黒の誘惑と白への回帰 -悪(女幹部)と善(女隊員)の立場交換-
嵐山之鬼子(KCA)
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執拗な調査の末、ついに浄魔部隊エクサイザーズの秘密基地を突き止めた、悪の組織DUSTYの女幹部サブキュース。
しかし、近頃失態続きで功を焦った彼女は、組織に知らせず単身エクサイザーズの基地に潜入しようとして失敗。基地近くの採石場に追い込まれてしまった。
それでも幹部の意地を見せ、サブキュースはパールストームを気絶させ、捨て身の攻撃によってサファイアオーシャンとトパーズガイアまでも負傷で戦闘不能状態に追い込む。
しかし、奮戦もそこまで。満身創痍に近くエネルギーも枯渇した状態では、唯一軽傷で残ったエクサイザーズのリーダー、ルビーフレイムとの戦いに勝ち目はなかった……。
「これで終わりだ! エクソイズム・バースト・フルドライブ!!」
生身でも剣道のインターハイで個人優勝した経験を持つフレイムが、化焔剣レイヴァーテンを振り下ろすと、剣から龍の形をした炎が噴出し、螺旋を描くような軌跡でサブキュースを取り囲み、襲いかかる。
「きゃああああああぁぁぁーーーーーっ!!」
豊満な若い女性ではあるが、いかにもな黒いコスチュームとアーマーを着て、毒々しいメイクを施したケバい印象の女幹部は、意外に可愛らしい悲鳴をあげて、ついに大地に斃れた。
「グッ……やった……か?」
負傷自体は軽いとは言え、全エネルギーを放出する必殺技を出した直後だけに、全身に力が入らず、フレイムは片膝をついた。
「いやリーダー、それ負けフラグだから」
どんな時も軽口を忘れないオーシャンが膝をついたままツッコミを入れるが、幸いにしてサブキュースが「今のはちょっと痛かったわね」などと起き上がることはなかった。
「勝ったんですね、私たち……」
その事実が信じられないように、ポツリと呟くガイア。
当然だろう。DUSTYのサブキュースと言えば、実力はもちろん、搦め手からの嫌な作戦で散々彼らを手こずらせて来たのだ。
あるいは伏兵でも……と思ったが、周囲に敵が潜んでいる様子もない。
「ったたたぁ~、よくもやってくれたわね、オバさん──って、あれ?」
ようやく、「勝った」という実感を3人が噛み締めているところで、気絶していた4人目の仲間も目を覚ましたようだ。
「ストーム、お前なぁ……」
「こら、おちゃらけ男! あたしのことはパールちゃんって呼べって言ってるでしょ!!」
他の3人は変身中はコードネームの下半分を略称として呼び合っているのだが、パールストームだけは、「ストームなんて可愛くないから」という理由で、「パール」と呼ばせたがっているのだ。
ちなみに、フレイムとオーシャンが男性、ガイアと「パール」が女性である。
「さて、サポート班を呼んで、俺達は基地に帰るか」
周囲に敵の気配がないことを確認したうえで、4人はexスーツのアクティブモードを解除し、パッシブモードに切り替える。
これは、いわゆる「変身」を解いてブレスレットを着けただけの状態で、一見生身の時と変わりなく見えるが、負傷や疲労が通常の10倍から100倍近い速度で治っていくのだ。
また、耐久力自体もある程度強化されているため、時速60キロで走る車にはね飛ばされても「イタタタ」と呻く程度でケロリと立ち上がれるというチートぶりだ。
これのおかげで、4人は半年間にもわたるDUSTYとの激しい戦いにも耐え抜いてこれたのだ。
実際、数分前までは立つことすらおぼつかなかったオーシャンとガイアが、互いに支え合うようにしてだが、ゆっくり歩くことができるくらいには回復しているのだから。
「……ぅぅっ……」
いざ、4人が帰ろうとしたところで、フレイム──穂村憲一の耳が小さな呻き声を耳にした。
「! まさか!?」
すでに戦闘でのダメージが半分以上回復した憲一は、注意深く、サブキュースの死骸へと駆け寄る。
いや、それは「死骸」ではなかった。全身をエクソイズム・バーストの高温の炎に灼かれながらも、この女幹部はかろうじで生きていたのだ。
「あー、このオバさん、まだシブとく生きてたんだ。よーし、あたしがトドメを「よせっ!」……えっ!?」
パール──珠城真奈実がブレスレットから彼女の武器である銃を出したところで、フレイムが制止する。
「どうするんだ、リーダー?」
「──捕虜として基地に連れて帰ろう。俺たちは、DUSTYのような無法者集団じゃない。敵とは言え、重傷で戦闘能力を無くした者をいたぶり殺すような真似はするべきじゃない。
それに、こいつは幹部だ。基地で武装解除したのち、尋問で重要情報を聞き出せるかもしれない」
オーシャンこと蒼木洋の問いに対して、数秒の葛藤の後、憲一が下した決断に、他の3人も(真奈実は不満そうだったが)従う。
なぜなら、DUSTYに肉親を殺された憲一は、かの組織を他の誰よりも強く憎んでいることを知っていたからだ。
その彼が、私情を抑えて、エクサイザーズのリーダーとしてとるべき道を選ぶというのに、どうして異議を唱えられるだろう。
幸いと言うべきか、サブキュースは、ほぼ完全に意識を失い、また負傷と戦闘服の損傷のために戦闘能力はほぼ残っていないようだ。
それでも背負うのは首を絞められるなどの危険がある、ということで、いちばん余力のある憲一が彼女を両手に抱き上げて、基地に運ぶこととなった。
憲一の左右で、洋とガイア──土萌英美は、女幹部の様子が暴れたりしないか、注視しつつ足を進めている。
(チッ、なによ、あのオバさん、ムカつく!)
密かにフレイムに憧れている真奈実としては、まるで「お姫様だっこ」されてるように見えるその体勢が羨ましくで仕方がない。
腹立ち紛れに足元の石を蹴り飛ばしたつもりだったのだが……。
「あら、これは……?」
それが大粒の赤い宝石が嵌った指輪であることに気づき、拾い上げる。
色味が紅玉(ルビー)のような明るいものではなく、やや暗めの赤なので、おそらくは柘榴石(ガーネット)なのだろう。
(そう言えば、あのサブキュースとか言うオバさん、ジャラジャラ沢山指輪してたっけ)
彼女は、それらの指輪にはまった宝石を使って様々な大規模な術を行使することを得意としていたようだ。
もっとも、宝石は1度使うと消費してしまうようで、最近はその数が大分減っていたのだが……。
(! なら、ここでコレをあたしが貰っちゃっても、わかんないよね?)
普段なら、少々問題児な彼女も、さすがにそんな事はしないのだが、魔がさしたと言うのだろうか、自分でも理解できないイライラと衝動に突き動かされて、ついそんな考えに至ってしまう。
(どうせ没収されるくらいなら……)
「おーい、何やってんだストーム、行くぞ!」
「だから、あたしをストームと呼ぶなぁ!!」
反射的に言い返しながら、真奈実はポケットにその指輪を突っ込むと、仲間を追って走り出した。
──ほんの一瞬、指輪に嵌められた宝石が鈍く光ったことに気づかないまま。
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