1月18日 夏八木 蒼

 夏八木蒼は首を傾げた。

 プリンターから吐き出されたばかりの原稿の文字が、かすれている。

 慌てて、夏八木は印刷を一旦中止した。

 大学近くのリサイクルショップで買った中古品だから、最初の一枚、二枚にかすれがでるのはよくあることだった。十枚以上も印刷したところにできるのは、普通ではない。

 インク残量が残りわずかになったことを知らせるメッセージは出ていない。ヘッドクリーニングをして試し刷りをしたが、かすれは消えない。もう一枚、プリントしたところで黒のインクが減っている、とウィンドウが開いた。

 インクカートリッジを交換すると、純正品ではありませんと警告文が出る。

「わかってんだよ」

つい文句が出る。夏八木はいらいらしはじめた。

OKをクリックして、印刷しようとすると、プリンターがピーピーと騒ぎ出す。カートリッジが正しくセットされていないとメッセージが出ていた。

 プリンターの蓋を開いて確認するも、きちんとカートリッジははめられている。インクの出る穴をふさいでいる黄色いテープもはがした。その証拠にテープは目の前にある。

 機械だから接触不良かセンサーの不具合だろうと、一度、黒のカートリッジを取り外す。インクがこぼれないように注意して、少し揺らしてみる。

「こんなもんか」

 カートリッジに息を吹きかけてから、セットしなおす。

 それでもまだエラーメッセージが出る。

 くりかえされるピーピーという耳障りな音に、思わず夏八木はプリンターを叩いてしまった。

 ゴトッとなにかが落ちたような音がした。

「やべっ」

 顔色を変えて、夏八木は蓋を開けた。親指ほどの大きさの電子部品のようなものが見つかった。どこにはまっていたものかと調べるが、それらしい穴や接続部のようなところは見つからない。

「いくらすんのかなぁ」

 ぼやきながら、蓋を閉じたときだった。プリンターは印刷を開始した。

「よかったぁ」

 困惑しながらも、夏八木はガッツポーズをしていた。

 かすれは消えていなかったが、もう問題にしないことにした。

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