第15話

 ◆


「祭りじゃああああああ!」


 どこからか、そんな素っ頓狂な声が聞こえてくる。

 それはどうやら約半年ぶりに鉄火場と化したパチンコMEGAZ異世界店の店内にて、とある客が上げた叫び声らしかった。


「ガーヴィンのおっさん。調子はどうだい? って、聞くまでもねえか。馬鹿みてえに出しまくってんじゃねえか」

「そういうゴンズこそどんな調子なんだい?」

「ふっ。今のところ順調そのものよ。今日はパチスロ全機種が甘めみてえだが、中でもエイリアンゲームのシマが大当たりだな。軍団のやつが何人か虹トロを出してるし、ありゃあエイリアンゲームが全6だぜ。ほかのシマも低設定は一切使ってないみたいだしよお」

「そうかい。そりゃあ結構なこった。ただまあ、あまり派手に立ち回らないようにな。調子に乗って一般客から睨まれると、ピートン様の覚えまで悪くなっちまうぞ」

「わかってらあ。普段から同じ大当たりのシマを軍団内で独占しないように気を付けてるんだ。っても、今のうちに多少稼がせてもらわないとな。このイベントは2週間しか開催しないってよ。そのあと、どうなるかが心配でな」

「そりゃまあ、ずっとこんなお祭り状態ってこともねえだろうが、先週までみたいな状態に戻ることもねえだろ。なんせモーリー様が帰ってきてくださったんだからよ」

「だな。まじで助かったぜ。というか、モーリー様々よ。客の大半が大勝ちしてるんじゃないか?」

「噂を聞きつけたやつもやってきてるみたいだしな。久々じゃないか? こんなにも活気があるのは」


 感謝還元出血大サービスデーと銘打っているだけあって、ほとんどの客が勝っている様子。

 そのせいで肉屋のミルトンなんか仕事を休んでまでパチンコを打ちにきていたし、ここしばらく姿を見せなかった者もちらほらと見かけるほど。

 皆が皆、このビッグウェーブに乗り遅れてはたまらんと、我先にパチンコMEGAZ異世界店へ足を運んでいる様子だった。


「おうよ。それじゃあ、俺はちょっくら稼いでくるからよ。おっさんも頑張ってな」


 それだけ話し終えると、笑顔のまま自分の席へ戻っていくゴンズ。

 ゴンズだけじゃない。

 パチンコMEGAZ異世界店の店内はいつになく客の笑顔で溢れかえっていた。


 ◆


「この痴れ者がっ! 勝手な真似をしおって」


 アドミラール伯爵の居城であるセドリック城の一室では、そんな怒号が飛んでいた。

 その場にはアドミラール伯爵のほか、騎士団長であるヴォルクス、そしてアドミラール伯爵の子供であるケイラの姿があった。


「も、申し訳ありません。で、ですが、これもすべて父上のためになると思い……」

「左様な真似をしろと、このワシが一度でも指示したか?」

「い、いえ……」

「お主には人目を惹かぬよう、ひっそりと暮らしておれと申し渡したはず。それがお主への慈悲からくるものだとまだわからんのか?」

「わかっております。ただ、私は少しでも父上のお力になれればと……」

「放蕩の末、どこぞの娼婦から奇妙な呪をかけられるなど、アドミラール家の恥晒しも良いところ。お主の母親であるイリーナが泣いてすがってきおったので、これまで大目に見てきたが、ワシの言い付けすら守らぬとはな。お主をアドミラール家の籍から外し、放逐処分とする」


 この世界、いや特にアドミラール伯爵はというべきか。

 親子の間の情は薄い。

 嫡男であろうが無能な子息に対しては厳しい扱いをする貴族も少なくない。

 実際にはケイラの放蕩癖のせいではなく、アドミラール伯爵のとばっちりをケイラが食らっただけの話だったが、どのみちそんなことは関係なかっただろう。

 むろん長子相続が貴族の基本であり、滅多なことで長男が放逐されることにはならなかったが、ひとたび邪魔になるとみるや、その者の存在を初めからなかったことにするケースすらこの世界では見受けられた。


「お、お待ちを! 父上!」 

「黙れッ! もう話すことはない。荷物を整え、どこへなりとも行くが良かろう」


 ヴォルクスからの報告をろくに聞かぬままケイラのことを呼びに行かせたため、どういう経緯でそうなったのかもアドミラール伯爵は知らない様子だった。

 そもそも経緯を聞く必要すら感じていなかったのかも知れない。

 ケイラのことをアドミラール伯爵がとっくに見限っていたからだ。

 跡継ぎの代わりなら愛妾に産ませた子供が何人か居る。もしそのことにイリーナが納得しないようであれば、イリーナにまた男児を産ませても良い。

 そんな考えを固めたところに、今回の報告が飛び込んできたのだ。

 役立たずというだけならまだしも勝手な真似をする子供に対する愛情など、アドミラール伯爵はこれっぽっちも持ち合わせていない様子だった。

 

 ケイラとしては父親であるアドミラール伯爵の思惑と自分の思惑が合致するだろうと考え、行動したまでのこと。

 実際にそれは間違っていない。

 が、アドミラール伯爵のほうはケイラに冷たく言い放っただけで、まるで聞く耳を持とうとしなかった。

 

「わ、わたしがあの金城勇という若者を籠絡し、父上の操り人形に致します。必ずやお役に立ちますゆえ、何卒ご寛恕かんじょのほどを……」

「ん? 何を申しておるのだ? お主があやつを籠絡する……だと?」

「あの若者は私に対して色目を使っておりました。おそらく女であるこの私の容姿に惹かれたのでしょう。ヴォルクスもその現場を見ていたので、尋ねてみて下さい」


 アドミラール伯爵がヴォルクスのほうをちらりと見やったあと、ふんっと鼻を鳴らす。

 

「自分の身体を使ってあの勇者を手懐けるというのか? お主、男としての矜持も忘れたのか?」

「これもすべてアドミラール家のためなれば」


 悲壮なまでのケイラの決意を聞き、アドミラール伯爵が逡巡を見せる。

 許す気になったわけではない。

 とはいえ、金城勇にはどうせ女を宛てがおうと思っていたのだ。

 ケイラ、いや息子であるケインがその役目を率先して担うというのならばちょうど良い。

 勇者が偽物なら一緒に切り捨てれば済む話だし、本物なら身内として取り込めることになる。

 そう考え直したアドミラール伯爵が鷹揚に、そして尊大に尋ねる。


「本当に籠絡出来るのだな?」

「お任せください」

「よかろう。だが、母親がイリーナであることを口にすることは許さん。近々、あの勇者を王都エルシアードへ連れていくつもりでいる。当然そばに居るお主の素性も周囲の人間から尋ねられよう」

「くっ……」

「そうだな。お主はワシが気まぐれに手を出したメイドから生まれた庶子。万が一周囲の人間から出自を尋ねられたらそう名乗っておけ」

「わかりました」


 ほんの一瞬ピクリと頬を引き攣らせたケイラだったが、すぐさまその表情を従順そうな仮面の中へと隠す。

 だが、深々と下げた頭の下では、父親への憎悪とも冷笑ともつかない複雑な表情がいまだ見え隠れしていた。


 ◇


「椎名。ひとりで前に出過ぎよ。そんなに離れるといざってときに範囲魔法が届かなくなるわ」

「だ、大丈夫。穂乃果はそっちの敵に集中していいから。こっちの5匹は私に任せといて!!」


 俗悪ダンジョンの地下6階層。

 椎名と穂乃果のふたりの鍛錬を始めてから半月ちょっと。

 全10階層である俗悪ダンジョンの中間地点を折り返したところまでふたりは来ていた。

 休日は設けているが、ほぼ連日のように俗悪ダンジョンに通っているおかげでふたりもようやく冒険者らしくなりかけている。


 ふたりとも現在レベル5。

 何故ふたりのレベルの上がり方が遅かったのか、ここにきて俺もようやくわかってきた。

 最終的には何とか上級ダンジョンをひとりで攻略できるレベルだとヨグくんは言っていたはず。 

 それにしてはレベルの上がり方がやけに遅いと思っていたのだ。

 こんなペースではとてもじゃないが3年以内に上級ダンジョンを攻略するのなんて無理にもほどがあるだろう、と。

 何のことはない。

 椎名や穂乃果はレベル1から2にかかった期間と、2から3にかかった期間がほとんど同じだったのだ。

 通常の冒険者ならレベル1から2は3日、レベル2から3へは1週間といった感じに倍々方式でレベルが上がりにくくなっていくのに対し、ふたりは1日2日ほど期間が延びた程度。

 その差が、レベル5にもなってくるとかなり顕著になっていた。

 最初はレベルが上がりにくいが、レベルが高くなっても次のレベルになるのにそれほど苦労しないってわけだ。

 むろん戦闘効率が良くなったり、下層の敵を相手にするようになったことで得られる経験値が多くなっている面もなくはないのだが。

 いずれにせよ、これがヨグくんが勇者に与えたチートってことなんだろう。


 この分なら元々の身体能力の低さや、魔力量の乏しさも問題にならないはず。

 残るは戦闘経験のほうだ。

 6階層の主な敵はハンティングウルフという狼型の魔物。

 1匹1匹はそこまで強くはないものの、常時5匹から10匹ほどの群れをなして行動する習性があるため、対複数の戦闘経験を積むにはうってつけの狩り場だと言って良かった。


 相変わらず古代魔導士のローブの下はパチンコMEGAZ異世界店の制服という露出度の高い格好だったが、最近は制服をボロボロにすることもない。

 戦闘にもだいぶ慣れてきた様子で、俺がこうして見守っていなくてもおおむね問題なさそうな感じだ。

 ただし、新たな問題点も見えてきた。

 ふたりとも魔法職なのでパーティーとしてのバランスが悪いところだ。

 勇者のギフトが規格外なのでそれでも今は何とかなっているが、ヨグくんとしては勇者たちがある程度協力することを前提としたバランス構成のはず。

 今後もこのままふたりだけでというわけにはいかないのかも知れない。

 男はざまあ要因だなんてふざけたことを言っていたが、さすがにその言葉を鵜呑みにすることもできない。

 ヨグくんがほかの勇者の面倒まで俺に押し付ようとしているのは最初から薄々気付いていたことだった。


「そこだー。いいぞ。やっちまえー」


 だが、残りの勇者がどこに居るのかまだわかっていない。


「ちぇっ、今のは惜しかったかも……。あともうちょっとでやれたのに」


 男でも女でもいいので、残りの勇者と合流して戦わせるべきなのかも知れない。


「そう、そこだよ。後ろに周りこんで、こう思いっきりガブッと」

「ナビ、戦闘中にうるさいわよ。そうやって周りをブンブン飛ばれていたら気になって集中できないわ。だいたいあなた、どっちの応援をしてんのよ」

「そんなもの当然まも……やだわ、椎名たちの応援に決まってるじゃない。こうして敵を応援するふりをしながらあなたたちにハッパをかけてるのよ」

「あんたねえ――キャッ!」


 と、戦闘中ラビに気を取られたせいで、椎名は1匹のハンティングウルフに足首へと噛みつかれ、その場に引きずり倒されていた。


「まったく……。何をやってるんだ」


 ようやく冒険者らしくなってきたと褒めたそばからこれだ。

 古代魔導士のローブのおかげで重大な怪我をしないせいでもあるのだが、まだまだ緊張感が足りない様子。

 穂乃果は穂乃果で自分のほうに向かってきた3匹のハンティングウルフを相手取ることに精一杯の様子で、椎名のピンチにも気付いていないようだった。


「ギャンッ!」


 一瞬で椎名の元へと駆け付けた俺はハンティングウルフを足で蹴り上げる。


「戦闘中によそ見するなとあれほど教えただろ?」

「だって、ナビがあまりにも五月蝿かったんだもん」

「どんな状況でも冷静に対処できるようにならなければ、この先苦戦することになるぞ」

「わ、わかってる。反省するわ」


 さすがに今のはマズかったと思ったのか、倒れ込んだままシュンと項垂れる椎名。


「立てるか?」

「ごめん。どうやら倒れたときに足首を捻ったみたい。穂乃果に治療してもらわないと無理かも……」

「仕方ない。今日はここまでにする。帰ったら説教だからな」

「きゃっ」


 椎名の身体の下に腕を差し入れ、抱き抱える。

 そんな俺の行動に一瞬驚いた様子だったが、顔を真っ赤にしながらそのまま抱き着いてくる椎名の姿があった。

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パチンコMEGAZ異世界店へようこそ(宇宙人のゲーム2) 四葉八朔 @sibahassaku

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