第9話 破壊-(9)

「親父、何しに来たんだよ」

 

 ユキムラは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 男の名は火伏マサユキ。ユキムラの父親であり、村随一の嫌われ者だ。


「何しにって、偶々たまたま通りがかっただけだ」

「そうかよ」

「あー? なんだ。文句あんのか?」

「別に」


 特別、文句は無かった。

 ただ、自分のせいで家族がどんな目に遭っているのか欠片も想像せず、飄々と生きている姿を見て、虫唾が走っただけである。


「まあ、いいや。んで、姉ちゃん。この剣、もっとよく見てみろ」

「見てみろっていわれても……普通の剣だとしか……」


 女の帰天師は半信半疑ながらも、目を凝らして観察する。

 すると、何かを見つけたみたいで、はっと目を見開いた。


「『音』がする。凄く小さいけど。これってつまり……」

「ああ。この剣の中に『禍神』がいる」

 

 瞬間、空気が凍り付く。

 動揺する三人を一瞥し、ぐびりと酒を喉に押し込むと、マサユキは淡々と話を続けた。


「今は封印されてるからこの大きさだが、実際はもっと大きい音が鳴るはずだ。つまり、それだけ強い禍神ってことになる」

 

 ユキムラは首を傾げた。


「さっきから当然のように言ってるけど、『音』ってなんの音だよ」


 耐えかね、疑問を呈す。

 マサユキに尋ねたつもりだったが、当の本人は面倒がり、おし黙ってしまった。代わりに、女の帰天師が答えてくれる。


「帰天師ってのは禍神の心臓の音を聴くことが出来るの。奴らの心音は特別でね。普通の人だったらまず聴こえない」


 そうなのか、とユキムラは得心した。

 帰天師が正確に禍神の位置を把握できるのも、その心音が聴こえるからなのだろう。

 鎭の剣から、禍神の心臓の音がする。非常に嫌な予感がした。

 女の帰天師は神妙な面持ちで話題を戻し、


「とにかく。たしかに、わざわざ封印されるのは凶悪だからでしょうけど……」

「ああ。だから、この剣、早く何とかしたほうがいい」

「……この封印で状態が安定しているなら、下手に動かさない方がいいと思いますよ。現に千年は持っているんですよね?」

「千年持ったからといって、明日封印が解ける可能性は充分にある。永遠に閉じ込めておける代物でもないだろう」

「そ、それは……」

 

 女帰天師はたじろいだ。

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