第73話 長い一日

 南門を出て、シーダンに乗って進む。検問所が見えなくなるとシーダンから降りた。


「ふう~。ジーク、終わったね」

「ああ、ミーチェ」


 私は、影から出て来たルシーとノアールに向かって、深々と頭を下げた。


「ルシー、ノアール、助けてくれて、本当にありがとうございました。お陰で、無事にジークに会えました」


 ルシーは、私に優しく微笑んで言う。


「ミーチェ、そのように頭を下げなくとも良いぞ。お前の手料理を、ご馳走してくれ。それで、十分だからな。フフ」

『ミャ~オ!(主の言う通り~。ミーチェのご飯が1番だよ~!)』

「僕もお礼を言わないとね。2人とも、ミーチェと僕を守ってくれてありがとう」


 ルシーは、ニヤリと笑ってジークに言った。


「ミーチェの番よ。食事にカニの刺身が出たら、お前の分の1本を礼にくれればいいぞ」

『ミャ~オ!(主、いいな~。僕も欲しいよ~!)』

「な、何だって! 仕方ないな……、1本ずつだよ……」


 ルシー……それは、今夜の食事にカニの刺身を出せと遠回しに言っているのね……ジークも、カニの刺身1本でそんなに『苦渋の決断』みたいな顔しないで……



 <獣王都>から、少し離れた森の近くで野営の準備をした。今日は、お昼を食べそこなったので、お腹が空いてペコペコです。早いですが、気合を入れて夕食を作り始める。


「さて、作ろう~!」


 ルシーからリクエストを受けたので、カニの刺身と焼きガニ、焼き肉を準備しました。サラダと具沢山シチューも作る。はっ! クラーケンもあるんだった! 甘辛く炒めよう~。そして、頑張ってプリンも作りました。みんなの喜ぶ顔が目に浮かぶ~。ふふふ。


「ミーチェ、手伝うよ」


 ジークは、シーダンの世話が終わり、配膳を手伝ってくれる。ルシーとノアールは既に席に着いて待っています。早い……


『ニャ~ン(ミーチェ、いつでもいいよ~)』

「フフ。何が出て来るか、楽しみだな」


 ノアール、急かさないでね~。ルシー、カニの刺身って希望したでしょう……


「お待たせしました~。みんな、ありがとう。たくさん作ったから食べてね」

「うむ、カニの刺身があるな! ジークよ、1本貰ってやるぞ」

『ニャ~ン!(僕も欲しい~!)』

「うん……ルシー、ノアール、ミーチェを守ってくれてありがとう」


 ジークは、少し悲しそうな顔をして、ルシーとノアールにカニの刺身を1本ずつ渡した。


「うむ。ミーチェの番よ、いつでも頼るが良い」

『ニャ~ン! ゴロゴロ……(ジークありがとう~!ゴロゴロ……)』


 みんな、目を輝かせて美味しそうに食べてくれます。こっそりと、私の分のカニの刺身をジークに渡す。ジークが目を見開き、凄く嬉しそうに私を見る。ふふふ。


「ミーチェ、このタレに絡んだ歯応えのある肉は何? 凄く美味しい! もぐもぐ……」

「あぁ、それはね、クラーケンの甘辛炒めよ~。船で手に入ったのよ。ふふ」

「何!ミーチェ、あのクラーケンがこんなに美味いのか!」

『ニャ~ン! ゴロゴロ……(美味しいね~!ゴロゴロ……)』


 そうなのよ! クラーケンがこんなに美味しいとは……硬すぎず、とても甘くて食べ応えがあるんです。


「ねぇ、ミーチェ。そのクラーケンの話、後で聞かせてね。もぐもぐ……」

「うん、聞いてね」


 イケメンと美形と可愛い……みんな美味しそうに食べていて、見ているだけで癒される。今日の疲れが飛んで行きそうです。


「みんな、デザートにプリンを作ったの。食べられる?」

「えっ! ミーチェ、プリンまで作ったの!?」

『ニャ~!! (プリンだって~!!)』


 ジークとノアールは大喜びです。ふふふ。


「プリンとは、何だ?」


 ああ。ルシーは、まだ食べたことなかったね。みんなに、お皿に乗せたプリンを渡す。


「どうぞ、召し上がれ。ふふ」


 疲れた後の甘い物は、格別なのよね~。パクッ!


「「美味しい~!」」


 ジークと目が合い、微笑みあう。ふふ。


『ニャ~ン! ゴロゴロ……(ミーチェ、美味しいよ~!ゴロゴロ……)』

「これがプリンか。これは!? 甘くて美味いな……」


 みんなで、お腹一杯食べました。


「ミーチェ、美味しかったぞ。いつでも私を呼ぶと良い」 

『ニャ~ン!(ミーチェ、ジーク、おやすみ~!)』


 ルシーとノアールは、ご機嫌で帰って行きました。



 とても、長い一日でした。



 テントの中で、久しぶりにジークと2人。ソファーで、ジークの膝に乗せられて、ジークが攫われてからの話をした。


 ノアールのことやルシーが付き添ってくれたこと、船がクラーケンに襲われた時のこと、シーダンがゴブリンを倒す話やルシーが女獣人にモテモテだったことなど話した。ジークは、興味深そうに聞いていた。


「ねぇミーチェ、次は何処に行こうか?」

「そうね~。ジーク、きっと私達は、お尋ね者になるから<獣王国>にはいられないよ」

「じゃぁ、<西の共和国>に行こうか。それとも、特上カニ身を取りに<港街オース>に戻るかい?」


 う~ん、両方興味がある!知らない世界も気になるし、特上カニ身も在庫が少なくなってきたしね~。


「う~ん。どっちも捨てがたいわね……」


 考えている私を、ジークは愛おしそうに見つめる……


「ねぇ、ミーチェ……」

「うん? 何? ジーク」


 ジークは、私を抱きしめて耳元で囁く……


「追いかけて来てくれありがとう……凄く、嬉しかったよ」

「う、うん……」


 ドキッ!うぅっ、ジーク……、私は耳元で囁かれるのが弱いのよ……


 そして、ジークは首にキスをしていく……あぁっ、首もダメなのよ~。ドキドキしてきて、頬が熱くなるのが分かる……


「ねえ、ミーチェ。一緒にお風呂に入ろうか?」


 ぐうっほー! ジークの痛恨の一撃! 一気にHPが……、顔が真っ赤になったのが分かる。瀕死の私……


「ぐぅっ、ジ、ジーク、恥ずかしくて一緒にお風呂になんて入れない……ご、ごめん……」


 ジークは、私の様子を愛おしそうに見つめている。


「クスクス。ミーチェ、顔が真っ赤だよ。本当に可愛いね」


 ジークのせいでしょ……


「ジーク、からかったのね!?」


 ジークは、私の顔を覗き込んで優しく呟く……


「ねぇ、ミーチェ。大好きだよ……」

「うぅ……ジーク、私も大す……うぐっ」


 ジークは、最後まで言わせず唇を塞いだ……




 この幸せな時間が、続きますように……








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※この話で、第4章の終わりになります。次の「終章」第74話で完結です。





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