大きな包丁を持った沢山の人に囲まれた


それから、痛みで意識を失い 痛みで意識を取り戻した


私が意識を取り戻し、目を開けるたびに


私と弟は身体の一部を失っていた。


最後に見たのは、弟の右手


手を伸ばした


ああ、 手を繋げた


いつも、手を繋いで 遊んだね 


いつも、手を繋いで 歩いたね


もう、繋ぐ手しか ないね



目を開けた 誰かが見ていた


私も見ている 


ああ、 まだ 手を繋いでいるね


いつも、一緒だよ





 意識が白から、黒に変わる


現実は黒い 薄暗い


薄暗い 視線の先には見慣れない天井


まだ生きている


左手で顔を撫でる


顔を上から下に


自分の暖かさを、手で感じながら


切り取られたはずの


鼻の下を撫でる


有る



冷たい 陶器のような冷たさ


叩く 


コンコン


「ハハ」


笑えた、声が出た


ああ 舌も有るんだ


「こ、こご、ごごは どご?」


上手く舌が動かない、言葉もうまく出ない


右手を動かす


上手く動かないないが、右手も有るようだ


上半身を起こす


どこかの部屋のようだ


綺麗で豪華な部屋だ


右手を、握る


有ったはずの、小さな手が無くなっている


涙が、溢れ


嗚咽を漏らした。




 部屋に照明がつき 明かりが襲ってくる


そして、


「どうだい、ゴーレムで体の欠損を補填したんだけど、痛みとかないかな 変態に付けた時は痛みとか無いって言ってたから 大丈夫と思うんだけど?」


私と同じ位の年の少年が語り掛けてきた


でも、言葉は入ってこない


語り掛けているのはわかるが、言葉を掴めない 


「痛くない?」



「はい、痛くないです」


少ない言葉に、頭が 理解が追いついた


少年は傍にきて、私の右手を手に取った。


「握ってみて」


わたしは、右手を握ろうとする 


ぎこちないけど、握れた


「開いて」


また ぎこちなく ゆっくりだけど 手が開けた


「うん、ちょと練習すれば、今までのように動けるようになるからね、安心して」


少年が優し言った。



「あ、あの………… 」


左手を差し出し、少年に見せた


「  返して、返して 手を 弟の手を   お願いします 」


また、涙と嗚咽が溢れ出した。



「あ、あれね!!」


差し出した左手を下から握られた


暖かい手 小さな手


視線を下に向けると


全身 白い陶器で出来た弟がいた


「お帰り、今日も可愛いね」



わたしは、白い陶器で出来た弟が、凄く可愛く見えた


わたしは、狂ったのだろうか?






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