1月12日 白井冬至朗の日記



 夢を振り返る。断片的なビジョンだ。お腹を押さえて、アオが倒れている。タートルネックのセーターが血でにじんで変色している。オレは、というかたぶんオレだと思うのだが、とにかく夢の目線では、救急車を呼ぼうとして電話を探す。オレなら自分のケータイでかけるから、もしかしたら、オレではない別の人間なのかもしれない。これもおかしな話だ。誰かの見る映像が、まったく関係ない他人であるオレの脳内に送り込まれるなら、テレパシーみたいなものだ。もしかしたら、オレやおばは受信機というか受像機というか、ようするにテレビみたいなものなのかもしれない。予知夢を見られる能力者が、自分一人では助けられないときには、夢を念で飛ばすのだ。オレやおばのようなアンテナを持っている人間がキャッチする。そして、周囲の人に警告するなり、なんらかの予防策を講じるなどして、運命にあらがうのだ。部屋の様子はどうだろう。アオの部屋ならば、31日にアオを部屋から連れ出して別の場所にいさせればいい。タイムスリップものでよくあるみたいに、多少、行動を変えさせたところで元通りの運命に近づけようとする修正する作用みたいなものが働くのかもしれないが、そんなことを言い始めたら、オレがやろうとしていることはまったくのムダになる。信じてやるしかない。電話は見つからないし、部屋の様子もよく思い出せないが、床にカレンダーと黄色いボタンのようなものが落ちていたのは覚えている。カレンダーは日めくりで、31という数字がでかでかと書かれていた。31の下に横書きでなにか短い言葉があったはずだ。格言やことわざみたいなものだろう。それがなにかは思い出せない。結局、119番したかどうかはわからない。夢はぶつっと途切れ、次のビジョンにうつったからだ。それは新聞記事だ。蒼の死亡を伝えるものだ。新聞さえなければ、アオは刺されたが一命をとりとめたという都合のいい解釈もできるが、新聞が誤報というありえない展開でもないかぎり、アオの死は事実ということになる。今日は長くなった。疲れた。寝る。寝れそうにないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る